第34鑑定 喪失
ゼノたちが家に近づいて最初に見えた異変は、煙と匂いだった。
次いで炎が見えてきた。
「火事?」
ゼノの言葉通り、自分たちの家が燃え尽きていた。
「また家なくなっちゃったね」
ポイポリと頭の後ろを掻くゼノに対して、ミラーがピョンピョン怒る。
「一体どこのどいつの仕業だよ!」
「そんなの聞かなくとも分かるだろう」
静かにアッシュが言う。
「ローレル王国の軍隊だ」
アッシュの言葉をまるで聞いていたかのように、物陰から軍隊の大軍が現れた。
「これはこれはお久しぶりです」
以前顔を見せた小男が深々とお辞儀をする。
「先日は大変お世話になりました」
お辞儀をしたまま視線をゼノに向ける。
まるで、周囲の魔道具など存在しないかのように。
「本日私たちが足を運びましたのは、貴殿を連行するためにございます」
小男がその目を細める。
「もしも抵抗すると言うのであれば、強制的に連行致しますがいかがなさいますか?」
その言葉と共に兵隊が銃や手に持った魔道具を構えた。
「まぁもっとも。そのガラクタで抵抗できるとは思えませんがね?」
周りの兵士が嘲笑う。
「攻撃対象捕捉。超火力モードに切り替えます」
アイリスが一歩前に進み出る。
「全員呪ってやるよ」
シャルロットの周りは不気味な黒いオーラで覆われた。
「パパ! 逃げるでしゅ!」
ミルクも前に進み出て、他の魔道具もそれに倣う。
しかし――
「無駄じゃ」
不気味な老人が前に進み出ると、全ての魔導具の動きが止まった。
「当初の私は貴殿を迎え入れろという任務を受けました。しかし今回は違います。この者の力は、本来命がない物体の動きを止めるというもの。これがどういう意味かお分かりかな?」
小男がツカツカとアイリスの傍まで歩み寄る。
そのままその手を掴み――
「アイリス!」
ゼノが叫ぶも小男がいとも簡単にアイリスの腕を引きちぎった。
「最初からこうしていればよかった……」
その腕を傍らに捨て、反対の手を掴む。
「やめろ!」
ゼノが走り出すのを、周囲の衛兵が止めた。
「ゼノ!」
アッシュが腰の剣に手をかけると――
「おっと。そんなものを抜いてしまったら、こちらもただでは済みませんぞ? 元ギルド長」
衛兵が様々な魔道具を見せつける。
「その老人の力……対象を選べるというのか……」
アッシュが歯噛みする。
「実に効率的でしょ?」
小男がニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべる。
「さて……貴殿には2つの選択肢がある。首を縦に振って我々の指示に従うか、ここのガラクタを破壊された後で無理やり連行されるかだ」
「バカな! そんなもの。ゼノに選べるわけがなかろうが」
「魔道具が大事ならば、我々に素直に従うべきでは?」
チラリと小男がゼノの方を見る。
ゼノは無言で頷き、両手を前に出した。
「ゼノ! そんなことをしてもこいつらは喜ばんぞ!」
「ごめんなさいアッシュさん……それでも僕は、この娘たちを傷つけたくないんです……」
ゼノとアッシュは能力が使えなくなる特殊な腕輪を嵌められた。
「これはとある国の技術です。技術はいくつあってもよい」
小男がアッシュに言う。
「クズどもが……」
アッシュがミラーを見てから小男を見る。
「こいつらをただの魔道具としてしか見れんのか!」
「元ギルド長ともあろうお方がおかしなことを言う。魔道具は魔道具ですよ? それ以上でも以下でもない。そして我々人間は、その魔道具を使ってあげているのです。そんなんだから国を追放されるのですよ」
ふふふ。と小男がアッシュを小バカにしたように笑う。
「使ってあげる? 使ってあげるだと? 助けて貰ってるの間違いだろ!」
ゼノが叫ぶのを周りの衛兵が抑え込む。
そのままゼノは、地面に組み伏せられた。
「あぁ……そうそう」
小男が無様に地面に押さえつけられているゼノを見ながら言う。
「このガラクタの中に裏切者がいるとか」
そう言ってミルクの方を見る。
「え? ちょっと?」
ゼノが止める間もなく――
パリン。
「これでよし」
「ヒヒヒ。ワシの力の凄いところは、動きを止められた魔道具にしっかりと意識があるというところだ」
そう言いながら、消えかけていた火に油を注いだ。
「意識もあれば痛みや視力や聴力も正常に働いておる。さぁ、この道具どもに絶望を与えるとするかのう」
ゼノとアッシュはローレル王国へと連行された。
残された家族たちは、自分達を囲っている火を見つめることしかできなかった……
●
「むほほ! ふほほ! いよぉーし!」
玉座で涎を垂らしながら国王は、ミルクが破壊されて魔道具たちが炎に包まれていく様を見ていた。
セラは目を背けたいのに、命令で目を背けられないでいた。
「素晴らしいではないか! このまま貴様の目の前であの鑑定士を痛めつけてやろうではないか!」
『鑑定士様……』
「ほぅ? 道具のくせに感情を持ち合わせるか? あの鑑定士に何か力でも使われたか?」
セラのことを小バカにして嘲笑う。
久しぶりに自分の思い通りに事が進んでいて、国王は上機嫌だった。
数分後にはゼノを連行した軍が到着した。
そのまま玉座にゼノが連れてこられた。
「さて。虫けらよ。この魔道具を見てどう思う?」
「……ど、ど、どどうも……お、お、思いません……は、は、は早くか、か帰してください」
「まだ立場が分かっておらぬようだの」
国王が合図をすると、連行してきた衛兵がゼノを殴る。
「分かりやすく言おう。この魔道具を完全な形で復活させよ。それができるまで貴様は帰ることなどできぬ」
ゼノは何か言おうと顔を上げた。
そこで初めて国王の隣に誰がいるのかに気づいた。
「セラ!」
セラの目は虚ろで何も映していなかった。
以前は真っ白で美しかったその羽も、むしり取られたのかほとんど無かった。
体のあちこちに火傷の痕や怪我があった。
ゼノが走り出そうとするのを衛兵が止める。
「なんじゃ貴様。魔道具に名前なんぞつけておるのか?」
周囲の兵が大笑いする。
「噂通りのイカれっぷりじゃな。それはまぁいい。だが儂の持ち物にまで勝手に名前を付けるのはどういうことだ?」
一瞬にして広間から笑い声が消えた。
シンと静まり返った玉座で、王の顔が赤くなる。
「儂の物を奪おうとでもいうのか?」
セラがゼノの方を見る。
相変わらずその目は虚ろだった。
「これは!」
国王がセラを叩く。
「儂の物だ!」
「儂の所有物だ!」
「貴様は貴様の仕事をせい!」
何度もセラを叩き、ゼノに唾を吐きかけた。
「この魔道具を動かさぬ限り、貴様も元ギルド長も家には帰さん」
ゼノはアッシュとは別々の地下牢へと幽閉された。
「セラ……みんな……」
ゼノの呟きは、光も希望もない部屋に虚しく零れ落ちた。
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