第16鑑定 カメラと哺乳瓶
「お父様」
夜遅くにアイリスが声をかける。
「どうしたの?」
「あの話しが気になります」
「あぁ。もしも敵が攻めてきたらってやつ? 君たちは自分たちから攻撃をしては絶対にいけない」
「でもそれではお父様が殺されてしまいます」
真剣なアイリスの言葉を聞いてゼノは軽く笑った。
「君たちを残して死ぬのはやだなぁ」
「お父様は死んではいけません」
「そうだねぇ。せめて君たち全員を完全に治してからじゃないと死ねないなぁ」
「ダメです」
「え?」
「私たちが完全に治ったら、そこから家族が始まります」
「今も家族じゃん」
「治ったら家族じゃなくなるなら、私は治してほしくありません」
「そういう意味じゃないよ。治っても治らなくてもずっと家族だよ」
「それならお父様は死んではいけません」
アイリスは真剣だった。
「アイリス……よく聞いてほしい。さぁ。こっちへ来てそこへ座って」
ゼノがベッドの隣の椅子にアイリスを座らせた。
「いいかい? 僕は絶対に君たちよりも先に命が尽きる。それは寿命かもしれなし病気かもしれないし、誰かに殺されるからかもしれない」
「そんな」
アイリスの言葉をゼノが遮る。
「でもね。確かにそこで命は尽きるけど死ぬわけじゃないんだ」
「言っている意味がわかりません」
「君たちが僕のことを忘れないで、僕の意思を継いでいてくれる限り、そこに僕は生き続けることができるんだ」
「理解できません」
「理解出来なくてもいい。覚えておいてくれれば」
「分かりました……記憶しておきます」
「さぁ! 次は楽しい話しをしようか」
「楽しい話しですか?」
「マスター! さっきからアイリスとばっかりズルいぞ!」
「ボクずっとベッドで待ってるんだけど」
「新しいお茶をお持ちしましたわ」
「ゼノ! ルルの針知らない? どっか行っちゃったんだけど」
「おいこら! 我のことも忘れるな!」
魔道具たちが一斉に喋り出すと、外から大声がした。
「何時だと思ってるんだ!」
●
「それが貴様の目標か」
アッシュが鼻をふんと鳴らす。
「はいどうぞー」
シャルロットが目玉焼きを2人分持ってくる。
「アッシュさんはどう思いますか?」
「壮大な構想ではあるが、いささか突拍子もなすぎて理解が追いつかんな。この廃れた土地を村にする。それも魔道具と人間が一緒に暮らせる村とはな……」
貴様らしいと言えば貴様らしいが、実に非効率的な。などともごもご言っている。
「もしもそんな村ができたら、私たちは安心して外へ歩けますね」
ルミエが暖かいお茶を2人に渡す。
「いや……」
アッシュが言葉を落とす。
「もしもそれが実現したならば」
全員がアッシュを見る。
「あらゆる国から敵対視されるか搾取されるだろうな……」
「どうして?」
ミラーがアッシュの膝の上に乗る。
「魔道具と仲良くだぞ? 人間からしたら夢のような話しだ」
「人間は魔道具を道具として好きなように扱っていますが?」
アイリスが目玉を飛び出させる。
「魔道具を使うのは人間の意思だ。しかし、この村……貴様らは違うだろ? 魔道具の意思で動いているだろ? それは人間の脅威ともなるが同時に人間の夢でもあるんだ」
ひょいっとミラーを横の椅子に乗せながらアッシュが言う。
そのままお茶を飲み干し、シャルロットの作った朝食を完食して自分の家へと戻って行った。
「いいな! 今日こそは手伝わせんからな!」
「あれって、手伝ってってことだよね?」
「ミラーも人間の心が分かってきたね」
ゼノが微笑んだ。
●
某日、王都からゴミが排出される日――
「いいな? しっかりと奴の力をトレースして来い。トレースにそれなりの時間がかかることは承知している。絶対に焦るなよ? そして何よりもバレるな」
小男の付き人が魔法カメラに指示を出している。
そして、それを傍から壊れて廃棄された魔法哺乳瓶が聞いていた。
「ホントにやるの?」
魔法哺乳瓶がヒソヒソ言う。
「煩い黙れ。あたしは自分に与えられた任務をこなすだけだ」
「ねぇ。絶対に失敗するからやめなよ。自分を大事にした方がいいよ」
「うっさい!」
カメラがどつく。
王都の門が開き、ゴミが排出された――
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