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ひょっとして私って……

「どうしようどうしよう! こんな私にピッタリの装備、他の人に買われちゃったらどうしよう!」


 あれから冷静に装備の効果を自身に当てはめた結果、ヒカリンはその有用性に気づき、猛烈な焦燥感に駆られていた。

 なんでこんな初心者エリアの防具屋に、130,000Gもする【ユニーク装備】が売られているのかは謎だが、とにかくこれは千載一遇の大チャンス。絶対に買わない手はない。


 ……しかし、ヒカリンは大きな勘違いをしている。

 この【神秘のケープ】。ヒカリンにとっては喉から手が出るほど欲しい神装備かもしれないが、多くのプレイヤーからすれば「わざわざ大金を叩いてまで買う必要のない、無用の長物」なのだ。


 そもそも、毒や炎上などの状態異常にかかっても、普通のプレイヤーなら専用のポーションを飲めばすぐに回復できる。

 吹雪や砂嵐などの環境によるスリップダメージも、HP回復ポーションを飲めばどうにでもなるのだ。


「お金……すぐにお金を稼がなきゃ……!」


 そんな事情など知る由もないヒカリンは、ありもしない架空の恐怖に怯え、試着室の中でぐるぐると歩き回りながら金策を考え込んでいた。


 まず最初に思いついたのは、あのボスゴーレムのダンジョンに向かうことだった。

 だがヒカリンは、あの場所を全く覚えていない。あの日は森の木々を、気ままになぎ倒しながら直進していたのだ。道順など分かるはずもない。


「それなら、その辺のモンスターをいーっぱい倒して素材を売る……?」


 いや、それも不可能だ。

 なぜなら現在のヒカリンのLUKステータスは、【剛腕・アガートラーム】のマイナス補正により1にまで低下している。

 現にヒカリンは今日までかなりの数のモンスターを討伐してきたが、ドロップアイテムの類をただの一度も手に入れたことがない。


 別に【剛腕・アガートラーム】がなくても始まりの街周辺のモンスターくらいならワンパンで倒せるのだから外せばいいだけであるが……。

 アホの子であるヒカリンが、それに気づくはずもなかった。


「このスーツや靴を売るのだけは、絶対にダメだし……」


 同じユニーク装備である【機動ノ要】や【機動ノ足掛かり】を手放すなんてもってのほかだ。



 ……となると、残る手段はただ一つ。

 ヒカリンはインベントリを開き、ボスゴーレムが落とした四つの色鮮やかなクリスタルを見つめる。


「はぁ……。すっごく綺麗な宝石っぽいから、一個ずつ記念に持っておきたかったんだけどなぁ……」


 個人的なコレクション欲が顔を出すが、背に腹は代えられない。

 以前遭遇したPKの男も「換金アイテムじゃねぇか!」と驚いていたのだから、きっと高く売れるはずだ。


「アイテムを売る場所は……ここだね」


 ヒカリンはウィンドウパネルを素早く操作して『アイテム買い取り所』の場所を検索すると、一旦服屋の試着室から飛び出した。

 そして猛ダッシュで買い取り所へ向かい、涙ながらにクリスタルをすべて売り払って大金を握りしめると――即座に服屋へトンボ返り。

 無事に【神秘のケープ】を買うことに成功した。



 ***



「ふんふんふふーん、ふんふんふふーん♪」


 服屋を出て、始まりの街の大通りをルンルン気分でヒカリンは歩く。

 周囲からの視線がゼロとなったことで、ようやく平和なゲームライフが送れると言っても過言ではないだろう。


(もしかしたらユニーク装備だから目立っちゃうかもって思ったけど……そんなこともなかったや)


 街を歩き回って悪目立ちしないことを確認し終えると、ヒカリンは近場のベンチに座り、改めて自分のステータスと装備欄を確認した。


 右腕には、圧倒的な破壊力と致命的な呪いをもたらす【剛腕・アガートラーム】。

 足元には、空中の見えない足場を自在に蹴り飛ばせる【空脚】を得られる靴【機動きどう足掛あしがかり】。

 体には、AGI1でも身軽になれる【軽量化】を備えた白のパワードスーツ、【機動きどうかなめ】。

 そしてその上に羽織るのは、スリップダメージによる死を無効化する【汚れて朽ぬ体】を備えた黒の外套、【神秘のケープ】。


 キャラクター作成時の【はじめからチート】で得たアガートラーム以外は、なんとすべてが【ユニーク装備】である。


「……あれれ? ひょっとして私ってば、かなりのすっごいプレイヤーなんじゃ……?」


 揃いに揃った装備並びに、ついに真っ当な真実に辿り着きそうになるが。


「いやいや、ないない! そんなわけないよね」


 ブンブンと勢いよく首を横に振って、ヒカリンは即座にその考えを全否定した。

 ゲームを始めてまだ数日の超初心者の自分が、そう簡単にトッププレイヤーへ成り上がれるわけがない。これはただ運良く拾っただけの、ビギナーズラックの延長線だと結論づけたのだ。


「ん?」


 そんなポンコツな自己評価を下しつつ装備効果を眺めていると、一つ気になる項目を見つけた。

 ケープの欄にある『スキルスロット:【 】【 】』という文字だ。二つの空白があるため、不思議に思ってタップすると詳細ウィンドウが開いた。


「『装備に特定の素材アイテムを付与することで、新たなスキルを得られる』……?」


 どうやら、得られるスキルは付与する素材と装備の組み合わせによって決まり、一度セットしたら二度と外すことはできない仕様らしい。

 平たく言えば、「オシャレをしながら自分好みの能力もゲットできる」やり込み要素のカスタマイズシステムだ。


「素材かぁ……。さっきの綺麗な宝石があったら、つけたかったんだけど、もう売っちゃったし……」


 ちょっとした後悔が押し寄せるが、あの四つのクリスタルは全部セットで売って、なんとか130.000Gになったのだ。このケープを買うためには、全て売るしか選択肢はなかった。


「ま、いっか! 二度と外せないって書いてあるし、またすっごく気に入った素材が見つかったらつけてみよーっと!」


 持ち前のポジティブさでスパッと切り替え、ヒカリンはベンチから立ち上がった。

 弱点もまた一つ克服したことだし、いざ今日も日課のモンスター狩りへ。あわよくば、初日のような新しい隠しダンジョンを見つけに出発だ!


 ……と、そんな意気揚々とした歩みは、視線の先の広場の一角でピタリと止まった。

 何やら大きな人だかりができている。気になって、その中心に近づいてみると――。


「アタシとデュエルで勝ったら、まだネットには出回ってない『隠しダンジョン』の場所を教えてあげるわよ!」


 そこには、魔法使いの格好をした青髪ショートの少女が、不敵な笑みを浮かべながら高らかにPvPの挑戦者を募っていた。

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