意地と気合い
「……って、そうじゃないそうじゃない!」
ゴーレムの変化に目を奪われたヒカリンだったが、石英の捕食と共に回復していくHPバーをみて我に返る。
このまま捕食を続けられたら、すぐにHPが満タンまで回復してしまう。
「お、おーい! こらー! 戦ってる最中なのにご飯食べたらダメなんだぞー!」
「ゴガッゴガッゴガッ……」
ヒカリンの呼びかけなど意に介さず、ゴーレムは無心でクリスタルを貪り続ける。
こんな時は悪口で挑発してヘイトを稼ぐべきなのだが、あいにくヒカリンはその手のボキャブラリーを持ち合わせていなかった
「むぅぅ……。止めないならこうしちゃうからね!」
無視されて少しムッとしたヒカリンが、足元の小石を拾いあげる。
それをゴーレムの近くにあるクリスタルに向け、全力で投げつけた。
「……ゴガッ?」
豪速の小石が直撃し、クリスタルがパリンと砕ける。
砕けたクリスタルでは食欲が刺激されないのか、ゴーレムは別の石英に手を伸ばす。
だが、その度に小石が投擲されて石英が砕けていった。
「ガギギギ……!」
当然そんな状況下では、食事に集中ができるわけもない。
物理的な嫌がらせでヘイトを稼いだ結果、ゴーレムはついに食事を中止し、ヒカリンに敵意を剥き出した。
「ふっふーん! 無視するあなたが悪いんだぞ!」
ゴーレムの威圧にも動じず、ヒカリンは胸を張って言い返す。
一見危機感のない様子に見えるが、体力回復に加えて体色変化という名の「強くなりましたよー」表現が起きているのだ。
あらゆる創作物では鉄板である光景を前に、内心ではしっかり警戒の糸を硬くしていた。
「……ん。もしかしてまた?」
しかしそれは、ゴーレムの攻撃動作を見て一気に緩んでしまう。
ゴーレムが仕掛けたのはアームハンマー。二度も同じ攻撃を繰り出してきたのだ。
もしかすると、怒りのせいで行動が単調になっているのかもしれない。
「なら私も、もう一回だよっ!」
対するヒカリンも同じ手のアッパーで応戦する。
そして先ほどと同様に、ゴーレムの巨腕を持ち上げるビジョンを見据え、自慢の右腕を振り抜こうと……!
「んんんんっっ!!」
「ギギゴガゴゴゴ!!」
力を振り絞るが、拳が振り抜けない。
どれだけの力を込めても、ヒカリンは右腕を振り抜けなかった。クリスタルを食べたことでゴーレムのSTR値は、ヒカリンと同等レベルにまで上昇したのだ。
「負けるもんかぁぁぁっ!」
……とはいえ同等レベルなら、あとは本人同士の意地と気合いの張り合いだ。
中身が情報で動くAIのゴーレムに対し、心で動く人間のヒカリン。想いの強さの観点では、負けるわけがなかった。
「ガガガッ!?」
それは、驚きを漏らすゴーレムの機械声。
ヒカリン渾身のアッパーは、ゴーレムを天井まで吹き飛ばすことはできなくとも、その巨体を僅かに浮かせる事には成功したのだ。
「今度こそ、おしまいだよっ!」
地に足がついていなければ、自慢の巨体もデカい的でしかない。
落下してくる無防備な胴体に向けて、ヒカリンは剛腕を振り上げ、見事にゴーレムを粉砕した!
「うぅぅ、腕がすっごいピリピリするよ……」
HPバーが全損し、光の粒子となって消滅していくゴーレムをよそに、剛腕の右手に息をふうふう吹きかける。
アガートラーム越しに意味があるのかは謎だが、手の感覚は一体化しているため意味はあるのだろう。
そんなことをしている間に、部屋の中央には地上へ戻るための魔法陣が現れた。
オマケにその隣には……。
「宝箱だー! これってボスを倒した報酬だよね!」
嬉々として宝箱に駆け寄ろうとするが、それを邪魔するようにメニュー画面が開かれた。
「いいところなのにー! ……でもボスを倒したから、さっきみたいにスキルが手に入ってるかも」
もしかしたらの可能性を信じ、ヒカリンは宝箱を後回しにする選択を取る。
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おめでとうよん! HPが常に1にも関わらずダンジョンを攻略したから、スキルを獲得したよん! ついでにレベルも8→12に上がったよーん!
パッシブスキル:【不退転】
HPが0になる攻撃を受けても、一日二回までHP1で耐える。
スキルポイント+12
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「……HPが1にも関わらず? なんの事だろう?」
ヒカリンはレベルアップには目もくれず、スキル獲得理由に首を傾げた。
当然である。なんたって未だに、アガートラーム発動のデメリットを一つも理解していないのだから。
「す、『ステータスオープン』……」
背筋を撫でる嫌な予感に従い、ヒカリンは恐る恐るステータス画面を展開させた。
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名前:ヒカリン レベル:12 職業:ファイター
HP:1/1 (体力) 【10−9】
MP:1/1 (魔力) 【10−9】
STR:234 (筋力) 【4+230】
AGI:1 (速度) 【7−6】
VIT:86 (防御) 【6+80】
INT:1 (知力) 【10−9】
LUC:1 (幸運) 【20−19】
パッシブスキル:【破壊者】【不退転】
アクティブスキル:【なし】
スキルポイント 33
装備:【剛腕・アガートラーム】
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「あ、あれぇ……。私ってこんな1が多かったっけ……?」
ずらりと並んだ1の羅列を見て、ヒカリンは原因を探り始める。
まあ探ると言っても、思い当たる節はあったのだろう。
【剛腕・アガートラーム】の説明画面を読み直し、すぐに気がついた。STRとVIT以外の数値が1になる代わりに、剛腕を授かっている事を。
「そ、そういうことだったんだ……。でも、こんな力を出せるんなら仕方ないよね。……うんうん、仕方ない! それにスキルも手に入って、二回だけは耐えられる様になったんだし!」
絶望的なデメリットを知ってもなお、ヒカリンはすんなりと現状を受け入れた。
この装備のおかげで、望んでいた力が手に入ったのは事実だからだ。今更デメリットに気づいたところで、この力を手放す選択肢などなかった。
「さあさあ! 気を取り直して宝箱を確認しよう!」
ほんのり沈んだテンションを戻そうと、わざとらしく声を張り上げる。
宝箱は万が一壊す事を恐れてか、左手で開けた。
「んーと、靴と布……? いや、服かな?」
確認のために中身に触れると、それらは光の粒子となって消滅する。
代わりに装備画面が展開され、手に入れた装備品がパネルに大きく映し出された。
「ちょ、ちょっとこれは恥ずかしいかなぁ……」
映し出された装備品を見て、ほんのりと頬を赤らめる。
装備品は白を基調としたスタイリッシュなデザインのパワードスーツと、同デザインの靴だった。それも、ピッタリと肌に密着するタイプの。
一応全身が隠れはするが、着たら確実に全てのボディラインが顕になる。
ヒカリンはそんな格好の自分を想像して、恥ずかしくなったのだろう。
「こ、効果の方は……」
照れを誤魔化すように、説明文に目を向ける。
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【機動ノ要】
装備すると体が軽くなるパワードスーツ。
AGI+20
パッシブスキル:軽量化
【機動ノ足掛かり】
装備するとあらゆる場所を足場にできる靴。
AGI+15
パッシブスキル:空脚
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「説明短っ!」
アガートラームの長ったらしい説明文との落差に驚きつつも、AGIが上昇する装備であることは理解した。
鈍足のゴーレムを倒した報酬にしては真逆の性質だが、おそらくは二回目以降の攻略を楽にするための装備なのだろう。
力はあれど速度のないゴーレムの攻撃は、AGIに特化すれば躱わすことも容易なのだから。
「……けど、私の場合は意味ないかなぁ。装備したってステータス上がらないもんね……」
ヒカリンがポツリと残念そうに呟く。
アガートラームの制限によって、剛腕になってる最中はAGIが1から上がることはないのだ。これを着たところで、単に恥ずかしい格好になるだけである。
「装備するかは後で考えるとして、今日はもうやめておこっかな。熱中しすぎるのも良くないだろうし。ボスを倒してキリもいいしね!」
そう自分に言い聞かせて満足げに頷くと、転移の魔法陣へ足を踏み入れる。
そして町へと帰還したヒカリンは、すぐさまログアウトボタンを押し、初日の大冒険に幕を下ろすのだった。




