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第28鑑定 揺れる価値観

「伝令! 第1部隊壊滅!」

「壊滅だと? いくら前衛だとはいえ全滅?」

 兵士の中にどよめきが広がる。

「静まれい。こうなることは予想済みだ。相手は魔道具。しかも魔導人形がいる。そんじょそこらの兵力では勝てないことは承知している」

 部隊長が言うと、その部下が問いかける。

「ではどうするのですか?」

「とにかく攻め続けろ。全滅してもいい。常に攻められているという気持ちを相手に植え付けるのだ」

「では、ユリ帝国で手に入れた捕虜を捨て駒にしましょう」

 部下がにやりと笑うと部隊長は喜んで頷いた。

「人は何日攻められると狂うのかしっかりと調べておけ」

「はっ! ヒナゲシ神聖国とバラ王国への進軍はいかがですか?」

「前線の我らにはあまり情報は来ないが、芳しくないようだな。国王もお怒りであの殺戮天使への拷問が更に酷くなったと聞く」

「さっさと裏切者の鑑定士を殺して、拷問に参加しましょう」

 部下の言葉に部隊長がニヤリと笑う。

「あの綺麗な体を傷付けると考えるだけで、涎が出るな」

 しかし、この部隊がゼノの村に侵攻することはなかった。

 ヒナゲシ神聖国とバラ王国の抵抗が凄まじく、そちらに戦力を割く必要ができたためだ


 ●


「敵がいなくなった」

 月の無い夜。

 ミラーがヒソヒソと言う。

「どういうことですか?」

 アイリスがタイヤをカラカラと鳴らす。

「我らを油断させる作戦やもしれぬぞ」

「しー! 声が大きいよノワール」

 シャルロットが口に指を当てて注意する。

「あたしはあの城にいたから分かるけど、あの国王がそんな回りくどいことしないと思うよ」

 ピクトが隣のミルクに、ね? と声をかけると、ミルクも頷いた。

「ルルも国王とは面識はないけど、その意見には賛成よ」

 針をグルグル回しながらルルが言う。

「つまり」

 ルミエがみんなのお茶を持ってくる。

「国王側に何か不足の事態が起きたということでしょうか?」

 チラリとゼノの方を見やる。

 ゼノは寝息を立てていた。

「あの軍勢はマスターを狙ったものだったのかオレたちを狙ったものだったのか……」

「普通に考えれば我ら魔道具だろう。おじうえも言っておっただろ?」

 茶をすすりながらノワールが冷静にミラーに言う。

「ですがセラさんはお父様の能力は稀有なものだと言っていました」

 アイリスは王都がゼノを狙っていると思っているようだ。

「いくら人間の力が特殊だからってその人間を狙うなんてことあるのかい?」

 ピクトがゼノを見てから言う。

「ルルが聞いてた国王象だと、必要な人間を無理やり従わせるイメージだからその人間を狙うってのは納得がいくわ」

「アタチもパパが狙われている気がするでしゅ」

 ミルクがチラリとピクトを見ると、ピクトは目を逸らした。

「あ……あたしは。あたしたち魔道具が狙われていると思うな。魔道具は全部自分たちのものって思ってるんだろ? あの国王」

「確かにお父様の凄さは、能力が凄いわけではありませんからね」

「あの人間は能力が凄いんだろ?」

 アイリスの言葉にピクトが引っかかる。

「やだなー。マスターが凄いのはオレたちを見捨てないところだろー?」

 ミラーがケラケラと笑う。

「あたしたちを捨てないのが凄い? ……じゃあもし、あの人間の力を誰かが奪ったとしても凄い力にはならないってことなのかい?」

「そんなの当たり前だろう」

 ノワールが鼻息を荒くする。

「それなら……」

 ピクトが俯くのを全員が見る。

「あたしの存在は意味ないじゃん……」

「そんなことないと思います」

 アイリスが否定した。

「確かに能力だけを見たならば、ピクトさんの力はお父様にとっては無意味です」

 残酷な宣言にピクトががっくり項垂れる。

「ですが他の人間や魔道具に対してはかなり有効な力だと思います」

「それに力が全てじゃないだろ?」

 ミラーが励ます。

「そうだな……」

 そう言ってピクトは庭へと出ていった。

「アタチが行くでしゅ」

 みんなが追いかけようとするのをミルクが止めた。


 ●


「ピクトたん」

「魔法哺乳瓶……」

 ピクトは草むらの影に居た。

「こんなところに居たら風邪ひいちゃうでしゅ」

「何あの人間みたいなこと言ってるんだよ」

「パパならそう言うかな? と思って」

 ニヘヘとミルクが笑う。

「何の用?」

 いつも以上にぶっきらぼうにピクトが聞く。

「ピクトたんが心配だったから来たでしゅ」

「いつまでそんな赤ちゃんキャラやってるんだよ」

「ミルクは赤ちゃんでしゅ。ずっと甘えたかったでしゅ」

「それをあの人間が見抜いたってことだろ? 随分なことじゃないか」

 ふん。とピクトが鼻を鳴らす。

「ピクトたんは今でも王都に連絡を送ってるんでしゅか?」

「まさか!」

 ピクトがミルクに掴みかかる。

「あたしは命令通り動いた! 人間の力もトレースしたし期限だって守った! なのに所有権を放棄された! あたしは捨てられたんだ! あんたと一緒にな!」

「パパは命令も出さないし捨てることもしないでしゅ!」

「分かってるよそんなこと!」

 ミルクの言葉にピクトは感情的になる。

「分かってるんだよそんなこと……」

「ピクトたん。悩んでるんでちゅね?」

「あの人間と一緒に過ごしてから、あたしの考え方が変わった気がする」

「パパがそれは価値観が変わったってことって教えてくれたでしゅ」

「かちかん?」

「パパが言うには、自分が何を一番大切にしているかという考えらしいでしゅ」

「そんなの……わかんないよ……」

 一粒の雫が暗闇の中、草の上に落ちた。


 数日後、王都は大軍を率いてヒナゲシ神聖国とバラ王国へ侵攻するも大敗したとの報告があがった。



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