第19鑑定 嵐の前日
――王都。
「安いよ安いよ!」
「さぁ買った買った!」
「今日も暑いわねぇ」
「ちょっと聞いた? あそこの息子さん。お城へお仕えすることになったらしいわよ」
「王都は相変わらずだねぇ」
辺りをキョロキョロしながらゼノが言う。
そのカバンにはルミエが入っている。
ルミエの力で、ルミエの中にピクトとミルクがいる。
「私は王都にはいたことがないので」
ルミエだ。
「そうなの? 前はどこにいたの?」
「それが分からないのです……」
「分からない?」
「おかしいですよね? 私にはあのゴミ捨て場に捨てられる以前の記憶がないのです……」
ルミエが苦笑いする。
「みんなそうなの?」
「みんなかどうかはわかりませんが……例えばノワールちゃんはあそこの家を自分が住み育った由緒正しき場所だと思っています」
「確かにノワールはそんな感じだったね」
「他の方も似たようなものです。捨てられたり廃棄された時に記憶が消えてしまうのです。魔道具の悲しい宿命ですね」
「魔道具は……持ち主が変わると以前の記憶を失ってしまう?」
「えぇ。前の持ち主の秘密などを知られてしまうのを恐れてのことでしょうね」
その時のルミエの寂しそうな表情は、ゼノにとって忘れられないものとなった
●
「ゼノ!」
馴染みの弁当屋でエリスが声をかける。
「エ……エリス……」
「何? 探し物?」
ゼノの顔色を見ただけでエリスが察する。
ゼノが頷くと、中からルミエが顔を出した。
「訳ありなのね」
エリスが、あがって。と家の中に招き入れた。
「つまりカメラちゃんの欲しい魔道具を探しに来たのね。んで、コンパスちゃんの修理道具もついでに探してみたってことね」
「そうなの!」
ピクトがピョンピョン飛び跳ねる。
「話しが分かるね! 人間!」
「パパのお嫁さんでちゅか?」
「やだもぅー。哺乳瓶ちゃんはー。私とゼノはただの幼なじみよー」
バシンとゼノの背中を叩く。
「アタチのママになるんでしゅか?」
「だからならないってー」
またバシンと叩く。
「エリスちゃん。お茶が入りましたよ」
ルミエがにこにこしながらお茶を運ぶ。
●
「骨董品屋と道具屋か……」
ゼノが呟く。
エリスが言うには、ピクトが欲しがる魔道具は骨董品屋にある可能性が高いということだ。
「そもそも魔道具が売りに出されることは少ないからなぁー」
ブツブツとゼノが言うのをピクトが反応する。
「魔道具ってそんなに珍しいの?」
「そりゃあ珍しいよ! 僕は前この王都で鑑定士やってたんだけどさ」
「鑑定士?」
「物を修理したりどのくらいの値打ちがあるのか見たり、どんな力が隠されているのか見たりする仕事。つまり魔道具に遭遇しやすい環境にいたんだけどさ、それでも魔道具を見たことはなかったよ」
「じゃあ今はかなり珍しいんでしゅね?」
ルミエの中からミルクが声を出す。
その声だけではしゃいでいるのが分かる。
「ちょっと動くなよ狭いんだから」
「私の中はそんなに狭くありません」
ルミエがピシャリと言う。
そんなやり取りを聞きながらゼノが微笑む。
「そうだね。珍しいのかもしれないね。ちょっと大変だけどね」
ははは。とゼノが苦笑いする。
骨董品屋は陰湿な印象だった。
「いらっしゃい」
主人の頬はこけており、骸骨を想像させる。
「何をお探しで?」
「ま……まど……」
「窓? 窓は家具やに行ってください」
主人がくるりと後ろを振りかえる。
ゼノのことを冷やかしとでも思ったのだろう。
「まどうぐ……ありますか?」
言葉を聞いた主人の動きがピタッと止まった。
「そんなものはありません」
ゆっくりとゼノの方へ振り向く。
「あったら城に持って行かれます」
黄色い歯をむき出しにしてくる。
「あ……」
「さぁ! 冷やかしなら帰った帰った」
ゼノは追い出されてしまった。
「そうだよなぁー。魔道具なんてあったら城が全部取り上げるよなぁー」
「つまりゼノ様。王都では魔道具は流通しないということですか?」
「そうだね。元々家にある魔道具とかなら持っている人もいるだろうけど、王都は基本魔道具を全て国王に献上する決まりになってるから」
「じゃ! じゃああたし達もヤバいじゃないの!」
ピクトがルミエの中でガタガタする。
「ちょっと暴れないでください」
ルミエが蓋をカタンカタン鳴らす。
ゼノ達が次に訪れたのは道具屋だ。
色んな物を修理するための道具が売っている。
「うーん……」
ゼノはかれこれ1時間も悩んでいる。
あーでもない。こーでもない。とブツブツ言っている。
「あの……ゼノ様?」
ルミエが遠慮がちに声をかけるも、その返事はない。
「だめですわね。ゼノ様はこうなると周りの声が聞こえなくなりますわ」
やれやれと首を左右に振る。
「じゃああたしの欲しい魔道具を探すのはまた今度になるってのかい?」
「そもそもなぜピクトちゃんは魔道具が欲しいのですか?」
「な……何でだっていいだろう?」
「話したい相手にお手紙を書くんでちゅよね?」
「うるさいなぁ! あたしにだって友達の1人や2人はいるんだよ!」
「別に友達がいないとは言ってないでしゅ」
「……」
集中しているゼノをピクトがチラリと見る。
「あたしもブラブラしてくる」
そう言うと、ピョンとルミエの中から飛び出した。
「あ! 人間に見つかってはいけませんよ?」
「任せな~」
ピョンピョン飛び跳ねながらピクトはどこかへ向かって行った。
「やぁお待たせお待たせ」
両手いっぱいに荷物を抱えてゼノがニコニコしてる。
「随分買ったのですね」
「これでルルだけじゃなくて、みんなの修理も進みそうだよ」
「あたしは壊れてないけどね」
「ピクトたん。戻ってきたんでしゅか」
「どこ行ってたの?」
「暇つぶし。それよりさ人間! あっちに面白そうな物があったんだ!」
ピクトが案内した場所には、巨大なモニターに呆けた顔で立つゼノが映し出されていた。
「何これ!」
「パパおっきいでしゅー」
「立派でございますわゼノ様」
「このカメラで映したものをこのでっかいのに映せるんだって! あたしみたいな感じだしこれ買おうよ!」
「いらないよこんなの。何に使うのさ」
「えー! 面白いじゃんかー。あたしの分身だぜー?」
「あれは家電。君は魔道具でしょ!」
ピクトは最後までギャーギャーうるさかった。
●
「起動……展開……くくく……まずは隣のギルドを、いや。国ごと滅ぼしてしまうか……」
国王の目の前には巨大で黒い人形がそびえ立っている。
「魔道具……魔侍、魔法刀、魔鎧、魔兜……」
古い書物と目の前の魔道具を交互に見ている。
「残りは魔馬と魔忍……世界を震撼させた古代の遺産か……」
くくく。とほくそ笑む。
この日、王都におふれが発令された。
その日以降、王都に平和は訪れなくなった――
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