第12鑑定 ルル
ゼノの居場所が国王にバレる数日前――
「報告します。ダンジョンにて既に起動していた魔道具の回収に成功しました」
新ギルト長は、今国王が起動したがっている魔道具を扱える者に皆目見当もつかない状況だった。
それならば、そっちの任務よりもダンジョンから新しい魔道具を引き上げる方が自分の首が繋がると判断した。
「それは素晴らしい! だがしかし。今まで前のギルド長が選りすぐった精鋭をダンジョンに送っても到達できた階層は5階層」
国王の付き人が訝しむ。
「その起動していた魔道具があった場所は7階層だというではないか」
「私の力を使えばそれが可能なのです!」
「ほう? 貴殿の力とは?」
「私の力は追跡者。私が視認した物体の今現在の場所を把握できるのです。それでネズミを忍ばせて魔道具の発見から回収に至りました」
「国王様」
ユミーの説明を聞いて、付き人が国王の方を向く。
「うむ。素晴らしい力だ。1つ。貴様に特別任務を授ける。この後1つの魔道具を紹介する。その魔道具の行動を追跡せよ」
こうしてセラは、ユミの力によってその行動をずっと監視されていたのだった。
●
『鑑定士様! 申し訳ありません! 私としたことが……』
セラが行動を起こした時は既に国王軍がゼノの元へ向かった時だった。
タイミング的にも遅い――
そう思っていたのに……
ゼノの家は既に戦闘が終わった後だった。
「これは……」
目の前は荒廃としていた。
ゼノ達が修理していた廃屋は跡形もなくなっていた。
「殺戮天使を検知」
アイリスの声にセラはほっとした。
「ごきげんよう。スクラップ。鑑定士様はどこですか?」
「お父様は今王都に出かけています」
「あの女のところへ行ってるよ」
「女ですか?」
ミラーの捕捉にセラの声色が僅かに変わった。
「それよりもさっきの軍隊は何だったんだろうね。アイリスがほぼ一撃でやっつけてたけど」
「腐っても魔導人形ですね」
「我も活躍したのを忘れるな!」
「あれ? 家どうしたの? あ! やぁセラ来てたんだ」
丁度ゼノが家に帰ってきた。
「申し訳ございません。今回の失態はこの愚天使にあります」
セラが土下座をする。
「あの殺戮天使が……」
ミラーが絶句するが、ゼノが無理やりセラを立たせる。
「そんなことよりセラ。怪我した魔道具っていつ連れてくるの?」
ゼノの目は真剣だった。
「申し訳ございません。お約束を果たしておりませんでしたね。すぐにお連れしてもよろしいですか?」
「当たり前でしょ? 怪我してるんでしょ?」
その言葉を聞くなり、セラは王都へと引き換えして行った。
「なんか最近僕たちの家よく壊れるね」
跡形もなくなっている我が家を見て、ゼノがポリポリと頭を掻いた。
●
セラは盛大な音を立てて王城の窓を割った。
「何事か殺戮天使!」
国王が憤る。
ゼノ連れ去りに失敗した腹いせともとれる行為だ。
「私は私のモノサシであの御方を推し量ると申したはずです」
セラの周囲に紫色のオーラのようなものが漂う。
「黙れ! 魔道具は所詮道具だ! 持ち主に逆らうでない!」
その言葉を聞いたセラは失望の目を国王に向けた。
「やはり……人間なんてそんなものなのですね……」
ふいっとセラは連行されてもいないのに、監禁されている部屋へと自ら向かった。
「……さて。私はもうここの部屋から出られない可能性があります……だからその前に貴女をここからお出しします……」
セラは小さな魔道具を抱えて城を飛び出した。
●
セラが自室から居なくなっていることが判明しても国王は対して騒がなかった。
「あの魔道具には行き場はない。戻ってこなければならぬ運命だからな」
それでも付き人は捜索隊を組織し、セラを探した。
その方が国王の怒りに触れないからだ。
一方のセラは、王都がそうなっていることは予想済みであった。
急いでゼノの元へと向かっていたが、その途中でとある人物を見つけてしまった。
元ギルド長アッシュである。
「ごきげんよう。……元ギルド長?」
セラの言い方は珍しく疑問形だった。
「殺戮天使か……」
アッシュの目には光がなかった。
「私が覚えている人間は珍しいですよ?」
「そうか……何の用だ?」
「貴方こそ。こんなところで何を?」
「別に何もしておらん。王都を追放され、別のギルドへ向かったがそこでも追い返され、行き場を無くした哀れな人間だ」
「きっとあの御方なら今の貴方を見ても見捨てないのでしょうね」
「あの御方?」
「鑑定士様のことです。貴方がくだらない力だと言ってギルドを追放したゼノ様のことをお忘れですか?」
「あいつのことはよく覚えている。あいつを見つけられなかったせいでオレは追放されたのだからな」
「鑑定士様は素晴らしい御方です」
「まるで崇拝しているかのような言い方だな」
「崇拝ではありません。ですが尊敬はしております。あの御方は、どんなものも見捨てません。それどころか命を吹き込んでしまうのです」
「確か履歴鑑定だったか……」
「あの御方が修理した物は通常以上の性能を持ちます。常人にはそれが使いやすいとかそんな風に感じられるのでしょうね」
にこりとセラが微笑む。
「ですが実際には、鑑定している物の傷を即座に見抜き、そこを的確に修復することで以前以上の状態に戻すというもの。更にはあの御方には修復する物の声が聞き取れるという特異な才能までお持ちです」
「確かにあやつが鑑定したり修理した物は、物持ちがいいと評判だったな……」
「さてと……」
セラが大きな翼を広げる。
「私は今追われている身でございました。気が向いたならば、この道を真っ直ぐ進んだ先に鑑定士様がおられますよ? きっと今の貴方に必要な御方でしょう」
セラはそう言うと飛び立ってしまった。
その背中に向かってアッシュは、誰があんなやつ。と呟いたのであった。
●
「セラ!」
「ごきげんよう。鑑定士様。まずはそこのスクラップとお話をさせてください」
スクラップと言ってアイリスを見る。
「何ですか?」
カラカラとタイヤの音を鳴らしながら、セラと共にアイリスはゼノから少し距離を取る。
「私は今国王軍に追われております。先ほど、追手を撃退しましたが第2第3の追手が私を追ってくることは間違いありません。同時に鑑定士様の元にもやってくるでしょう」
「私が全部排除します」
「頼もしい限りです。私が言いたいことはそれだけです」
ペコリとお辞儀をしてゼノの元へと向かう。
「話は終わったのかい?」
「はい。それでは鑑定士様。3つ程、言いたいことがあります」
「いいよ? ってあれ? セラ! 怪我してるじゃん」
「あぁ。先ほど木の枝で引っ掛けてしまいまして。こんなもの数分で回復します」
「ダメだよ! ちゃんと見せて! 見るまでセラの話しは聞かないから!」
「やれやれ……貴方という御方は困った御方です……」
少し嬉しそうにセラが羽を見せる。
「……この傷。魔法の傷だよね?」
「やはり鑑定士様に誤魔化しはききませんね……実は先ほど少々戦闘をしておりまして」
「もう戦わないでくれるかい? 君の体はとても美しい。こんな美しい体が傷つけられるなんて耐えられないよ」
「私はすぐに回復しますよ?」
「それでも」
「理解ができませんが……わかりました。極力戦闘行為は行わないと約束いたします」
「意味わかんないでしょ? マスターって」
ミラーがニタニタする。
「そこがいいところだよね!」
ピョンっとゼノの腕にシャルロットが飛び乗ると、ノワールが遠くからあっ! と声をあげた。
「あちらにも、セラちゃんと同じように自分の気持ちに正直になれない子がいますわ」
にこりとルミエが微笑みながらノワールの方へ歩いて行く。
「で? 話しって?」
羽の手当てをしながらゼノが問う。
「恐れながら。エリスという女性は鑑定士様にとってどのような存在なのでしょうか?」
「エリス? 幼なじみで僕のことをいつも守ってくれてるんだ」
「左様ですか。鑑定士様の特別な方……ということでよろしいでしょうか?」
「うーん。そうだねぇ。特別だと思う」
ゼノがにこりと答えると、他の魔道具たちがギャーギャー言い始めた。
「あの女! やっぱりマスターをたぶらかしてるんだ!」
「酷い! ゼノはボクだけを愛してくれてると思ってたのに」
「ふん! 誇り高き魔剣は人間のメスになど興味ないわ!」
「あら? そう言いながらルミエちゃんはいっつもミラーちゃんにあの女を見せろーとか言ってますわよね?」
「言っておらん! 本当だぞ? ゼノ。我を信じるよな? この誇り高き魔剣が嘘をついているとでも? なんだその顔はー!」
「お父様はいつも話しをややこしくします」
「本当に賑やかな家族ですね」
にこりとセラが笑う。
「賑やかついでにもう1人、家族を増やしていただくことはできませんか?」
「家族を?」
「こちらです」
そう言ってセラはモフモフの羽から、1つのコンパスを取り出した。
コンパスの針はクルクルと回転しており、明らかに壊れていることが分かる。
「魔導コンパス。探し人や探し物を指し続ける魔道具です。ですがご覧の通り今は壊れてしまっております。どうか直して差し上げれませんか?」
「やれるか分かんないけど、治してみるね! 完璧に治すとなると少し時間がかかるかもしれないけどいい?」
「もちろんでございます。では、魔導コンパスをよろしくお願いいたします」
「魔導コンパスじゃないよ。名前はルルだ」
「ふふ。相変わらずでございますね。では、改めまして、ルルをよろしくお願いいたします」
ペコリとお辞儀をしてセラが羽を広げる。
「……さすがでございます。傷が完璧に治っております」
セラはそのまま宙へ浮かぶ。
「最後になります。私は暫くこちらに来れそうにございません。くれぐれもご自愛くださいませ……」
「え?」
バサリと大きな音を立ててセラは飛び立った。
「セラ! どういう意味!」
ゼノの叫びが虚しく鳴り響いた。
1枚の天使の羽がゼノの手に舞い落ちる。
ずっと持っていて欲しい。
また必ず会いに行くから。
そう言われている気がした――
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