第26鑑定 ピクトの変化
ゼノには何が起きたのか理解できなかった。
ただセラが目の前にやってきて、魔道具を封じる能力は脆弱だと言ったこと。
そして気がつけば自分たちはセラの背中に乗っていること。
セラが飛び立つ際に、エリスの声が聞こえた気がしたこと。
それくらいしか分からなかった。
「すごいよセラ! 元気にしてた?」
「申し訳ありませんが鑑定士様。私は健在でございますが元気かどうかは分かりかねます」
「診てあげようか?」
「遠慮いたします」
「どうして?」
「私にはその資格がありませんので」
「資格?」
「また鑑定士様を危険に晒す可能性がございます」
「僕を救ってくれたじゃん」
「それは私なりのやり方があるからです」
「久しぶり! 殺戮天使」
2人の会話にルルが入ってくる。
「魔導コンパス……鑑定士様から名前はちょうだいしましたか?」
「ルル! って呼ばれてるよ」
「ルル。素敵な名前ですね。大事にしてくださいね」
「セラだっていい名前だと思うんだけどなー」
セラの上でゼノが首を傾げる。
「私の名前も素敵です。ありがとうございます鑑定士様」
「アタチはミルク!」
「貴女はお城で雑に扱われていた魔法哺乳瓶ですね」
「今はパパと一緒にいるでしゅ」
「鑑定士様はやはり素晴らしいお方ですね。この様にどんな魔道具でも家族にしてしまう……」
「僕はセラも家族だと思ってるんだけどなー」
「私には所有者がおりますので。さぁ、入り口でご家族がお待ちですよ」
セラが急降下を始めると、目の前にはアイリスたちが待っていた。
●
『やり方を好きに? 自分をわざと壊して人間に直させる? あり得ない!』
ピクトが首をブンブンふる。
『あたしが悩んでる? 魔道具らしくない? そんなことはない! あたしは王の命令で動く魔道具のはず! あいつと同じ』
遠くへ飛び立つセラを見上げる。
『だからこんな光景は異常だし気分が悪いはずだ。なのになんでこんなにもほっとしている自分がいるんだよ……』
目の前でアッシュに怒鳴られているゼノを見る。
先ほどゼノはアッシュにビンタをされていた。
「貴様がやったことは、家族全員を不幸にすることだぞ!」
「お父様を傷つけないでください」
飛び出た目玉のまま、アイリスはゼノとアッシュの間に入る。
「あぁそうだ。貴様らも全員だ」
くわっ。とアッシュが目を見開く。
「この際だから言わせてもらうぞ! 貴様らは全員自分の命を粗末に扱いすぎている! 自分は傷つけられても平気だけど家族は傷つけられたくないと思っておる!」
「それのどこが変なんだよおじさん」
ミラーがキーキー声で言う。
「バカ者が! 貴様らは残された家族のことを考えておらぬのか! この家族。誰か1人でも欠けたら残された家族の心は大きく傷つくのだぞ!」
「心の傷。それは治すのが大変な傷だと聞きました」
「あぁそうだアイリス。それを特にゼノはこやつらに教えねばならぬ立場のはずだ」
ビシとゼノを再度叩く。
「いいか! 特に貴様は自分のことを顧みないところがある! それは何か物語の中では英雄になれるのかもしれんが、貴様には守るべき家族がある! 今後二度と自分の体や命を粗末にするようなするな!」
この俺が許さん!
と捨て台詞を吐いて、アッシュは自分の家へと帰って行った。
「みんなごめん」
ゼノが素直に謝り頭を下げた。
この日はみんながそれぞれに自分の行動を反省する日となった。
●
「あ、……あのさぁ!」
ピクトがこっそりとアッシュの家を訊ねる。
「まだ叱られ足らんのか?」
「ち、違うよ。さっきのことをもっと詳しく聞きたくて」
「で、みんなに内緒で俺のところへ来たわけか」
健気だな。とアッシュが微笑む。
さっきまでむすっとした顔をしていたのを見ていたから、ピクトはほっとした。
「そうこれ! 今あたしはほっとしたんだけど」
「あぁ。俺に怒られないからだな」
「さっきあの人間が帰って来た時もほっとしたんだ」
「ほぅ? 大した成長ではないか」
「違う! あたしは所有者の命令で動く魔道具のはずで、ほっとするとか自分で自分を壊すとかはしないはずなんだ」
それに。と一言置く。
「あの人間が死ぬ。って考えたら、ここがきゅーって痛くなったんだ。これってあんたが言ってた心の傷ってやつじゃないのか?」
ここ。と言って自分の胸を指す。
「茶を淹れよう」
アッシュは、ピクトの問いに直接は答えずに席を立つ。
「俺はかつて効率のことばかり考えてゼノを王都から追放したことがある」
ピクトが顔を上げる。
「あの時はその判断が一番正しいと思っておったし、王都のことを考えればそれは正解だったのかもしれない。まぁ、ゼノの能力の本質を見極められなかった俺が今度は追放されたがな」
ガハハと笑いながらお茶を準備する。
「だがな。不思議かな。今ではこんな非効率なことばかりしている。それもそれが嫌だと感じない自分がおる」
そのままお茶の1つをピクトに渡す。
「む。うまい」
1口飲んで感想を述べる。
「今の俺が思うことは、ゼノがいなくなったら胸が痛くなるということだ。かつて追放をしたのにだぞ?」
「どうして?」
「さぁな。不思議なもんだよな。きっとそれが家族というものなんだろう? どうした? 飲まないのか?」
ズズズ。ともう一口アッシュがお茶を飲む。
「我ながらうまいな。これからはルミエにお茶の淹れ方を教えねばなるまい。さて、1ついいことを教えておいてやろう」
アッシュがお茶を置いて、人差し指を立てる。
「人間は間違いを犯す。これは魔道具も一緒だ。前はこうだったのに。なんてのは結局自分の価値観でしかない。今、自分はどう思っていて周りはどう思っているのかが大事だ」
「前のあたしは間違っていた?」
「そう思うのも必要だし、間違っていたならば今後どうしなけばいけないかを考えることも大事だ」
「だからあんたはあの人間を助けてるのか」
そう言われるとアッシュは、ふん。と鼻を鳴らして、さぁ話しは終わりだ。とピクトを追い立てた。
「今のあたしの気持ちと、周りの気持ちか……」
夜の空にピクトの言葉がゆっくりと落ちた。
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