第29鑑定 アッシュとピクト
「あたしがあの人間の力をコピーしても、あの人間の凄さが別にあるならそのコピーした力は無意味だと思うかい?」
ピクトがアッシュに訊ねる。
「珍しい客人が来たと思ったら、突拍子もない質問だな」
アッシュは、ふーむ。と少し考えてから口を開いた。
「俺が思うに、ゼノの力の本質は理解にあると思う」
「りかい?」
「修理する道具を理解して、その道具の本質というのかな。表面だけを直すんじゃなくて、本当に傷ついている心を治す。それによって心から信頼されてその道具を100パーセント以上の能力を引き出している」
「心を治す?」
「魔道具にはそういった概念はないよな。だがお前も感じたはずだ。ゼノは異常だと」
「あぁ。あの人間はおかしい! あたしを捨てないし命令もしないし使いもしない」
ピクトが感情的に話す。
「それがゼノの強さなんだよ」
アッシュがそっとお茶を出す。
「見ろ。俺もあいつの異常が移った。普通、魔道具にお茶なんて出すか?」
「出さない」
出されたお茶をピクトがすする。
「そして。出された茶を飲む魔道具もまた居ない」
ガシャン。と言われたピクトがお茶を床に落とした。
「ご。ごめん……」
せっせと割れた破片を拾う。
「ローレル王国の国王ならこう言うな。この姿こそ魔道具の姿と。つまり、人間のために動くのが魔道具だと普通の人間は考える。人間のために跪き食器を拾う。それによって怪我をしても壊れても新しい魔道具を買えばいいとしか考えない。そこに感情を持たないのが一般的な人間だ」
アッシュが一緒に破片を拾う。
「だが。あいつはそうはしない」
すっと。椅子に座りながらアッシュが話しを続ける。
「話しを戻そうか。コピーした力が無意味かどうかだったな。恐らくゼノの力はあいつが使うからこそ効果がある。他の一般的な考え方を持った人間が使っても一定の効果しか得られないだろうな。そういう意味ではコピーした力は無意味だろうよ」
「じゃああたしの存在も無意味なんだね」
「存在が無意味というわけではないだろ?」
「あ! あたしは……」
「ゼノの力をコピーして国王に渡した。ただそれだけだ。今はもうゼノの家族だ」
「違うんだ……あたしはもう一度認められたくて……」
「お前のことはみんな認めている」
「そうじゃないよバカ……」
「何だ? 分かるようにはっきりと言え」
「あたしは……」
ゴクリとピクトが生唾を飲む。
「ミルクがうら」
「おーいおじさーん!」
玄関から大きな声でミラーがアッシュを呼ぶ。
ピクトを見ていたアッシュが玄関へと目を向ける。
「やれやれ。邪魔が入ったな……」
よっこらせ。とアッシュが立ち上がり、ミラーを迎え入れた。
アッシュがいない茶の間でピクトがボソリと呟いた。
「ミルクが裏切ったって国王に報告してしまったんだよ……」
吐き出さないと自分が潰れてしまうところだったのだろう。
「え? ピクト! 何で泣いてるの? おじさん何かしただろ!」
「ふざけるな! オレは身の上相談を受けていただけだ!」
「ピクトが相談なんてするわけないだろ!」
「やかましいぞ魔鏡の分際で!」
●
「……で? 大きな欠けができたんだ?」
ゼノが不機嫌そうに言う。
その手にはミラーが乗せられていた。
ところどころ欠けている。
「すまぬ」
ゼノの目の前でアッシュが頭を下げる。
「アッシュさんはミラーの暴走を止めただけですから」
「ひどいやい! マスター! 全部オレが悪いってことかよ」
「ミラーがアッシュさんに飛びかかったんだろ?」
「だからそれはピクトのことをいじめてると思って」
「それはミラーの勘違いだったんでしょ? ならミラーが悪いじゃん」
「ピクト! ピクトからも何か言ってやれよ!」
ミラーがピクトの方へ向くと、ゼノが無理やり自分の方へミラーを向かせた。
「ミラー」
ゼノが目を合わせる。
「な……なんだよ……」
ミラーが赤くなる。
「ミラーは大切な家族だ。無理なことはしない。いけないことはしない。いい? わかった?」
キュッキュッとゼノがミラーを磨く。
「マスターの言うことなら聞くよ」
「ありがと。ミラー」
にこり。とゼノがミラーに微笑むと、ミラーが更に赤くなった。
「マ、マスターのためならどんな物でも映してみせるぜ? 何が知りたい? 世界の真相かい?」
「僕はそんなの知りたくないよ」
ケラケラとゼノが笑いながら、今度はピクトに手を伸ばす。
「怪我してるね。どうしたの?」
言わなければ気づかない程度の小さな傷だった。
お茶を零した時に、食器の欠片を拾っていた時にできたものだろう。
「お茶をこぼしてしまって」
「大丈夫だった? 火傷してない? あ。ここ。お茶が当たったでしょ? 火傷にはなってないけど熱かったよね?」
ゼノがピクトを撫でるとミラーが小さく、あっ。と言った。
「べべべ別にたいしたことないし、あたしのミスだし」
「よく見たらあちこち傷だらけだね。ごめんね。ピクトは壊れていないと勝手に思い込んで全然手入れしてあげれてなかったね。痛いところとかない?」
「おい貴様! 今夜は我のメンテナンスの日だろう!」
奥の壁からノワールの怒りの声がした。
●
「言い訳など聞きとうない!」
部屋中に国王の怒鳴り声が鳴り響く。
その手には美しい白い羽が握られている。
「我が国は今巨大な国家になったはずだ!」
そう言いながらセラの羽をひとむしり。
「奴隷もたくさん!」
更にひとむしり。
「国土もでかくなった!」
ひとむしり。
セラの羽は見る影もなくなっていた。
「何としてでもバラ王国とヒナゲシ神聖国を手に入れよ」
バタリとドアがしまった。
「ふん。貴様を使えばバラ王国とヒナゲシ神聖国を獲れるか?」
「私だけの力では無理でしょう」
淡々とセラは答える。
「どいつもこいつも使えないやつらめ!」
どしんどしんと足を踏み鳴らしながら国王も部屋を出て行った。
「哀れなお方ですね」
セラの言葉がその後をついて行った。
●
「お父様」
アイリスがルルを持って来る。
「お父様に言われた通りにやったら、ルルさんが完成しました」
思わずゼノは飲んでいたお茶を噴出した。
「ゼノ。キミはこんな形でまでボクを汚してくれるんだね?」
お茶をかけられたシャルロットがうっとりしているが、ゼノはそれどころじゃなかった。
「ほんとに? アイリス! 君天才なの?」
慌ててルルを手に取る。
「ルル治ったー!」
嬉しそうにルルがピョンピョンする。
「記憶も戻った?」
ゼノが聞くと、ルルが頷いた。
「ルルは、人を探している途中だったみたい」
そう言いながらゼノのことを見る。
「じゃあ、これからはみんなでその人のことを探そうよ!」
これで家族が終わりにならないことに、ルルはホッとして息を吐いた。
「ルルの探し物が終わったら、ゼノくんのちゃんとした家族として迎え入れてね?」
ルルが抱きつく。
「もうちゃんとした家族じゃん」
「こら! ボクのゼノに抱き着くな!」
「不可解。なんでお父様はにやけているのですか?」
「マスター! オレのことも抱きしめてくれよ!」
「貴様ら何時だと思ってるんだ!」
夜空にアッシュの叫び声が木霊した。
夜空に輝く星たちは、ゼノたちを笑って見守っていた。
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