第17鑑定 壊れた哺乳瓶
「マスター! 見てよ! ゴミの山だ!」
ミラーがピョンピョン飛び跳ねる。
「うわぁー。すごいね! 宝の山だね」
「何が宝だ。どう見てもゴミだろうが」
「違うよアッシュさん。この中には使える物がたくさんあるんだ。だから宝の山」
「新しい物を買った方がずっと効率的だ」
アッシュは、フン。と鼻を鳴らしてまだ使えそうな物を探し出した。
「魔道具を検知」
アイリスが目を飛び出させる。
「また本当に戻せなくなっちゃうかもしれないから、それはやめよう?」
最近のアイリスは、びっくりした時のリアクションで自分の目を飛び出させる。
「ゼノ様。こちらをご覧ください」
ルミエが指す方向には、使い捨てられたであろうカメラと哺乳瓶が転がっていた。
「魔法カメラと魔法哺乳瓶ですね」
ゼノが拾い上げるのを見てルミエが説明する。
「君は……どこも壊れていないね」
ゼノが一発でカメラを見抜く。
「まだ使えるのに捨てらるなんてかわいそうに。よかったら一緒に家族になるかい?」
「いいの?」
ぴょんとカメラが飛び跳ねる。
「当たり前じゃないか! 君はピクトだ。そして君はもう必要じゃなくなったのかな? あぁ。ひびが生えているね。吸い口も切れてる……大丈夫。僕が治してあげるから。一緒においで? ミルク」
「アタチ……みるく?」
「ゼノ! ルルをパワーアップできそうな部品があったぞ!」
遠くからノワールが呼ぶ。
「ノワール……それじゃあルルは治せないよ」
ノワールが手にしていたのは刃の欠けた巨大なハサミだった。
「何でだ! 圧倒的にパワーアップできるであろうが!」
「強くするんじゃなくて治すんでしょ?」
「つ……強くしながら治せばいいではないか」
「別に強くする必要はないよ」
笑いながらゼノが言う。
そう言いながらも、その巨大なハサミを修理していた。
「何もここで修理しなくてもよいだろうに」
その様子をアッシュが咎めるが、集中しているゼノの耳には入らない。
「よーし! だいこんさん!これで切れ味は抜群だと思うよー! ここに置いておくのも勿体ないし今度王都に連れて行ってあげるね?」
ゼノがニコニコして言う。
それを見て、アイリス・ミラー・ノワール・ルミエ・シャルロット・ルル・アッシュが首を横に振った。
●
「いつもあんななのか?」
唐突にピクトがシャルロットに問う。
「あんなって?」
「あの人間……」
あの人間と言ってゼノを指さす。
「どんな道具でも修理するのか?」
「んー。そうだねー。ゼノはどんな物でも見捨てないから」
「あんたたちはみんな捨てられた魔道具たちか……」
「そ! しかも捨てられた理由はみーんな違う」
ピョンとシャルロットがゼノのベッドに飛び乗る。
「壊れたから。新しいのを買ったから。型が古いから。もう役目を果たしたから……人間は勝手な理由でボクたち魔道具を捨てる」
もぞもぞと毛布に潜る。
「あの人間はそれをしないと……?」
「そうでちゅ! パパはそんなことしないでちゅ」
「おい魔法瓶! あんたあたしたちの任務を忘れたのか?」
「任務?」
シャルロットがむくりと起き上がる。
「いや。何でもない。魔法人形は寝ててくれ」
そう言ってピクトはミルクを外に連れ出した。
「見てー! パパが治してくれたのぉー!」
そう言ってミルクが飲み口を見せる。
これで零れないよー。などと言っている。
「いいか! あたちたちは任務を失敗したら捨てられるんだぞ?」
「アタチは最初から否定的だったよ?」
それに。とミルクが続ける。
「パパはアタチたちを捨てないよ?」
「バカ!」
ポカリとミルクを小突く。
「あたしたちには持ち主がいるんだよ。魔道具の宿命だ。持ち主の命令には逆らえない。そう作られている」
「アタチはパパを裏切りたくないよ」
「あんたの気持ちなんてどうだっていいんだよ! あたしたちは命令に従うだけ。そのように作られてるんだ」
そう言ってピクトはミルクの中に水を入れた。
「あたしはあの人間の力をトレースした。後はあんたの番だ」
「ううう……パパ……」
●
「あれ? ミルクは?」
翌朝、ミルクが居なくなっているのを見てゼノがピクトに訊く。
「あぁなんか王都に用があるとか言ってたよ」
「そうなんだ? どうせ僕も今日行くから言ってくれればよかったのに」
「え? に、人間も王都に行くのか?」
「うん! 昨日治しただいこんさんを連れて行ってあげるんだ」
そう言って笑顔で巨大なハサミを取り出す。
「そ……そうか……あたしはここで待ってるよ」
「おっけー。お留守番お願いね?」
「ボクはずっと一緒だからね?」
シャルロットがひっつく。
「私もお父様と一緒に行きます」
アイリスが一瞬ピクトを見て、そのままゼノの後についていく。
●
「よくやったぞ魔法哺乳瓶」
国王の付き人が喜ぶ。
そのまま中の水を飲み干すと、ミルクを投げ捨てた。
「さぁ。これであの男もカメラも哺乳瓶も用済みだ」
小男がゆっくりと目を閉じる。
それから目を見開く。
「力が漲る。これがあの男の力……よく見えるぞ。ほう? この剣にはこんなに傷があったのか。ようし新しいのに変えてやろう……」
小男はスタスタとその場を後にする。
割れた魔法哺乳瓶には目もくれなかった。
数時間後、魔法哺乳瓶は再び廃棄され、ゼノのいる村へと送られることになった。
●
「なんだ。ゼノはいないのか」
アッシュが勝手に家にあがる。
「なんの用だい?」
ミラーがピョンピョン飛び跳ねる。
「む。用が無ければ来てはいけないとでも言うのか?」
そう言ってアッシュがミラーの方を向いた瞬間、その顔から血の気が引いていた。
「魔法カメラ!」
ピクトを見てそう言うなり、ピクトに向かって斬りかかろうとする。
「貴様!」
ノワールがそれを防ぐ。
「なぜ邪魔をする! お前たちこの魔道具がどんな魔道具なのか知っているのか!」
「我は知らん! だがゼノが迎え入れた家族だ」
目の前で繰り広げられる戦いにピクトは、ガタガタ肩を震えさせる。
「家族だと? これは――」
アッシュが唾をまき散らす。
「大丈夫ですよ。家族は私たちが守りますから」
ルミエがそっとピクトを抱き寄せる。
「能力をコピーする魔道具だぞ! 大戦時たくさん流用された! 最悪の能力をも使える最悪の魔道具なんだ!」
「もうそのへんにしてくださいアッシュさん」
ゼノが帰ってきた。
その手には割れた魔法哺乳瓶が抱えられていた。
「まだ生きています。すぐに治させてください……」
涙を流しながら頼むゼノの言葉を、アッシュは受け入れた。
「いいか。この中の誰かの力がコピーされた可能性があることだけは頭に入れておけ。最悪の場合には魔導人形を相手にしなければならないぞ」
そう言ってアイリスを指さしながらアッシュは家を出ていった。
「ごめんね……」
ゼノは、僕がついて行ってあげればよかったね。と泣きながら魔法哺乳瓶を修復した。
その様子をピクトが、不思議がって見ていた。
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