第3鑑定 新しい家族
「はぁ……」
王都からの道のりがやけに長く感じた。
『僕はどうしていつもこうなんだろう……』
トボトボと帰路につきながら、ゼノは自分のことを責めていた。
『アイリスは僕のことをお父様と呼んでくれて、ミラーはマスターと呼んでくれてる。ノワールもきっとあの2人みたいに慕ってくれるんだろうけど、こんな僕を見たら幻滅するだろうな……』
はぁ。ともう1つため息をつく。
「ため息をつくと幸せが逃げてしまいますよ?」
どこからともなく声がした。
「だれ?」
ゼノが辺りをキョロキョロ見渡す。
すると、近くでぼうっと小さな灯かりが灯った。
夕方とはいえ、まだ日の光はある。
それなのに、灯った灯かりは自然とゼノの目を奪った。
「暖かい……」
思わずゼノが口走る。
「こんばんは。迷子の人間様」
灯かりの元が喋る。
まるでおとぎ話に出てくる、魔法のランプを思わせるランプがそこにはあった。
ランプの精が出ると思われる口先には、小さな火が灯り、ゼノはその灯かりに見とれたことに気がついた。
「僕は迷子なんかじゃないよ」
そう言いながらゼノはランプを拾いあげる。
ところどころ汚れ、蓋はなかった。
「そうですか。ではこんなところでなにを?」
「凄いなぁ。年代物だ。こんな珍しいの見たこともない。蓋はどこか行っちゃったのかな? 前の持ち主は大切に使ってくれてたんだね」
キュッキュッと最近できたと思われる汚れを、自分の洋服で拭く。
ゼノの耳にはランプの言葉が入っていなかった。
それでも――
「こんなのは久しぶりでございます」
ランプの灯かりが更に明るくなった。
「わっわっ。ごめんよルミエ」
「るみえ?」
「ごめんよ。僕の悪い癖だ。僕はお世話した道具に名前をつけてしまう癖があって……それで……街のみんなから気味悪がられて……」
「それは辛い思いをされましたね。私は名前を付けられて嬉しいですよ? よろしければ、人間様のお名前も教えていただけますか?」
「僕の名前はゼノ。あそこの王都に住んでたんだけど、気軽に話せる相手が道具しかいなくてさ。気持ち悪いし僕の能力は役に立たないって追い出されてしまったんだ」
ははは。と頬をポリポリと掻く。
「ゼノ様には道具と言葉を交わせる最高級の能力があります。それに加えてこの優しさ。決して役に立たないとは思えないのですが」
「王都はね。もっと違う能力を欲してるんだよね。古代兵器を意のままに操れる力とか、天変地異を起こせる力とかさ」
「それならば、ゼノ様の能力は正にそれに値すると思いますが?」
ルミエがそう言うと、ゼノは首を横に振った。
「僕は無能だよ。道具と言葉を交わせる力だから。でも、僕はこの能力が大好きなんだ。こうやって君とも知り合えたしね。さぁ。そろそろ行かなくちゃ」
「どちらへ?」
「家族の元へ」
にこりと立ち上がり、ゼノはアイリス達の元へと帰ろうとした。
「一緒に来るでしょ?」
ゼノが手を伸ばすと、ルミエは嬉しそうにピョンピョン跳ねながら、辺りを照らした。
●
「ま……魔導ランプだと?」
ゼノが帰った時のノワールの第一声だ。
「ルミエと申します。以後お見知りおきを」
ルミエがペコリとお辞儀をする。
「よろしくね! ルミエ! オレはミラーだ」
「魔鏡様ですね。何でも映せるという噂は聞いております」
「へー。オレのことよく知ってるんだ? けどあんたが見たい物は見せてあげなーい。オレは自分がマスターって認めた人の言うことしか聞かないんだ」
「かしこまりました。そちらのお嬢さんは何をなさっているのですか?」
ミラーの挑戦的な物言いに動じずに、ルミエが今度はアイリスに声をかける。
「お父様が喜びそうなことを模索してます」
アイリスは、ノワールの前の持ち主が持っていたであろう本を必死に読んでいた。
「魔導人形様は、常に色んな情報をアップデートできると聞きましたが本当のようですね」
「不可解。男性が好むのは妹属性とありますが、私は闇属性の攻撃が得意です」
「そういうことじゃないと思うよ? アイリス」
ミラーがくっくっと笑う。
「魔導ランプって?」
そのテーブルの向こう側では、ゼノとノワールが会話をしていた。
「その名の通り、魔力で動くランプのことだ。人間の間では過去の異物とか太古の代物なんて呼ばれているが、魔力だけで灯かりを灯せて中に物を収集できる魔道具は、他にない!」
ノワールがフン。と鼻を鳴らす。
「それって凄いの?」
「凄いの? だと! 我が魔剣であるのは剣でありながら魔法の効果を持つからだ! 魔導ランプはランプでありながら持ち物袋の役割を果たす! 1つの道具で2つ以上の効果を持つのは人間が好むものであろうが!」
「ちょっ! そんなに感情的にならないでよ。ほら、またここ欠けてる。勝手にトレーニングしたでしょ?」
「我が強くなるのは我の自由だ!」
「いいけど、ちゃんと自分の体を大切にしてよね」
「貴様にとやかく言われる筋合いはない!」
「わかったわかった。ほらおいで?」
ゼノがノワールの柄を掴んで手入れを始めると、ノワールの刀身が見る見る赤くなった。
「まーたノワール赤くなってるよ」
嫉妬の混じった声でミラーが茶化す。
「赤くなどなっておらん! 我は誇り高き魔剣だぞ!」
「いいから動かないで」
ゼノがピシャリと言う。
その光景をルミエが微笑ましく見守っていた。
その隣にアイリスがやってきた。
「素敵な家族ですね」
「貴女も家族です」
「……時代遅れの私でも……」
「お父様は気にしません」
「新しいご主人様は私を捨てました」
「お父様は気にしません」
「最初のご主人様は優しい方でした」
「そうですか」
「でも……ご主人様が亡くなり、新しいご主人様様に変わると時代遅れな道具など不要と捨てられました」
「不可解」
「え?」
「お父様は古ければ古いほど喜びます」
「そうなのですか?」
「壊れている私たちを見ると、喜んで直してくれます」
ルミエがアイリスの顔を見ると、目玉が飛び出ていた。
「アイリス!」
部屋中にゼノの言葉が鳴り響いた。
「また目が飛び出ているじゃないか! 今日はどうしたの? 何かやった?」
「何もしていません」
「うそつけ! このタイヤの傷! 昨日にはなかったよね?」
その言葉にルミエは泣き崩れた。
「前のご主人様もよくそうやって私の変化に気づいてくださりました……」
「え? どうしたのルミエ? どこか痛かった? アイリス何かやったの?」
「不可解。証拠もなく憶測で物を言うのは非効率的です」
「もう! 君はいっつもそうやって効率効率って! ミラー! 笑ってないでルミエをベッドに寝かせて」
「なぁーんでオレが?」
「おいこら! 我の手入れがまだ途中だぞ!」
「ちょっとノワールは黙ってて。いいからミラーやって! アイリス。ちょっと座りなさい」
「理不尽ですお父様」
夜が更け、王都では今までに発見できなかった太古の遺産が運び込まれていたのであった。
この太古の遺産を巡って、ゼノの運命が大きく変わろうとしていることを、今はまだ誰も知らないのであった。
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