第21鑑定 不穏な王都
「ではお父様が王都へ行ける作戦を考えましょう」
「本当に行くのか? 言っておくが俺はついて行かないからな?」
「パパを守って欲しいでしゅ」
「頼むよーおじさんー」
ミルクとミラーがアッシュにまとわりつく。
アッシュは、誰がおじさんだ! などと言っている。
それを横目にピクトが真面目な顔で言う。
「あたいも王都に行くのは反対だけどなー」
「ふん! 怖がりめが! どんな敵が現れようとも我が叩き切ってくれるわ!」
「ノワールちゃん。そんなはしたないこと言うもんじゃないわよ?」
「ボクのゼノを傷つけるやつがいたら呪い殺してあげるよ!」
「シャルロットの方が怖いよー」
ルルがピョンピョン楽しそうに飛び跳ねる。
「ねぇルル。この前の部品で確か新しい力が使えるようになったんだよね?」
「お! ゼノはよくルルのことを知ってるねぇー。実はルルは持ち主が探したい物の場所を指す力の他にも、ルルが認めた人のことを短い時間だけ姿を消させることができるのさ」
ふふん。と得意気な顔をする。
「ルルの本来の使い方だよ! 手に入れたい物の場所をルルが指し示して、姿を消してそれを手に入れる」
「それだよルル!」
ゼノがガバッとルルを抱きしめる。
「ゼノったら」
ルルが頬を染める。
「ルル! 姿を消せるのに制限はある?」
「人数の制限はないけど人数が多くなると時間が短くなるよ」
「時間が短いのは困るよねー。どうしよっかー」
ゼノがキョロキョロ辺りを見渡す。
「ゼノ様ゼノ様」
今度はルミエが胸を張る。
「私の中は広いですよ? ここにいる皆さんが十分に入れますよ」
「アッシュさん! これで王都に行けますよ!」
「俺は行かないと言っているだろう」
「おじさん! マスターを守ってくれるって言っただろ?」
「誰がおじさんか! 俺はゼノを守るなんて言っておらんぞ」
「不可解。アッシュさんは私たちの家族のはずです。家族は支え合うとお父様が言っていました」
「誰が家族か!」
「家族でしょ?」
アッシュが唾をまき散らす横で、ミラーが平然と言う。
「家族です」
アイリスがタイヤをカラカラと回す。
「家族じゃなかったのですか?」
ルミエが両手で口元をパッと抑える。
「誇り高き魔剣の従者になるがよい!」
ノワールが壁でガタガタ揺れる。
「ボクはゼノさえいれば何でもいいよ」
シャルロットがゼノに抱き着く。
「ズルいでちゅ!」
ミルクも抱き着く。
「むむむ。キミはボクのライバルだね」
「アタチは誰のライバルでもありましぇん!」
「どうでもいいけどあたしは絶対に王都に行かないからね!」
「何でさー。ピクトだって王都に用事があるって言ってたじゃんか」
ゼノがピクトを持ち上げる。
「あたしのことは放っておいて!」
ピクトがゼノの手から逃れようとする。
「だめだよピクト! 何だか君のことはとっても心配になるんだ。何か隠し事してるだろ?」
「う……煩いな! 隠し事なんてしてない!」
「ちょっとピクトどこ行くんだよー!」
●
王都――
「あそこの坊主、しょっぴかれたらしいぞ」
「なんでまた」
「招集を無視したらしい」
「しっ! 兵士が近づいてくる」
数日前とは違い、王都は陰湿な雰囲気に包まれていた。
「まるで別の国だな」
ふん。と鼻を鳴らすアッシュの姿がだんたんと現れてきた。
「で、どこに向かうんだ?」
チラリとゼノの肩から掛かっているカバンに目をやる。
カバンの中にはルミエがいる。
そして、ルミエの中にアイリス・ミラー・ノワール・シャルロット・ルル・ミルク・ピクトが入っている。
「すごいよルル! こんなことまでできるなんて!」
「まったくゼノはしょうがないなー。ルルがいないと何もできなんだからー」
どうやらゼノにはどこ吹く風のようだ。
しびれを切らしたアッシュがゼノの耳を引っ張る。
「ど・こ・へ・い・く・ん・だ!」
他の家族たちはやれやれ。と首を横に振った。
「まずはエリスのところに行きたい。今も無事なのか気になるから。あとは、セラにも会いたいな……」
耳を抑えながらゼノが涙目で答えた。
「セラ?」
「殺戮天使のことですわ」
ルミエがアッシュに教えると、アッシュが顔をしかめた。
あの魔道具のことか。とか言っている。
「ルルといつもお話ししてくれてたあのこ?」
ルルがルミエの中でガタガタ動くから、他の家族から怒られていた。
「殺戮天使は国王の持ち物だろ? 無理だと思うぞ?」
「分かってるけど、会えるなら会いたいなと思って。元気にしてるかな? 嫌なことされてないかな?」
「ふん。つくづく変なやつだな貴様は」
「なんでそんなに不機嫌なの?」
「不機嫌ではないわ!」
「ずっと不機嫌じゃんか。僕なにかしたかな?」
「うっさいわ! さっさと弁当屋に行くぞ!」
ゼノとアッシュがエリスの店に行くと、店は閉店していて他の店になっていた。
「弁当屋? そんなものはこの街にはもうないよ。ぜーんぶ戦争関係の店に変わってるさ」
待ちゆく人の言葉通り、ある店は武器屋とかそんなのばかりだった。
「ギルド長?」
通りから声がした。
「ギルド長ではないですか! お久しぶりです!」
アッシュの元部下だった者だろう。
数人がアッシュの元へかけてくる。
「貴様ら。久しぶりだな。こんなところで何してる?」
「それはこちらのセリフですよギルド長! この戦時中に油を売ってるのですか?」
「いや。そうではない。ほれ見ろこのぼんくらを。このぼんくらを国のために働かせようとしているところだ」
そう言ってゼノの首根っこを掴む。
ルミエの中から、一斉に何やら叫ぶ声が聞こえるが、周りの音がうるさくて兵士の耳には届かなかった。
「そうでありましたか! 我々はこれからユリ帝国へ攻め込むところです」
つまり、戦争に参加する兵士というわけだ。
「そうか。効率的に戦え」
この言葉を聞いた元部下は目を輝かせて、敬礼をして去っていった。
「俺がよく使っていた言葉だ」
不思議そうに見るゼノに向かってアッシュが呟く。
ぱっと手を離すとミラーが甲高く叫んだ。
「マスターを掴んだ時には殺してやろうかと思ったよおじさん」
「敵意は感じませんでした」
どうやら、他の家族をアイリスが止めたらしい。
「相変わらず効率的が好きなんだね」
ゼノがにこりと微笑むと、アッシュが首を横に振った。
「効率的に戦うということは、死ぬなということだ。そうだろう? アイリス」
「その通りですおじ様。死ぬということは戦争において非効率的です」
「おじさん優しいじゃん!」
ミラーがキーキー言う。
「ゼノ?」
アッシュが何か言う前に背後から声がした。
「エ……エリス……」
「何してるのこんなところで! ギルド長まで! ちゃんとゼノのこと面倒見てくださいよ!」
ツカツカとエリスが怒りながら歩み寄って来る。
「い、いや。俺は保護者では」
「いい? ゼノ! もう王都は安全な場所じゃないの。こんなところにゼノは来ちゃだめ」
「け、け、けどエリス」
「私なら大丈夫だから。ちゃんと言う事聞いて? ね? 助けてが欲しかったら私から言うから」
ほらこれ。とゼノにお手製のお弁当を渡す。
「ホントは自分で食べたかったけどあげる! あ。そうだ。ゼノって色んな道具好きだったでしょ? これもあげるよ」
「相変わらずよく喋るな」
ヒソヒソとアッシュがゼノに言う。
「これ!」
小さな袋には、ネジなどがたくさん入っていた。
「ゼノのために集めておいたんだ」
にこりとエリスは一度微笑み、真剣な顔に戻って後ろからゼノとアッシュを追い立てた。
「はい。部外者は帰る帰るー」
●
「ユリ帝国陥落……」
アッシュが呟く。
「これから酷い時代が来るぞ」
「どう? ルル!」
「うん! 7割治った気がする!」
「治ると前の記憶が戻ったりはしないの?」
「ルルは持ち主がまだゼノじゃないから記憶が戻る可能性はあるけど、他のみんなはたぶん所有権を放棄されてるから……」
ゴンとアッシュがゼノにゲンコツを食らわせる。
「何するんだよおじさん!」
ミラーが噛みつく。
「誰がおじさんか! いいか。これからローレル王国はもっとダンジョン探索を進めるぞ。そうして魔道具をたくさん入手して、更に世界へ侵攻していく」
「でもアッシュさん。なんでそこまでみんな国王の言うことを聞くの?」
「何だずっと王都に住んでて知らんかったのか? ローレル王国は世界有数の能力者国だ」
「能力者国?」
シャルロットが首を傾げる。
同時に首がもげた。
「あー! シャルロットー!」
慌ててゼノが修理を始めた。
「様々な能力者がいる国だ。その力で国民を制御、いや強制しておるのだ。ユリ帝国で手に入れた捕虜たちを使って今までできなかった無茶なダンジョン探索をするだろうな」
アッシュの言葉通りローレル王国では、大規模なダンジョン探索が行われることとなった。
そして、ユリ帝国の隣にあった小国、ブットレア共和国に宣戦布告をしたのであった。
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