第1鑑定 ようこそガラクタ家族へ
「何か言ったかい? アイリス」
「いいえ。明らかに私の声とは違いました。私に聞くよりもまずは辺りを見渡して声の主を探す方が効率的です」
「君は本当に何でも効率効率効率効率って……誰かさんみたいだ……」
「誰かさんとは誰のことですか?」
「いや。君には関係ない話しだから」
「さっきから見てれば面白いなあんた達! 俺も一緒にイエとやらに連れてってくれないか?」
ゼノとアイリスの言葉を遮るように、やや甲高い声が辺りに響いた。
ゼノが振り返ると、ひび割れた鏡がそこに立っていた。
そう。足があるなら立っていただろう。
しかし実際には立てかけてある。が正しい。
それでもゼノには鏡が自分の意思で立っているように見えた。
「今は家なんてありませんよ?」
アイリスが身も蓋もないことを言う。
「ではあんたたちはどこへ向かうと言うのだい?」
割れた鏡がキーキー声で問う。
「だから家だって」
「家はまだありません」
ゼノの答えをアイリスが即座に指摘した。
「君も魔道具か何かかい?」
ゼノが割れた鏡を持ち上げて、まじまじと見る。
「オレは魔鏡! 割れて曇って捨てられたただのガラクタさ……って何をしてるんだよあんた!」
魔鏡が喋っているのに意を介さず、ゼノは鏡をキュッキュと吹き上げた。
「ほら! まだまだ曇ってるけど前よりはマシになった。僕たちと一緒に家を探すのを手伝ってくれるかい? ミラー?」
「みらぁ?」
文字通り、魔鏡は小首を傾げた。
「貴女の名前です。お父様はガラクタに名前を付けるという悪趣味を持っています」
「悪趣味ってなんだよ!」
「ふーん」
ゼノとアイリスのやりとりを見て、ミラーはニコッと笑った。
「よろしくね! マスター」
「マスター?」
「オレのことを勝手に名付けたんだから、オレも好きに呼んでいいだろ?」
「良かったですね。お父様」
●
「ねぇねぇ! アテはあるんだよね?」
ゼノに担がれながらミラーがキーキー声で言う。
家を探すと言っても、アテも無く歩き回るのは非効率だ。と先ほどアイリスが言っていたからだろう。
「……」
ゼノは何も答えない。
「マスター? もしかして、本当はアテなんて何もないのかい? あんなにさっきは意気込んでたのに? アイリスに正面切って家は絶対に見つかるって言ってたよね?」
ミラーがゲラゲラ笑う。
「だから非効率的と言ったのです」
ゼノの隣でアイリスがあからさまにため息をつく。
カラカラと鳴る駆動音が虚しい。
「全くマスターは本当にダメだなぁ。しょうがない。オレがマスターの必要な物を探してあげるよ! 何がお望みだい?」
「え?」
「いいから。何を探したいのか言ってよ」
「えーっと。家! 今すぐ僕たちが住める家を見つけたい!」
「オーケー! イエというものがなんだか分からないから具体的に教えてくれ」
「私たちが住む場所のことです」
「なるほど……」
ぼぅとミラーが青白く光り始めた。
「魔力の上昇を感知……ミラーが何かしらの能力を使ったものだと思われます」
「は? 僕魔道具なんて見たことも使ったこともないんだけど大丈夫なんだよね?」
「判定不能です」
「何だよ判定不能って!」
慌てるゼノの隣で静かにミラーが口を開いた。
「見つけた。ほら。オレを覗いてごらん?」
「吸い込まれたりしないよね?」
「どうかな?」
ミラーはからかうように、ニヤリと笑った。
アイリスに押されるようにゼノがミラーを覗くと、そこには廃れた家が映し出されていた。
「……家だ……これって誰かが住んでるの? それとも僕たちが住んでも平気なの?」
「愚問だねぇマスター。マスターが自分たちが住める場所を欲したんだろう?」
小バカにしたような言い方をしつつも、しっかりとゼノが欲する物の場所をミラーは映し出していた。
「ここはどこだか分かる?」
廃屋は映っているが、その背後に山林があること以外何のヒントもなかった。
「もっと周りを映してみようか!」
ミラーの周りがまた青白く光ったと思ったら、ミラーに映る映像が消えた。
「どうしたの?」
「ごめんよーマスター。魔力切れだ。オレは燃費が悪くてさ。捨てられた理由もそれなんだよね。他の魔鏡の方が燃費がいいんだってさ」
そう言い終えると、ミラーの周囲の青白い光が消えた。
ゼノはミラーをそっと拭いた。
「マ……マスター?」
「ごめんよミラー。今の僕にはこんなことしかできないけど……絶対に君のことを捨てたりしないから」
ボロ布でミラーを拭きあげていると、ミラーが少し赤みがかってきた。
「うぉぉぉぉぉー! マスターのためなら、世界のどんな秘密でも暴いてみせるよ!」
「不可解。体温上昇と共に魔力の回復が見られます」
「え? どういう」
ゼノが言い終わる前にミラーに再び映像が浮かび上がった。
「マスター! ここだよ! どうだい? 役に立ったかい?」
「この先の海辺である可能性が高いです」
ミラーは嬉々として、ピョンピョン飛び跳ねながら歩き始めた。
●
「君たちは本当に不思議だね」
アイリスが駆動音を鳴らして歩き、ミラーがピョンピョン跳ねながら歩く。
その様子を見てゼノがしみじみ言う。
前を歩くアイリスとミラーが立ち止まって、ゼノを振り返る。
「不思議?」
アイリスが小首を傾げる。
「僕が今まで修理してきた子たちは、君たちみたいに動いたりしなかったから」
「気持ち悪いってことかい?」
ピョンっとゼノの近くまでミラーが近寄る。
「その子たちの声を聞いてあげれても、僕にしかその子たちの声は聞こえなかったんだよね。でも今はみんなに君たちの声が聞こえるんだなーって思って」
「こんな不思議な仲間が持てて嬉しい? それともがっかり?」
目の前に廃屋が見えてきた。
左手には海が広がり、左手の山林の麓にポツンと廃屋が建てられている。
とても人が住めるような感じではなかったが――
「ここから僕たち家族が始まるんだね」
ミラーの質問には答えず、それでもゼノの笑顔でミラーは満足した。
廃屋を開けると、真ん中にボロボロの木のテーブルが置いてあった。
その上に大きな剣が置いてあった。
「あれは魔剣です」
アイリスが言うと、魔剣がそれを否定した。
「違う。我は誇り高き魔剣だ。間違えるな」
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