第2鑑定 ゼノとエリス
ゼノは、ミラーを放り出して誇り高き魔剣と名乗った魔剣に駆け寄った。
「凄いよ君! ずっと1人だったの? 寂しかったよね?」
ゼノが魔剣をさすると、ミラーが甲高い声で起こった。
「ちょっとマスター! オレは?」
「なっ! 気安く我に触るな!」
「魔剣の体温上昇を感知しました」
「ふざけるな! 我がこんなことで動じるわけがなかろうが! このポンコツ魔導人形が!」
「私のことはアイリスと呼んでください」
「アイリスだと? 魔道具が名前を名乗るとは笑わせる!」
「お父様がつけてくれた大事な名前です」
「オレはミラーね!」
ピョンっとミラーがゼノに飛びつく。
「危ないよミラー」
「オレのことをほっぽり投げておいてよく言うねー」
「今のはお父様が悪いです」
「うるさいよアイリスは! これは気持ちの問題なの!」
「気持ち? それを考えるのは非効率的ですね」
「アイリスはお堅いなー。感情が分かると面白いよ?」
アイリスにミラーが茶々を入れる。
「我を無視するなー!」
木のテーブルの上で、魔剣が飛び跳ねた。
「ごめんよノワール」
ゼノが魔剣を手に持って、早速手入れをする。
「ノワール?」
魔剣が訊く。
「君の名前だよ。僕は修理する時に必ず名前を付けるんだ。君は誇り高き魔剣、ノワール。僕の大事な家族だ」
「ふざけるな! 何が家族か! 何がノワールか! 我は孤高で崇高な存在だ! それから貴様! さっきからどこを触っておる!」
「え? ここ触っちゃだめなところだった?」
「そこは我の大事な部分だ! 貴様如き人間が気安く触れていい場所ではない!」
ノワールは叫びながらブンブン、刃の部分を振り回した。
「わっ。危ないよ」
しかしその刃はボロボロに欠けていて――
ガッ!
家の柱に食い込んでしまった。
「まだ手入れの途中だからね?」
何事もなかったかのように、ゼノはノワールを机の上に置き直し、手入れを再開した。
その間にアイリスとミラーは、廃屋が我が家の如く、それぞれに居心地のいい空間に作り替えてしまった。
「我の家が……誇り高き魔剣と由緒ある家が……」
ノワールの嘆きは3人の耳には入らなかった。
●
「さて。住む場所は見つかったし次はどうする?」
まだシクシク嘆いているノワールを横目に、ミラーが陽気に訊く。
「僕は人間だから食べる物と飲み物が必要だなー。君たちは?」
「私は動力源が太陽光なので、日中光を浴びれば問題ありません」
「オレは魔力だから、時間の経過と共に回復するぜ!」
「我も魔力だから、時間の経過と共に回復する」
先ほどまで嘆いていたノワールが、誇らしげに言う姿を見てゼノは思わず吹き出してしまった。
「貴様! 我を愚弄するか!」
「不可解。今の状況に笑う要素は見当たりません」
「ごめんごめん。ちょっとおかしくて」
アイリスとノワールは不機嫌な表情をし、ミラーは逆にゲラゲラ笑っているのを見て、ゼノはますます笑ってしまった。
「我は人間がショクジというものをしているのを何度も見たことがある。ヤサイなる物を分断したこともあるぞ!」
ノワールが胸を張る。
「それは魔剣のやることじゃないねー」
ニコニコしながらゼノが言う。
「な! 貴様! 我から仕事まで奪う気か!」
「野菜を切るのは包丁だよ。前の持ち主は君のことをそんな風な扱い方をしていたんだね」
そっと。ゼノがノワールの峰を撫でる。
「貴様!」
「体温の上昇を感知しました」
「いちいち感知せんでいい!」
アイリスにノワールが噛みつく。
「ノワールが照れ屋さんなのは分かったけど、マスターが必要なものはなんだい? 具体的に言ってくれればその場所を映すよ?」
ミラーがニヤニヤしながらゼノに近づく。
「必要な物の場所は分かってるんだ。ただ、そのためにはもう一度王都へ行かなければならないんだ。君たち3人で大人しくお留守番できるかい?」
ゼノが不安そうに、アイリス・ミラー・ノワールを交互に見る。
「オルスバン?」
アイリスが小首を傾げる。
「つまり、僕が帰ってくるまでこの場所で待ってて欲しいんだ」
「承知しました。この場での待機命令を承ります」
「我は元々ここに住んでおる。貴様がいようがいまいが関係ない!」
「オレは一緒に行きたかったけど、まーマスターの命令じゃしょうがない。大人しく待つよ」
「ありがとう。それじゃあ、王都で僕のご飯とかを買ってくるね!」
●
「よう役立たず。まだこの王都にいたのか?」
王都で八百屋を営む店主が大声で言うと、辺りの空気が一変した。
コソコソ隠れるように歩いていたゼノは、一瞬にして周囲に晒されたのだ。
「え……えと……」
「買ってくだろ? 何が欲しいんだ?」
買わないと帰さない。
そんな雰囲気を店主は出していた。
仕方なくゼノはいくつかの野菜を購入した。
「ねぇ見てよ。あのろくでなしまだこの街に足を踏み入れてるよ」
「いつまでいるんだろうね」
「気味が悪いねぇ」
「いっつも道具にブツブツ言ってるやつだろ?」
王都の住人は、ゼノに聞こえないようにという配慮はせず、むしろ聞こえるように話していた。
「お……おべんとうを……ください……」
ゼノは行きつけの弁当屋に立ち寄った。
「あらゼノ! 久しぶりだね! 今日のおすすめはこのお魚のやつだよ! パパが昨日釣ってきたんだけどね、こーんなでっかくてねこのお野菜は私が切ったの!」
にこっと笑いながら少女がゼノに弁当を渡す。
「う……うん……すごいね……」
「でね! 結構前にゼノに研いでもらった包丁あるでしょ? 覚えてる? 頑固者のダイコンさん! すっごく切れ味よくてね? 今でも切れ味落ちないんだよ? すごくない?」
「あ……ありが……とう……エリス……」
「そうだゼノ! これ。パパとママには内緒ね?」
そう言うとエリスは、ゆで卵をおまけでくれた。
「今度またうちの道具直しに来てね?」
エリスはぎゅっとゼノの手を、両手で包みながら弁当を入れた袋を渡した。
「あり――」
ゼノがお礼を言おうとすると別の客が入ってきた。
「寒くなってきたねー」
「いらっしゃい」
「あれ? 今日はエリスちゃんが店番かい? こりゃあおじさんたくさんお金落とさなきゃなー! あん? こりゃあ驚いた。能無しじゃねーか! この街に戻ってきたって噂は本当だったんだな!」
弁当屋の客人は、ゲラゲラとゼノを見下した。
「おんやぁ? エリスちゃん。こいつは良くないぜ?」
「何がですか?」
エリスが凛とした声で問う。
「こいつわぁ能無しだ。この王都に負債ばかりまき散らす悪害だ」
「あくがい?」
「私はそうは思いませんけど?」
「そりゃあエリスちゃんはこの能無しと幼なじみだからそう思うかもしんねーけど、これが事実だぜ?」
最後に客人は、この街で生きていきたきゃ、役立たずは切り捨てることだな。と吐き捨てた。
「ごめんね? ゼノ。嫌な気持ちにさせちゃって」
そう言いながらエリスがゼノの方を振り向くが、そこにはもうゼノは居なかった。
「ゼノ……」
エリスの虚しい声だけがその場に残った――
●
「見たかい?」
ミラーが肩をワナワナ震えさせる。
「お父様を侮辱する者は万死に値します」
アイリスはタイヤをカラカラと猛回転させている。
「我が認めた唯一の人間を侮辱するとは、よほど命が欲しくないようだな」
ノワールが木の机から飛び降りた。
「アイリス。マスターはオレたちが行動に移したらどんな気持ちになるか演算してくれ」
「わかりました。……不可解ですが、失望と出ました」
「だろうね」
「どういうことだ? 我にも分かるように説明せい!」
「マスターってさ。オレたちみたいなガラクタ廃棄魔道具を大事にしてくれるだろ? それなのに自分のことは大事にしないんだよ」
「おそらくお父様は、自分のことはどうでもいいと考えているのです」
「自らの命を顧みないとは素晴らしい精神だ!」
「ちょっと違うと思うけどさ。それだけじゃないんだよね。きっとマスターは残された人のことを考えられないんだ」
「どういうことだ?」
ノワールがミラーに迫るが、ミラーが遠ざかった。
「マスターにとってはきっと自己満足なんだ。だからオレたちも自己満足でマスターを侮辱したやつに制裁を下すぞ」
「わかりました。私はお父様が幸せになれるならそうします」
「我は……」
ノワールが言いよどむ。
ミラーがノワールを見る。
「今はマスターはいない。本音を言っても平気だぜ?」
「我は。もう一人になりとうない……」
「私もです。もう捨てられたくありません」
「オレだって同じさ。だからこそ、オレたちはマスターを失うわけにはいかないんだ!」
ゼノの知らないところで、魔道具3人が決意を固めていた。
そして、魔道具3人の知らないところで、ゼノが新しい家族を連れて帰っていたのだった。
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