第32鑑定 残された家族
「行くぞ」
アッシュの声は驚くほど優しかった。
その声にもアッシュの行動にも、ゼノを強制させようとするものはなく、ただゼノが歩き出すのを待っていた。
「お前は凄い……」
ゼノの方を見ず、アッシュは上を見ながら話しを続ける。
「お前はルルの心までも治してしまったんだ。でないとあんな表情をするわけがないだろ? 魔道具が感情を持つなんて……」
アッシュの顔から水が落ちる。
「オレは」
アッシュが腕を目元にこすり付けてから、アイリスを見る。
「持ち主のために涙を流す魔道具も、他の魔道具のために自分を犠牲にする魔道具も見たことがない」
その目は赤く腫れあがっていた。
「さ。お父様。帰りましょう。私たちの家に」
アイリスがカラカラとタイヤを鳴らしながら手を差し伸べる。
「マスター。オレはマスターを絶対に悲しませないからな?」
「ゼノが悲しむとボクも悲しいよ」
「教えてくださいアッシュさん。ゼノ様を元気づけたいのにどうしてこんなにも目から水が溢れてくるのでしょうか?」
「うぉーううぉーううぉーう! 我の目から出るこの水はなんだ? しょっぱいぞ!」
「ピクトたん?」
「くそ……なんだよこれ……仲間がいなくなるってこんな気持ちになるのかよ……」
「違うでしゅ」
「何が違うんだよミルク」
「仲間じゃなくて家族でしゅ」
「あたしも家族なのか……」
「家族だよ」
ゼノがそっと言う
「みんな家族だから。絶対に離れないでね?」
「人間。魔導コンパスは人間のことが大好きだった。ここにいる魔道具もそうだ。あんた絶対に裏切るんじゃないよ?」
涙を拭きながらピクトが言う
「当たり前だろ? ただ。少しだけ……今は少しだけ寄りかからせて」
「ふん」
鼻を鳴らしながらピクトが呟いた。
「みんなを全力で守るんだよ?」
●
「ルルたんはホントにパパのことが大好きだったでちゅ」
元気を取り戻したゼノにミルクがずっと話しかけている。
「いっつもパパのこと話してたでしゅ」
「あー。確かにそうだったかもなー」
ピクトもふと思い出したように言う。
「いつだったかなー。魔導コンパスが夜起き出したら、人間が隣にいなくてそれだけでかなり不安になってたことあったな」
「そうなの? 僕全然知らないんだけど」
「そりゃあそうさ!」
ピクトが目を丸くする。
「だって。あの魔導コンパス。眠気に勝てなくて作業台で寝ちゃったんだから」
なぜかそれを聞いてアッシュが大笑いをした。
「叔父様。うるさいです」
●
「報告致します」
玉座の前で小男が跪く。
「あの鑑定士はいませんでしたが、家は焼き払いました。もうあの者に帰る場所はございません」
「うむ。我が国はしばらく力をためた後、再び他国へ侵攻する。あの鑑定士を殺さなかったことは不幸中の幸いか」
国王の言葉に小男が首をひねる。
「どういう意味でしょうか」
「うむ。どうやらあの哺乳瓶は裏切者というメッセージは本物のようだ」
国王が拳を握って、セラを殴る。
「この殺戮天使も知ってた上で黙っておった」
一息置いてから国王が吐き捨てるように話しを続けた。
「ワシが手に入れたこの力は完全ではない」
「不完全な状態でトレースされたというのですか!」
「いや。恐らくトレースは完璧だったのだろう。哺乳瓶が何かしらの形で裏切って吸収した力を不完全にしたのだ」
「すぐに哺乳瓶を破壊しに向かいます」
「ついでに鑑定士を連行して来い」
「しかし向こうには複数の魔道具がおります。中には魔導人形もあると報告があがっています」
「ワシが他国から雇った男がいる。そいつを使え。高い金を払ったのだ。失敗は許さん」
そう言って国王はセラの羽を引っ張って地下牢へ放り込んだ。
「貴様の目の前であの鑑定士を八つ裂きにしてくれるわ!」
唾をまき散らしながら国王が叫ぶ。
その目は狂気に満ちていた……
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