第10鑑定 名前をくれた人
「だれ?」
鑑定士様と呼ばれたことから、ゼノは自分のことを呼んでいるとは察しが付いていた。
しかし、自分のことを呼んでいる美しい天使を自分は全く知らなかった。
「初めまして鑑定士様。私は魔道具の殺戮天使です。以後お見知りおきを」
明らかに国王に対するそれとは違い、敬意をもった深々としたお辞儀だった。
「美しい……」
「はい?」
「君は完璧なほど美しい」
「恐れ入ります」
「あれ? 左の羽の方が3枚足りないね」
「……さすがは鑑定士様です。私の羽が左右対称でないことに気づいたのは鑑定士様だけでございます」
「全然違うじゃん。それに隠してるつもりかもしれないけど、その羽、怪我してるね。診せてごらん?」
「問題ありません。時間の経過と共に回復します。殺戮天使の特性でどんな怪我でも――」
拒否しようとする殺戮天使の羽をゼノは無理やり引っ張り、その場で手当てを開始した。
「全く……こんなにも美しい君に怪我を負わせるなんて酷い人がいたもんだね」
「人間だとなぜ分かるのですか?」
「僕の場合見えてしまうから。あれ? 良く見ると、足の筋肉量左右で違うね」
「全く……とんだお方ですね貴方は」
手当が終わるとふわりとゼノから距離を取る。
「私の手当てをしていただいたことは素直に礼を言います」
ペコリと頭を下げる。
「それよりもさセラ。君、たぶんだけど飛ぶのが苦手なんじゃない?」
「セラ?」
「うん。君の名前」
「名前?」
「とても美しいからさ。僕は君のことをセラって呼ぶよ」
「マスター! はやくそいつから離れて!」
セラが何か言おうとすると、それを遮るようにミラーが甲高く叫ぶ。
「お黙りなさい中古品!」
「ミラーは中古品じゃないよ? そりゃまだひびは治せてないけど、とっても熱心なんだ」
「貴方はなぜこのガラクタどもの所有者でいるのですか?」
「やだなぁセラ」
ゼノがケタケタと笑う。
「僕は誰のことも所有してないよ? みんな家族だよ?」
「家族ですか? それはコミュニティだと把握しておりますが?」
「そうだね。君もなってみる? 家族に」
「私には所有者がおります。その方がいる限り貴方の家族にはなれません」
「そうなの? きっと君は強いしそんなルールに縛られないで自由でいればいいのに」
その言葉を聞いたセラが大笑いした。
ゼノ以外の魔道具全員が臨戦態勢を取る程にその笑いには殺意がこもっていた。
「貴方は面白い……実に面白い……」
ふわりとセラが宙に浮かぶ。
「次に来るときには貴方にそれ相応の手土産を持参いたします」
「いいよそんなの! それよりもいつでもまた来てね! 次はもっと君のことを聞かせて?」
空を飛び去って行くセラの背に向かって、ゼノが手を振る。
●
「なぜ連れ戻さん?」
「私は私の物差しであの御方を推し量ります。それまではどなたにも口出しはさせませんし、あの御方を傷つけさせることもしません」
ズイっとセラが国王に迫る。
「どうせ貴方のことです。私の所有権を放棄するつもりなどないのでしょう?」
「貴様の所有者は、代々我が王族の物だ!」
国王が吐き捨てるように言う。
暗い部屋に幽閉されたセラの脳裏には、ゼノの言葉が木霊した。
「やだなぁセラ。僕は誰のことも所有してないよ? みんな家族だよ?」
「家族……ですか……」
1人暗い部屋に、セラの言葉が落ちた。
●
「何であんなやつ誘ったんだよマスター!」
ミラーがギャンギャン吠える。
「理解不能です。殺戮天使は危険度最高級の魔道具です。1つあれば国1つ滅ぼせると言われています」
「あんなヒョロヒョロ! 我が叩き切ってくれるわ!」
「やだねー。誇り高き魔剣様は自分の実力と相手の実力の差も分からないのかい?」
ミラーが首をすくめると、ノワールがキレて斬りかかる。
「受けて立つよ!」
ミラーの周囲が怪しく紫色に光る。
「ちょっとやめてよ2人とも」
ゼノがシャルロットを縫いながらいつも通りとでも言うように窘める。
その直後、轟音が鳴り響いた。
「うるさいです」
アイリスが何やら発射したようだ。
「ふん! 魔導人形の小娘が調子にのりおって」
「怪我する前に止められてよかったね」
ミラーがノワールに皮肉を言う。
「お二人ともおちつきなさい」
ルミエがミラーとノワールの前にお茶を出したその時――
さっきよりも大きい轟音が鳴り響いた。
廃屋の屋根が全て吹き飛んでいた。
「ちょっとアイリス!」
咄嗟にゼノが言うとアイリスが反論した。
「不可解。私ではありませんし、私を疑うのはおかしいです」
「ごきげんよう。鑑定士様」
セラが目の前に立ち、深々とお辞儀をする。
「やあセラ。どこか痛むのかい? あれ? さっき会ったセラじゃないね」
屋根を消し飛ばした犯人はセラだというのに、ゼノはセラに夢中だった。
「……さすがは鑑定士様です。この私が偽物だと気づかれたのは初めてでございます。今の私は分身でございます。今回は要件を伝えに来ました」
分身の姿で失礼いたします。とセラは更に深々とお辞儀をした。
「要件を申してもよろしいでしょうか?」
更にセラはなんと、ゼノに許可を伺ったのだ。
「あの殺戮天使が?」
ミラーも驚いた。
「ボクの呪いも跳ね返すって噂だよね?」
「魔法人形も大概だけどね……」
ミラーがシャルロットをジト目で見る。
「なに?」
ゼノがにこりとセラの微笑む。
「恐れながら私は、鑑定士様に痛く感銘を受けております」
「ごめん。もっと分かりやすく言って? あとその間分身の君の手当てをさせてもらうね」
「やはり貴方は素晴らしい御方です。だからこそ、内密で私のお願いを聞いていただきたいのです」
そっと分身が羽を差し出す。
「私は今、囚われの身なのですが」
「それを救って欲しいなんて言わないだろうね」
ミラーがブツブツ文句を言うとセラはそれを否定した。
「いいえ中古品。私はいつでもこのように抜け出せます」
「僕にしかできないことがあるんだね?」
「さすがは鑑定士様です。監禁されているお部屋に1つの魔道具があるのです。寂しい私の唯一の話し相手だったのですが、彼女は少々欠陥があるようでして」
「すぐに連れてきて!」
セラの言葉を遮って、ゼノが力強く言う。
「持ってくるの間違いでは?」
「連れてきて! 今すぐに!」
この言葉を聞いたセラの分身は、満面の笑みを浮かべた。
そして――
鑑定士様がそう仰るのでしたら。
と深くお辞儀をして飛び立った。
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