第15鑑定 勧誘
「マスター! あの男さ! オレたちがせっかく手伝ってあげてるのに、勝手に手伝うなーって怒ってくるんだけど!」
ミラーが、もう手伝いたくないよー。と愚痴をこぼす。
アッシュは、ゼノの家で一緒に暮らすことはしたくないらしく、すぐ近くに自分の家を建てようとしていた。
しかしそれは、アッシュが何度も言い続けていた非効率的なことそのものだった。
「あの方は私たちが行くと、手伝うなー! と口では怒っていますが、どこか喜んでいるようにも見えます。とても不思議な方です」
「アイリスちゃん。そういうのをツンデレと言うのよ」
「なるほど。噂のツンデレですね」
ポンと手を叩いてアッシュの元へとアイリスが駆け出した。
「ルミエ。さっきのはちょっと違うと思うよ?」
「まぁ。私としたことが間違ったことを教えてしまいましたか?」
「そんなことよりもゼノー。ボクの腕知らない?」
「シャルロット! また腕取れちゃったの?」
「ルルが探してあげようか?」
「ルルはまだ完璧に治ってないから探す力使えないんでしょ?」
「ふっふっふ。力なんて使わなくても、シャルロットの腕がどこにあるのかルルにはわかっちゃうんだなー」
ニヤリとルルが笑う。
「え? どこ? 教えて!」
「しょうがないなー。ゼノはルルがいないと何にもできないんだからー。ほらここ。さっき落ちてたのを見つけたんだ! 偉い?」
「ありがとう。ルル」
ぽん。とゼノがルルを撫でると、ルルは真っ赤になってもごもご何か言っていた。
「アッシュさん。ツンデレはもういいですからさっさと家を作りますよ」
窓の外からアイリスの声がして、ゼノは嫌な予感がした。
「何がツンデレか! 勝手に手伝うなと言ってるだろうが!」
「不可解です。喜ばれると思っていたのですが」
「ふふふ。これは恋ねアイリスちゃん」
「こい……ですか?」
「相手が困っていればそれは恋なのですよ?」
「そうなのですか。アップデートしました。恋とは困らせること」
「あれはまずい!」
ゼノはルルを放り出してアッシュの家へと向かった。
同時にアッシュの怒りが爆発した。
●
アッシュの家がそれなりの形を成した頃、王都から使節団がゼノの元へとやって来た。
「これはこれは……あー。なんと言うか……実に個性的な家ですな」
「マスター。あの人オレたちに喧嘩売ってるのかな?」
ミラーが使節団の1人の言葉を聞いて皮肉る。
屋根もなくドアも吹き飛んでいる建物は、どう見ても家ではない。
「お待ちください。我々はあなた方に敵対心を抱いているわけではありません」
小男が手を前に出して、ミラーを制止する。
「我々はあなたの力が必要です。ほんの少しでいいのでそのお力をお借りできませんか?」
「ぼ、僕がち、力になれることな、ならなりま、ますよ」
「本当ですか?」
「困っている人がいたらすぐに助けたくなるのがマスターだからね」
「それはありがたい。暫く王都に住んでもらうことになりますので、城に1つ部屋を用意させましょう。そこでお好きなだけ研究ができるように必要な物も揃えましょう」
「ちょ……ちょっと待ってください!」
ゼノがせき込む。
「お父様が人間相手に普通にお話しするなんて珍しいです」
アイリスが興味深くゼノを見る。
「ぼ……僕はここに帰って来ます」
「それは困ります」
小男がお辞儀をしてゼノの言葉を断る。
「我々の問題が解決するまでは王都に居てもらわなければ」
「僕はこの家族たちを置いては行けません」
「家族? 魔道具がですか?」
小男が嘲笑う。
「いいですか? あなたはこれから王都を支える一員になれるのですぞ? それはそこら一般市民とは違い上の存在です。ギルド長なんかよりもです」
そう言って、遠くから様子を見るアッシュに小男が目をやる。
それから首を左右に振る。
「それなれば、発言にはお気をつけください。魔道具を家族などと……あなたが道具の声が聞こえるという噂は聞いておりますが、それとこれとは別でございます」
小男が真っ直ぐとゼノを見据える。
これまでの下手に出ていた表情とは違って、鋭くきっぱりとした視線を向ける。
「道具は道具でしかありません」
その言葉を聞いたアイリス・ミラー・ノワール・ルミエ・シャルロット・ルルはピタッと動きを止めた。
ゼノの反応を待っている。
「そうですか……そういう考えの人とは一緒にいられません。残念ですがお引き取りください」
ペコリとゼノが頭を下げる。
「どうしてもですか?……」
「絶対に無理です」
ゼノがきっぱりと断った。
「勘違いしないでいただきたい。必要なのはあなたではなく、その力です」
その言葉を聞いた魔道具たちが一斉に戦闘態勢を取る。
「おっと。魔導人形相手に戦争なんてしませんよ。そんなことする必要もない。いずれあなたは後悔することになりますよ。上級市民を選ばなかったことをね……」
そのまま使節団は王都へと引き換えして行った。
「マスター! あんたは最高だよ!」
「素晴らしい判断だったと評価します」
ミラーが抱き着き、アイリスが近寄った。
「ボクのゼノなんだけど?」
シャルロットが体の周りに紫色のオーラを発しながらゼノを独り占めしようとする。
「さすが我が認めた人間だ」
「さぁさ。お茶にしましょ」
ルミエがいそいそとお茶の準備を始めた。
「全くお前は相変わらずだな」
気付けばアッシュも当然のようにお茶を受け取っていた。
「大丈夫! ゼノはルルが守るから!」
「これで王は本格的にお前を攫いに来るぞ」
「お父様のことは連れて行かせません」
「そうではない。国王軍にはゼノのところに来る正当な理由ができた。それを貴様らが武力を持って追い返したとしたらゼノはどう見られると思う?」
「マスターは何もしてないじゃん」
「ミラーの言う通りです。お父様はどうも見られません」
「貴様らは人間を分かっておらんな」
「では我にも分かるように説明せい!」
「ふん。ゼノが貴様らに命令をして武力行使をしたと見られるだろうな」
アッシュがノワールに向かって鼻を鳴らす。
「なんでそうなるんだよ!」
ミラーがキーキー叫ぶ。
「私たちが自分達の意思で動いているのに、なぜゼノ様がけしかけたと思われるのでしょうか?」
「オレもそうだが、普通人間ってのは魔道具は道具として扱う」
「つまり、僕がみんなを使ったって思われるのさ」
アッシュの言葉をゼノが引き取った。
●
「なぜ連れて帰って来ておらん!」
敵国の攻撃を防ぎ、そちら方面の憂いがなくなったというのに国王は相変わらず不機嫌だった。
「恐れながら報告させていただきます。あの者は必要ありません。我々が必要なのはあの者の能力だけです」
「それはそうだが、あの男の力は代わりが効かないものだと知っておるはずだ!」
「あの者は魔道具のためならどんなことでもしてしまう弱点があります」
「言っておくが、あの男のために人質になる魔道具などないぞ?」
「分かっております。そうではなく、この魔道具を使います」
「なんだそれは?」
「魔法カメラにございます。あの者の元へと向かう道中で偶然発見しました」
「そんな古いガラクタが役に立つと?」
「はい。どうもあの者、人間相手では警戒心がかなり強いですが魔道具相手だとその警戒心はなくなります。そこでこの魔法カメラを潜入させ、あの者の力をトレースさせます」
「トレースした力で古代の遺産を起動させるというわけか……面白い! すぐに実行せよ!」
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