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第25鑑定 降り立つ影

「どうだ? 何か話す気になったか?」

 1人の兵士がゼノに言う。

「は、はは、話すも何も、ぼ、ぼ、僕はす、す、スパイなんかじゃあ、あ、あ、ありませんよ」

「ふん。動揺しておるな」

 おりゃ! と兵士が槍の持ち手で叩く。

「さて。国王より貴様の処刑の許可を貰った。本当ならこのまましばらく見世物にしてから処刑をしたいところだが、そうもいかない。貴様のような輩が二度と出ないように見せしめだ」

 ニヤリと兵士がほくそ笑む。

「よく聞け皆の者! 我が国を裏切った者の末路を!」

 兵士が合図をすると、ゼノの背後に控えていた大男が巨大な斧を振り上げた。

 広場は狂気で満たされていた。

 集まっている誰もがゼノの処刑を望んでいた。

「こんなの変でちゅ!」

 ゼノのカバンからミルクが飛び出した。

「ゼノを傷つける人間は絶対に許さない!」

 ルルも飛び出した。

「ルル! ミルク! だめだ! 君たちが見つかったら」

「魔道具を隠し持っていたぞ!」

「危険だ!」

「テロリストだ!」

 広場中がパニックに陥った。


 ●


「魔道具は全て国王の物……ですか」

 ルミエが落胆する。

「あぁ。ローレル王国の魔道具が全て城に集約されている。その中で、あいつの魔道具が見つかったらどうなると思う?」

 アッシュが頷きながら問う。

「そりゃー。王様の命令を聞かなかったって思うんじゃない?」

「その通りだ。例えその魔道具に殺傷能力がなかったとしても、その魔道具を使ってなにか反乱を起こす。と思われるわけだ」

 ミラーの答えにアッシュが頷く。

「しかもあいつは若い。普通ならば戦争に駆り出されるはずだ。そんな男が呑気に王都を歩いていたらどう見られる?」

「何か悪だくみを考えていると思われる?」

 シャルロットが首を傾げながら答える。

「うむ。そしてあの国は言い分を聞かない。王が悪だと言えばそれは悪になる」

「悪と言われたお父様はどうなるのですか?」

 アイリスがアッシュに迫る。

「問答無用で処刑されるだろうな」

 アッシュが首を左右に振ると、他の魔道具が一斉に立ち上がった。

「そんなのさせません!」

「マスターはオレが守るぜ!」

「我が全て切ってやろう!」

「ゼノ様はみんなにとって必要です」

「ゼノを殺した奴を全力で呪うよ?」

「あの人間がいなくなったらつまらなくなるからね」



「待て待て待て待て!」

 一気に王都まで行こうとするゼノの家族たちをアッシュが引き留める。

「今言ったことを忘れたのか? 魔道具が王都に姿を見せたらどうなるのか」

「どうなるんだよ」

 ミラーが甲高く叫ぶ。

「捕まって国王の所有物にされるんだよ!」

「全て破壊します」

「そりゃ魔導人形なら可能だろうがな、前にも言っただろ? ローレル王国は能力国家だ。魔道具の力を封じる能力を持っている者がいるかもしれないだろ?」

「うぇー。それじゃあお手上げだね」

 ピクトがイスに深く座り直す。

「関係ありません」

 どんどんアイリスがアッシュに迫る。

「私はお父様を助けに行きます」

「何でそんなことするんだよ。行ったら自分が捕まっちまうかもしれないんだぜ?」

 ピクトが目をグリグリさせる。

「お父様は私を拾ってくれて救ってくれた人です」

 アイリスがピクトの方を向く。

「恩返しをするのに十分な理由です」

「返しても返しきれないけどな!」

 ミラーがピョンと飛び跳ねる。

「それは……」

 言いかけて一瞬ピクトが口を閉じる。

 とても言いにくそうな様子だ。

「魔道具としては失格です」

 その気持ちを汲み取ってルミエが代弁した。

「でも、私たちはそうしたいのです」

 にこりとピクトに向かってルミエが微笑む。

「そうしたい?」

「まだピクトちゃんには分からないかもしれませんね。私たち家族の絆はそれほど強くなってきているのですよ」

「それは、あの女の人間がやっていることと一緒?」

「バカ者!」

 ルミエがそうです。と言おうとしたのをノワールが遮った。

「我の思いをあんな人間のメスと一緒にするな! 叩き切るぞ!」

「ボクの愛情もそんじょそこらの愛情と一緒にしないでほしいね。ボクはね、ゼノに傷付けられた傷でさえも愛情だと思えるんだから」

「ここまで行くとは行き過ぎですが、私たちはゼノ様のためならこの命を捧げてもいいと考えています」

「とても非効率ですが、どうやら私はその非効率のやり方を知ってから、そっちの方が好きになってしまったようです」

「やり方を好きに? 魔道具がそんなこと……」

「ふん! 何をごにょごにょ言っておるか! 貴様だってそうやって悩んでるだろうが! 十分魔道具らしからぬぞ!」

 アッシュが鼻を鳴らす。

「確かに非効率ですね」

 アイリスがわざと目を飛び出させてピクトを見る。

「またお父様に治して貰わなければなりません。今からお迎えに行ってきます」

「……そうか。そういう理由ならば仕方なかろう」

 アッシュが剣を持ってアイリスについていく。

 その後を他の魔道具が追った。

 1人部屋で取り残されたピクトに向かってミラーが一言。

「ほら。行くよ」

 何も言わずにピクトもみんなについて行った。



 ●


「皆さん! 落ち着いてください! この者は今すぐに処刑しますのでご安心を! どうぞ落ち着いてください」

 兵士の1人が叫びながら民衆を落ち着かせる。

「応援を呼んでくる!」

 ゼノを切ろうとした大男が一言言い残し、走り去る。

「さて貴様。魔道具を隠し持っていたことはもう言い逃れはできん。国王は情報を欲しがるだろうがその前に貴様を処刑して安全を優先させてもらう」

 ブンと剣を振り回す。

 素人のゼノから見たら、その腕がいいのか悪いのかは分からない。

 ただ1つ、絶体絶命だということだけは分かる。

「ルル。ミルク。君たちは逃げて」

 ゼノが2人に言うが、ルルもミルクも逃げる素振りすら見せなかった。

「絶対に嫌でしゅ!」

「ルルだって嫌だね! 姿を消す力はもう少し時間が経たないと使えないけど、何か方法があるはずだよ!」

「君たちを危険に晒すわけにはいかないんだ」

「アタチは今パパを失ったら一生後悔するでちゅ」

「僕だって君たちを失ったら後悔するよ!」

「何をごちゃごちゃ言っている」

 声の方を振り向くと、何十という衛兵がゼノたちを取り囲んでいた。

 さっきまで騒いでいた人々も、もう安心したと思ったのか平静を取り戻していた。

「まずはあっしが」

 ヒョロい男が何やら手をかざす。

「ふ。これで貴様らに抵抗する力はもうないぞ」

 剣を振り回す男がニヤリと笑う。

「この者は魔道具の力を一時的に封じ込める能力を持っておる」

 気合と共に剣を突き刺してくる。

「わっ!」

 尻もちをついたおかげで、ゼノは助かった。

 しかし、その分身動きも取れなくなってしまった。

 ルルとミルクが大急ぎでゼノの前に立ちふさがる。

「ふん。魔道具ごと切り伏せてくれるわ!」

 男が剣を大きく振りかぶる。

 ゼノは覚悟して目を閉じた。

 太陽の光が目の裏にまだ残る。

 ――あぁ。これでおしまいなんだ。ごめんねアイリス。ちゃんと治してあげれなくて。きっと死ぬのは非効率だと非難するんだろうな。

 ミラーはギャーギャー僕のお墓の前で叫ぶんだろうな。

 ルミエは大丈夫そうに見えて一番傷付きそうだ。

 ノワールはみんなの前で強がって夜な夜な泣いていそうだね。

 シャルロットは一番号泣するんだろうね。僕の後を追わなければいいけど。

 ピクトはバカにするんだろうな。あたしの言うことを聞いていればよかったんだよとか言いそう。

 自然とゼノは笑みがこぼれた。

「ごめん。ルル。ミルク。最後にみんなの顔を思い浮かべちゃったら何だか安心しちゃった」

「大丈夫でちゅパパ」

「ルルは死ぬ時はゼノと一緒だよ」

 ゼノが2人を抱きしめた。

 その時―

 目を閉じているゼノの視界が暗くなった。

 そして風を感じる。

 思わず目を開けるゼノの目の前に懐かしい光景が広がっていた。



「ごきげんよう。鑑定士様」

【読者の皆様へ】

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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