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初めてのボス戦

「うーん、どこに行こうかなー」


 洞窟内を進んでいくこと十数分。

 やたらデカいかえる蝙蝠こうもりをワンパンで沈め、レベルが更に三つ上がったヒカリンの前には、四つの分かれ道が口を開けていた。


「どれか一つが正解で、残りは全部行き止まりか罠がある。ゲームだとそういうのが常識だよね」


 手掛かりを探して周囲を散策するも、残念ながら怪しい痕跡は何一つ見当たらない。


「ヒントが無いなら私の勘で……ってダメダメ! 絶対当たるわけない!」


 一か八かに賭けようとした自分の考えを、首を激しく横に振って否定する。

 ヒカリンは運が絡むものにおいて、一度たりとも自力で成功した試しがないのだ。それを自覚しているのに、運ゲーを行うわけがなかった。


「ふむむ…………そうだ!」


 首を傾げて唸った結果、ヒカリンの脳内にピカッと一つのアイデアが浮かんだ。


「もし間違ってる道が行き止まりなら壁があるはずだし、石を投げて音が帰ってくる時間を確かめればいいんだ!」


 ヒカリンのSTRなら、プロ野球選手を軽く凌駕するレベルの豪速球を投げられる。

 その飛距離は間違った道に投げれば、行き止まりの壁まで届き反響が聞こえてくる。正解の道だと壁が無い分、反響が他の道よりも遅れて聞こえるはずだ。


「やぁぁぁっ!」


 地面に落ちてる小石を拾い、第一投。

 一番右の道は、投げてから一秒足らずで反響が響いた。


「次ー!」


 そのまま左にズレて同じことを三回繰り返す。

 結果は右から、一秒、三秒、二秒、八秒。一番左の道だけ明らかに遅い結果が出た。


「てことは、一番左が正解だー!」


 意気揚々と左の道を駆けて行くと、妙に広い場所に辿り着く。

 隅の岩肌からは、色鮮やかなクリスタルが突き出していた。


「なんか硬そう……。えいっ!」


 試しに殴ると粉々に砕けて、手のひらサイズになったクリスタルが地面に落ちる。

 砕けても綺麗だったので拾おうと指で触れた瞬間、それは光の粒子となって消滅し、代わりにパネルが浮かび上がった。


―――――――――――――――――――――――――

ルビークリスタル×2

サファイアクリスタル×2

エメラルドクリスタル×2

トパーズクリスタル×2

を入手しました

*初めてのドロップアイテムおめでとうよん!

手にしたアイテムはインベントリから確認できるよん!

―――――――――――――――――――――――――


「へぇ〜。壊したら小さくなったアイテムが手に入るんだ。……じゃあもしかして、さっき壊した木とか岩も拾えたのかな?」


 その通りである。

 ヒカリンが破壊した木や岩の残骸に触れれば、今のようにドロップアイテムが入手できていた。


 粉々になっても綺麗なクリスタルならまだしも、木や岩の残骸に触れようとなんて、VRMMO初心者が思うわけがないので仕方ない事だが……何とも勿体無い事である。

 きっと今頃は、森の惨状に困惑している他のプレイヤーに拾われているだろう。


「まっ、私ならいつでも集められるしいいや! 過ぎたことはしょうがない!」


 気を取り直したヒカリンは、クリスタルが生えていないことを確認すると、先に進もうとして…………すぐに歩みを止めた。

 行く先に、巨大な扉が立ち塞がっていたのだ。

 これまでの洞窟とは異なる重圧感を漂わせるその扉を見れば、初心者のヒカリンでもこの先に何があるのかは容易に予想がついた。


「この洞窟のボスが待ち構えてるだろうなぁ」


 そう、ボス部屋である。

 先ほどのクリスタルは、ここまで来れた者への餞別せんべつだったのだろう。


 一度大きく深呼吸をして心を落ち着かせてから、マイブームである破壊……つまりは扉の破壊を行い中へ入る。

 中には一帯に広がる大量のクリスタルと、ヒカリンの十倍はあるであろう巨大なゴーレムが置かれていた。


「綺麗な部屋……って見惚れたいところだけど、そうはいかないよね」


 ゴーレムに右腕を構えるヒカリン。

 それに呼応する様に、ゴーレムがガタガタと音を立てて動き始めた。


「ガギゴゴガ……。ゴッ、ゴッ、ゴッ!」


 機械的な辿々しい言葉を呟き、ゴーレムが口から石礫を吐き出す。


「ひゃぁっ!?」


 ヒカリンは驚きつつも反射的に体を低くし、アガートラームで正中線を隠して受け止める。

 石礫の火力はそこまでなかったのか、受け切ったヒカリンにダメージはなかった。


「ゴゴゴガグガギギゴ!」


 アガートラームのVITが高い事を判断したゴーレムの攻撃が、威力の高いパターンに切り替わる。

 なんと巨体に備わった巨拳をヒカリンに振り落ろしてきたのだ。差し詰め、アームハンマーと言ったところだろう。


「力比べなら負けないよ!」


 迫り来る巨拳に、ヒカリンも全力で右拳を握りしめてアッパーを繰り出す。

 激突する拳と拳。質量に限ってはゴーレムが圧倒的に優ってはいるが、ヒカリンの拳諸共押し潰すことはできない様子だった。





 ――それどころか。


「ギゴガガ……ッ!?」


 ヒカリンのアッパーに押し負け、ゴーレムの巨拳が徐々に持ち上がっているではないか。

 どうやら単純な力勝負では、ヒカリンに優勢があるらしい。468を誇るSTR値は伊達じゃない。


「これで、おしまいだよっ!」


 ヒカリンは力のままに右手を振り抜き、巨拳諸共ゴーレムを天井へ弾き飛ばす。

 ガラガラと小さな岩が地面に落ちた後、続いてドスンと巨体が地面に叩きつけられた。


「はあーっ! 今までで一番スッキリしたぁっ! デカくて硬い相手って、殴り甲斐あるや!」


 拳をぐっと握りしめ、手のひらに残る感触を堪能する。

 その顔には無意識に笑みが溢れていた。


「グガゴゴ、ガガガギグ……!」


「えっ?」


 だが、相手は仮にもボスモンスター。

 今までの相手なら余裕でお釣りが来るダメージ量だったが、ゴーレムは光の粒子に変わることはなく。

 HPバーを二割ほど残した状態で、再び立ち上がってきた。


「……ふ、ふん! でも私の力には勝てないよね! もう一発ぶち込んであげるよ!」


 今までとの違いに一瞬焦るが、すぐに落ち着きを取り戻す。

 ゴーレムは起き上がっただけ。力の差は明白で、天秤がひっくり返ることはないはずだ。


 加えてヒカリンにとっては好都合な事に、ゴーレムは巨体のせいかAGIは高くない。よって不意の一撃をもらい、ゲームオーバーになる線も限りなく低い。

 この戦いは、ヒカリンが圧倒的に有利だった。


「ガギギゴ……。ゴガッゴガッ……!」


 ――ゴーレムが一帯に広がるクリスタルを拾い喰いするまでは。


「そ、そんなの食べたらお腹壊しちゃうよ……」


 突然の奇行に、引き気味になるヒカリン。

 その声を気にもせず、ゴーレムは巨大な手でバリバリと色鮮やかなクリスタルを口に運んでいく。


 あまりに夢中に食べる姿を見て『もしかしたら美味しいのかも』などと能天気な考えが浮かびかけるも、そんな思考はすぐに消し飛んだ。

 何故ならば……。


「い、色が変わっちゃった……」


 クリスタルを喰らったゴーレムの体が鮮やかな姿に変貌し、瞬く間にHPバーが五割ほどまで回復していたからだ。

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