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環境破壊者

「たあああっ!」


 気合の入った掛け声の後に、豪快な衝撃音が響き渡る。

 あれからヒカリンは、手当たり次第に森のオブジェクトを、立ち並ぶ木々を破壊し続けていた。


「おらぁっ! あたーっ! ちゃっちゃー!」


 殴り甲斐のありそうな大岩を見つければぶん殴り、立派な太い幹をした大木を見つければぶん殴る。なんなら木が生えてれば、とりあえずぶん殴る。

 その姿はどこから見ても、完全に環境破壊者である。


「ぷはぁーっ! 何回やっても気持ちいいーっ!

……そういえば、モンスターが全く出てこないや。どうしちゃったんだろう?」


 ふとモンスターの存在を思い出し、ヒカリンは首を傾げる。


 だが、出てこないのも当然だった。

 モンスターはAIとはいえ、生存本能に近い判断基準を持っている。大岩や木を軽々粉砕していく天災へ、自ら突っ込むほど愚かではない。


 ――もっとも当の天災はこづかれただけでも倒れてしまう、体力1のガラス細工なのだが。


「出てこないなら、それはそれでいいんだけどね、っと!」


 そんなことを知らないヒカリンは、またも木に右ストレートを放ち、更なる環境破壊に成功する。

 たまらない快感からニヤケていると、メニュー画面が勝手に開き文字が現れた。


「また勝手に開いた……。ってことはまた何かが起こったのかな?」


 僅かな期待を胸に、ヒカリンは表示された文字へ視線を落とす。


――――――――――――――――――――

おめでとうよん!

三十分の間にVIT40以上のオブジェクトを一撃で五十個破壊したから、スキルを獲得したよん! 


パッシブスキル【破壊者デストロイヤー

STRが二倍になる代わりに、INTをあげることができなくなる。

――――――――――――――――――――


「ふむふむ。二倍って、今の状態からだよね。てことは234をもう一回足して、468かー。…………え、468!?」


 一瞬フリーズしてから、ヒカリンは改めてスキルのヤバさに気がついた。


「いやぁ、正直もう充分だったのにその二倍って……。気持ちよかったから壊してただけなのに、すっごいスキルを貰っちゃったよ……」


 ヒカリンは気づいてないが、このスキルは大抵の人では到底取得できない構造をしていた。

 まず第一に、常時STR40以上が必須条件だ。

 この時点でSTRに関するチートをもらってない者は脱落する。


 さらにその多くが制限時間付きなどの代償持ちである中で、三十分の間に五十個も破壊する余裕などはない。

 そもそも、オブジェクトを好んで壊す者がそこまでいない。いくら壊す快感に魅入られても、普通の人なら十個も破壊すれば満足するだろう。


 要するにこのスキルは、「壊す快感を初めて味わう初心者」+「条件に見合う能力」の二つを備えた者でなければいけなかったのだ。


「よーし! この感じだと、もっと壊せばもっと力持ちになれるかも!」


***


 森を破壊をし歩き続けて早二時間。

 現在ヒカリンの目の前には、断崖絶壁が立っていた。

 そしてそこには、ご丁寧に一つの看板が。


――――――――――――――――――――

これ以上にはまだ進めないよん!

――――――――――――――――――――


「ありゃりゃ。もう奥まで付いちゃったんだ」


 どうやら、侵入不可エリアに付いてしまったようだ。

 道中は最初に襲いかかってきたスライム以外との遭遇は一切しなかったため、ヒカリンの中では楽しんでたら不意にゴールに到着してしまった感覚なのだろう。

 その表情はどこか物足りなさそうだった。


「また来た道を戻るのもなあ……。 そうだ! この岩だって今の私なら、壊せちゃったりするかも!」


 右手を構えて、絶壁に拳を突き出す。

 しかし、いくらSTRが高いと言っても所詮はシステム。システムで進めない定義をされた絶壁を壊すことなど到底不可能…………ではなかった。


 ヒカリンが拳を突き出した部分が綺麗に砕け散り、ぽっかりと洞窟の入り口が出現したのだ。

 俗に言う、隠しエリアだろうか。


「やったね! 洞窟だし硬いものがありそう!」


 ヒカリンがなんの躊躇もなく、中に入っていく。

 下準備もせずに一人で未知のエリアに挑むのは無謀そのものだが、壊すことしか頭にないヒカリンに止まる選択肢はなかった。


「「「キイッー!」」」


 薄暗い洞窟を進んでいると、三匹の蝙蝠こうもりが天井から襲いかかってきた。

 洞窟の中に居て、ヒカリンの破壊者ぶりを見学してない彼等だからこそできる芸当だろう。


「はあああーっ!」


 しかし現実は無情と言うべきか。

 勇敢な蝙蝠達は、剛腕による薙ぎ払いで発生した拳圧に吹き飛ばされ、岩に激突。

 HPバーの値が一瞬でゼロになり、光の粒子へと変わってしまった。


「余裕余裕! さあさあ、もっとかかってこーい!」


 更なる敵を求めたところで、三度みたびメニュー画面が展開される。

 流石に慣れたヒカリンは驚くこともなく、モンスターが辺りにいないことを確認してから目を向けた。


――――――――――――――――――――

おめでとうよん!

レベルが1→5に上がったよん!


スキルポイント+12

――――――――――――――――――――


「一気に四つも上がっちゃった。……まあ確認は後でいいや!」


 今のヒカリンにとってレベルが上がったことなど、破壊の爽快感に比べたらどうでもいいと感じたらしい。

 特別重要な事ではないと思い込んだヒカリンは、パネルを閉じると更に奥へ進む選択をした。


「ふんふんふふーん♪」


 ……ここのモンスターのレベルが高いからこそ、一気にレベルが上がったのだという事実も知らないままに。

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