第13鑑定 再会
「ルル……セラはどうしてしばらく来れなくなるんだい?」
ゼノが肩を震えさせる。
しかし、ルルは何も言わなかった。
いや、厳密には――
「お父様。ルルは喋れません」
「ホントだ。口がないんだね……」
ポトリ。
ルルのガラス面にゼノの涙が一粒落ちた。
「お父様?」
「何でもないよアイリス。ルルを修理すればその心を聞けるから。それにもしかしたらみんなみたいに話せるようになるかもしれないし」
すると、今までやってこなかったようなことをアイリスがした。
ゼノに抱き着いたのだ。
「アイ……リス……?」
「人間が涙を流す時は悲しい時だと聞いたことがあります。そういう時は抱擁が大事だとルミエが言っていました」
「またルミエか」
ゼノが力なく微笑む。
ぽん。とアイリスの頭に手を乗せる。
「ありがとう。少しだけ……頼ってもいいかな?」
「もちろんです。魔道具はそのためにあります」
「そういうことじゃないよアイリス」
「理解不能です」
●
「さて。ルルを治すための部品を探しに行こうか」
翌朝、ゼノは何事もなかったかのように言った。
「マスター昨日まではあんな感じだったのに急にどうした?」
「理解不能です」
ミラーの言葉にアイリスが肩をすくめる。
「人間の分からない部分ですね」
ルミエがミラーとアイリスの隣に来る。
「これは人間に聞いてみる必要があります」
「何言ってるんだよアイリス。オレたちの姿を見たら、人間は逃げるか捕獲するかのどっちかだぞ?」
「私たちが信用できる人間と言えば……」
「ルミエ! まさかあの女のことじゃないだろうね!」
「しかしそれも事実です」
「ぐぬぬ……オレの力の1つに変身能力がある……オレが映したことのあるものになら何でも変身することが可能だ」
「お願いできますか?」
「マスターのためになることだし……仕方ない……」
「ミラー! まず最初に必要なのはここを治す部品なんだけど、どこにあるか映せる?」
向こう側からゼノが声をかける。
「マスター。ごめん。オレちょっと用事があるんだけどいいかな?」
「え? いいけどどうかしたの?」
「なぁーんでもないよ!」
ピョンとミラーが飛び跳ねる。
「夜には戻るから」
そう言ってミラーは王都の方へと向かって行った。
「さ、ゼノ様。部品を探しに行きましょう」
ルミエが先導する。
「まずは王都からゴミが出されていないか見に行きましょう」
「我はここで家を修理していよう」
「ボクもノワールのお手伝いしとくよ」
「ルミエ。お父様をお願いできますか?」
「もちろんです」
ルミエがペコリとお辞儀をする。
「えー。みんないつもは僕と一緒にいたがるのにー。もう反抗期?」
「さ。行きますよゼノ様」
●
「来ました」
アイリスがピピと機械音を出す。
「ふん! 国王軍か……やられに来るとはいい度胸だ」
「私が先陣をきります。倒しきれないやつをお願いします」
「今回は数が多いねー」
シャルロットがキョロキョロするも、その表情は楽しそうだった。
そしてあっという間に敵はせん滅させられていた。
「物足りん!」
「家を修復しておかないとお父様に叱られてしまいます」
「誇り高き魔剣が叱りくらいでビビるとでも思っておるのか!」
「もう手入れして貰えなくなるかもよー?」
シャルロットがニタニタする。
「む……我は別に構わんがそれではゼノのために良くないだろう……仕方ない。家を修復して褒美に我の手入れをさせてやるとするか」
「ほーんとに素直じゃないね」
「理解不能です」
●
「あら? ゼノじゃない。どうしたの? とゆーか大丈夫? なんかお尋ね者になってるわよ?」
エリスが心配そうに近寄ると、ミラーは変身を解いた。
「悪いけど、オレはゼノじゃない。ゼノの家族だ」
「まぁ。どうしたの?」
エリスは口元をぱっと抑える。
「あんまり驚かないんだね」
「いつもゼノから話しを聞いているからね。それで? 私にどんなご用事なの?」
ふふふ。とエリスは笑いながらミラーの割れた面をなぞる。
「これ、痛いの?」
「割れた時は痛かったよぉー。そりゃもうこの世のどんな痛みよりも痛かった」
「ゼノはこういうのを直しているのね?」
「ま、今オレは後回しになっちゃってるけどね」
「どういうこと?」
「んー。オレのことはいいんだけど、マスターは大事にしていた家族がいたんだ。相手は家族だなんて思っていなかったみたいだけど、マスターからしたら家族ね」
ふんふん。と言いながらエリスは熱心に聞く。
「その大事にしていた家族が昨日、今後もうオレたちの前には現れないって言って出て行ってしまったんだ。それからマスターは悲しんで……たぶん傷ついた。なのに今朝になったらケロッとしてて、オレたち魔道具には理解できないからあんたに聞きに来たんだ」
「んー。一晩寝て心の整理ができたってことかしら」
「こころのせいり?」
「そう。間違ってもその離れて行った家族のことを話題にしたらダメよ?」
「……やっぱり……」
「え?」
「やっぱりオレたち魔道具には人間の心が分からない。マスターは今、悲しんでるのか? それとも悲しんでないのか?」
「どっちでもあるしどっちでもないわ」
「なんだよそれ! オレにはさっぱり分からないよ!」
ミラーがピョンピョンする。
「そうだ! 私もみんなの家に連れて行ってくれる?」
にぱっ。とエリスが笑う。
「はぁ? なんであんたを? 絶対に嫌だね!」
ミラーがそっぽ向く。
「そんなこと言わないでお願い! ね?」
「マスターにはそういう色仕掛けが効くのかもしれないけど、オレには効かないよーだ」
「ゼノに色仕掛けぇー?」
エリスが大笑いする。
「あの無骨にそんなの効果あるわけないじゃないー」
「え? だってマスターはオレたちがお願いすると聞いてくれるぞ?」
「そりゃあ娘の言うことはある程度聞いてくれるんじゃない?」
「へー。人間ってのはそうなのか」
「人間がどういう生き物なのか教えてあげるからさ! ね? ゼノのところに連れて行ってよ!」
「ぐぬぬ……分かったよ……」
やたー! とエリスがミラーに抱き着いた。
●
夕刻には、ゼノが王都から出されたゴミの中から必要そうな部品をたくさん持ち帰った。
家の方は、アイリスとノワールとシャルロットが不器用ながら、ある程度修復していた。
そしてミラーは……
「エリス!」
「ゼノ! 本当に魔道具たちと家族を作っていたのね」
「ミラー? エリスを探しに行ってたのかい?」
「え? いやー。ちょっとね……」
「あなたのことを心配してたわよ。それよりもゼノ。あなた王都でお尋ね者になってるわよ? 何かしたの?」
「え? な……何も……し、してないけど? し、し、し、強いて言うなら……ギルド長の言うことを……聞かないで、で、で、逃げたくらい……か、かな? き……きみがに、に、に、逃がしてくれた時……」
「そんなんじゃお尋ね者にはならないわよ。それにギルド長はとっくに新しいギルド長に変わっているわ」
「え? そ、そ、そ……れじゃあま、ま、前のギ、ギルド長はい……今どこに?」
ゼノの問いは意外な方から答えが返ってきた。
「ここだ」
家の外から聞き覚えたのある声がした。
「やっと見つけたぞ。この無能が!」




