第31鑑定 別れ
「アッシュさん! 行きますよ!」
「貴様! さっきは氷の城も見れなかったんだぞ! 今度は水の像だぞ? 水が形を作るなんてあり得るか?」
「もういいですから!」
ゼノがアッシュを引っ張ろうとするが、アッシュは今度こそ譲らなかった。
「さっきは見れなかったんだ。今度は俺の意見を聞いてもらうぞ?」
「反論。非効率です」
「バカ者が。好奇心に効率は関係ない」
「おじさんさ。最近だいぶ変わったよね」
ミラーがケタケタ笑う。
「む? オレは変わってないぞ?」
「変わりましたよ」
隣でゼノが言うと、ミラーがアッシュの懐に飛び込んだ。
「オレはこっちの方が好きだけどね」
「貴様に好かれても嬉しくないわ!」
「そういえばアッシュさんって結婚してるんでしたっけ?」
「ふん。王都を追放されてから離れ離れだがな」
「今度アッシュさんの家族も探しませんか?」
「どこにいるか分からないんだぞ?」
「ルル。いい?」
ゼノがルルを手に乗せて聞く。
「もちろん! ゼノはルルがいないと何もできないもんね?」
「ルルちゃんの探している人が見つかったらこんどはアッシュさんの探している人ですね」
ルミエがにこりと微笑む。
「ふん! 忙しすぎてそんな暇ないと思うぞ?」
その言葉にアッシュが鼻を鳴らす。
「忙しくてたまらんでははいか!」
なぜかノワールは興奮していた。
●
ダリア共和国の観光名所、水像広場――
「見ろ! 何で巨人の水の像がこんな中央に立っているんだ?」
「判定。過去に世界にはこれくらい巨大な人の形をした生命体がいたものだと推測」
アッシュが感動する横でアイリスが冷静に分析している。
「あー。聞いたことあるねー。大昔巨大な生命体がこの星の元を作ったんでしょ?」
シャルロットが頷くのをゼノがまじまじと見た。
「な……何?」
シャルロットが赤くなる。
「シャルロットってたまーに凄いこと言うよね」
「えへへ。偉い?」
シャルロットがぎゅーっと抱き着く。
「なんでいっつもあんたはそうするんだよ!」
ミラーがアッシュから離れて、シャルロットを引きはがす。
「いっつもいっつもいっつもいっつも……」
シャルロットの声が野太くなる。
「凶悪な負のオーラを感知しました」
アイリスがシャルロットを見て冷淡にに言う。
「そんな報告する暇があるなら止めてよ!」
「不可解。なんで私が咎められるのでしょうか?」
「冷静に分析なんてしておるからだろ!」
アッシュがミラーを連れて遠くへ離れる。
「ボクは恋路を邪魔されるのが一番嫌いなのを知ってるはずだよ?」
遠くへ離れるミラーを目で追う。
首がもげて中から綿が出ても気にしていない様子だ。
「まずいぞ! 魔法人形の呪いは本物だぞ!」
アッシュがミラーを体で覆う。
「シャルロット!」
「ゼノ!」
ゼノの呼び声1つでシャルロットの周囲を囲んでいたどす黒いオーラが消え去った。
「ほら。おいで?」
ゼノが両手を広げると、シャルロットはゼノの胸の中に飛び込んだ。
「ダメじゃないか。みんなを怖がらせたら」
「だってあいつがボクをいじめるから」
「ミラーもシャルロットのことが好きなんだよ」
ゼノがシャルロットの首を縫い始める。
「もう。ちゃんと自分を大切にして? 僕はシャルロットが傷ついたら悲しいよ?」
「ゼノったら……」
涙ぐみながらシャルロットが抱きついた。
「またかこのポンコツ人形は!」
ミラーが懲りずにシャルロットを引きはがす。
「やっぱり呪い殺す!」
「わー! 2人ともストーップ!」
「貴様ら! この芸術の場所で争うでない!」
アッシュが全員をゲンコツで黙らせた。
●
アイリスはずっと不機嫌だった。
「アイリス?」
「知りません」
プイッとアイリスはそっぽ向いてしまった。
「何でアイリス怒ってるの?」
ヒソヒソとゼノがルミエに聞く。
「先程アッシュさんに理不尽に怒られたからではないでしょうか?」
「あー。確かにアッシュさんみんなのこと殴ったもんねー」
そう言いながら、少し離れたところで水の像について延々と自分の感想をピクトに聞かせているアッシュをゼノが見た。
「ピクトげっそりしてるね」
アッシュが苦笑いする。
「マスターは知らないでしょ! おじさんね、意味不明なことずっと言い続けるんだよ? 水の角度がどうとか形を保っている技術がどうとか」
先ほどまでミラーが延々と聞かされていたのだ。
ミラーもピクト同様にげっそりしている。
「おーいミラー!」
アッシュがミラーを呼ぶ声が聞こえる。
「まずい!」
ミラーがルミエの中に隠れた。
「むぅ。いないか……」
アッシュがキョロキョロ見渡して諦める。
「お? アイリス! ちょっと来い!」
興奮しているアッシュには、不機嫌なアイリスなど関係ないようだ。
「あぁ……アイリス」
ゼノが力なく言葉を発した隣でルルが叫んだ。
「見つけた!」
●
ルルが探していた人は、ルルの持ち主の弟だった。
「魔道具とは珍しい」
その男は物珍しそうにルルを持ち上げた。
「儂に何か用か?」
「我々はあなたを探していたんだ」
どうせ上手く話せないだろう。とアッシュがゼノの代わりに前に進み出た。
大人同士の話しで、ルルの経緯などを知った男の表情が柔らかいものに変化した。
「トオルは元気なのか?」
男がルルの持ち主の名を出す。
「ルルは分からない。ルルはあなたを探すように命令されてただけだから」
「儂がこの街に来てからもう何年も経つな……トオルと離れ離れになったのはまだ儂が小さかった頃だ」
男がポツリと呟く。
「あ……あの……」
ゼノがおずおずと声をかける。
「こ、これから……ど、ど、どうするので、で、でしょうか?」
「もちろんトオルを探す」
即答だった。
「そっか! 頑張ってね!」
ルルがピョン。と男の手から飛び降りた瞬間、ルルの脳内に直接指示が与えられたかのような感覚が起きる。
「ルルさんの持ち主の指令がまだ残っているようです」
アイリスが解析する。
「どういうこと?」
ゼノがアイリスを見る。
物凄く不安そうな表情だ。
「お父様。ルルさんには持ち主がいます。魔道具にとって持ち主の命令は絶対です」
無機質な顔のままゼノを見る。
「さぁ行くぞ魔道具。トオルの居場所を教えるんだ」
男は無慈悲にルルを掴む。
「ゼノ……」
ルルが絶望的な表情をする。
「待ってルル!」
ルルがみんなを見渡す。
ゼノが泣き、他の家族はそれを不安そうに見ている。
「ゼノ。ルルは魔道具。持ち主が見つけたいものを見つけるための道具」
にこりとルルが微笑む。
「ルルはルルの仕事を全うする」
「嫌だよルル!」
「全くゼノはルルがいないと何にも出来ないんだから」
ルルの目からも自然に涙が零れ落ちる。
その泣き顔のままルルが笑顔を見せる。
「僕は……僕はずっと君と一緒に居たかった。それなのに君を治したら君と離れなきゃいけなくなっちゃうなんて……」
「行くぞ魔道具」
男がくるりと背を向ける。
――あぁ。もうルルって名前を呼ばれることは二度とないんだね……
チラリと男に連れ去られながら、ルルがゼノの方を振り返る。
……さようなら……ルルが本当に見つけたかった大好きな人……
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