ケープを羽織ろう
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「ステータスオープン!」
始まりの街の中央広場。
そのベンチにちょこんと座って【剛腕・アガートラーム】を装備したまま、ヒカリンはステータスを展開させる。
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名前:ヒカリン レベル:14 職業:ファイター
HP:1/1 【10-9】
MP:1/1 【10-9】
STR 445(筋力) 【10+435】
AGI 1(速度) 【9+35-41】
VIT 97(防御) 【12+80】
INT 1(知力) 【10-9】
LUC 1(幸運) 【20-19】
パッシブスキル:【破壊者】【不退転】【努力家】【軽量化】【空脚】
アクティブスキル:【加熱】
スキルポイント:6
所持金 : 10,584G
装備:【剛腕・アガートラーム】【機動ノ要】【機動ノ足掛かり】
所持アイテム:ルビークリスタル×1 サファイアクリスタル×1 エメラルドクリスタル×1 トパーズクリスタル×1
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「えへへ……。445か〜」
画面の数字を指でなぞり、ヒカリンはにんまりとだらしない笑みを浮かべる。
このSTR445に【破壊者】の二倍補正が乗るのだから、実質的な数値は890。もうすぐ四桁という、常軌を逸した破壊力である。
今のヒカリンの全力パンチを耐え切れるのは、ダンジョンの高耐久ボスや、多人数で挑むレイドボスの類いくらいしか存在しないだろう。
「んふふふ。今日も私の右腕は絶好調…………あっ」
そうして一人で自分の異常なステータスをニヤニヤと眺めていたヒカリンだったが。
ふと周囲の異変に気がつき、頬を赤に染め上げた。
――見られている。
それも、広場を行き交う大勢のベテランプレイヤーたちから、ジロジロと熱い視線を向けられているのだ。
例の【機動ノ要】のせいである。
ユニーク装備ですよーと、見た瞬間にわかるSFデザインのため、仕方のないことだろう。
だが相変わらずヒカリンにとっては、「恥ずかしいピチピチスーツ姿をジロジロ見られている」という羞恥の対象でしかなかった。
(あうぅぅ……。毎日毎日、ほんっとうに恥ずかしいよぉ……)
このスーツを手に入れてからというもの、毎日毎日こうして注目の的になっている。
そうなれば当然、「街から出るまでは装備を外そう」と真剣に考えてくるのだが……結局のところ、ヒカリンは今日もこのスーツを着ていた。
一度【軽量化】のスキルによる身軽さを味わってしまった体には、それを脱いだ時のノロノロとした重たい移動感覚がどうにも我慢できなかったのだ。
結果として、移動速度と快適さの誘惑にはどうしても勝てず、毎日恥ずかしい思いに耐え続けているのである。
「でもでも、毎日こんなに見られるのは心臓に悪いし……。何か上に羽織れるものは……」
赤くなった顔を両手でパタパタと扇ぎながら、周囲に視線を彷徨わせる。
すると、広場の向こう側を歩いていく、同じ【ファイター】職らしき女性プレイヤーの姿が目に留まった。
その女性は、背中と肩周りをすっぽりと覆い隠す、厚手のケープを羽織っていたのだ。
(……アレだっ!)
ヒカリンの頭の上で、ピコーンと豆電球が光る。
服屋でああいうケープを買って上から羽織ってしまえば、丸見えのボディラインを隠すことができる。しかも、スーツの便利な効果はそのまま得られるのだ。
物によってはステータスも上がるため、まさに一石二鳥の完璧な作戦である。
(……まあ普通なら、最初から思いつくことなんだろうけど)
あまりにも遅すぎる己の閃き力のなさに、心の中で呆れ半分のツッコミを入れつつも。
ヒカリンは羞恥心から解放される未来を夢見て、そそくさと始まりの街の服屋へと駆け出していくのだった。
***
服屋に駆け込んだヒカリンは、さっそく店の奥にある試着室へと飛び込んだ。
VRMMOならではの便利なシステム。試着室の空間に浮かぶウィンドウパネルを操作すれば、店の在庫リストから選んだ商品を一瞬で自分のアバターに着せ替えることができるのだ。
「悪目立ちするのはもう勘弁だし、シンプルなデザインがいいかな。派手で明るい色は論外で……」
白のスーツの上に真っ白のケープを羽織るのは、ファッション的になんだかおかしい。
白に似合う無難な色といえば、「黒」しかないだろう。
ヒカリンは検索条件を絞り、黒系のロングケープを次々と試着していく。
「これはちょっと丈が長いかな……? こっちの方がシルエットは綺麗かも!」
鏡の前でポーズを取りながら、一人で真剣に悩むヒカリン。
傍から見ればただの黒い布でしかない。どれも間違い探しレベルでしか変わっていないのだが、お年頃の女子高生たるヒカリンの目には、それぞれ全く別のデザインに見えているらしい。
そんな一人ファッションショーを続けること一時間。
ようやくいくつかの候補が絞られ、リストの最後に表示された黒のロングケープを試着してみることにした。
「名前は……【神秘のケープ】か。すっごく大層な名前だなぁ」
そう思って実際に着てみると、これが驚くほどしっくりきた。
素材は軽やかで、目深には被れるフードがついている。色合いもただの黒ではなく、少し明るめのオフブラック。下に着ている白のパワードスーツとの相性も抜群だ。
「うんうん! これならすっごく似合ってるかもっ!」
鏡の前でくるりと回ってみる。
羞恥の最大の原因であった胸元のラインや、ピチッとしたお尻の丸みも、黒の生地が完璧に覆い隠してくれている。
求めていた条件を完全にクリアした逸品に満足したヒカリンは、迷わずパネルの『購入』ボタンをタップした。
――所持Gが不足しています
「……あれれ?」
パネルに表示された無慈悲なエラー音とメッセージに、ヒカリンは首を傾げた。
現在の所持金は10,000Gを少し超えている。
あのクリスタルと化したボスゴーレムを倒した時に、かなりの金額を得ていたのだ。
それは初心者が序盤で手にする額としては十分すぎる大金であり、ただの服一枚を買うのに足りないはずがない。
「ブランドとかついてるのかな? えーっと、お値段は……」
不思議に思いながら、商品の詳細欄にある価格表記に目を向ける。
その価格は――130,000G。
「…………」
あまりの桁の違いに、ヒカリンの思考は一時停止した。
ゼロが一つ多い。どう見ても初心者エリアの街の服屋に、置いてあっていい代物ではない。
その異常すぎる値段の理由は、画面をスクロールして装備効果を見た瞬間に、明らかとなった。
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装備:【神秘のケープ】
【VIT】+20
パッシブスキル:【汚れて朽ぬ身体】
毒や炎上などのスリップダメージで、HPがゼロにならなくなる。
スキルスロット:【】【】
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「あー……」
ヒカリンの口から、すべてを察したような乾いた声が漏れる。
VITのプラス値だけでも序盤の装備としては優秀すぎるが、加えてパッシブスキルとスキルスロットとやらが付属している。
「……【ユニーク装備】だ、これ」
HPが1に固定される【剛腕・アガートラーム】の代償により、ヒカリンにとってのスリップダメージは「触れた瞬間に即ゲームオーバー」を意味する最大の天敵だ。
たとえ【不退転】があったところで、すぐにストックがなくなるのがオチだろう。
要するにこの装備は、ヒカリンの弱点を克服するために、絶対に手に入れなければならない代物でもあった。




