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お友達

「もういい加減に元気だしなよー。陽奈まで奏になられちゃったら、渚ちゃんは困っちゃうよ〜」


「それはどういう意味。ってツッコミたい所だけど、今日は言わないでおいてあげる。陽奈の回復が第一だから」


「二人とも、ごめんね……」


 珍しく今日の陽奈は幼馴染の颯太とではなく、友人のなぎさかなでの二人に両脇を固められて下校していた。

 体育の授業でいつにも増して心が折れている陽奈を見て、「陽奈を矢野に任せるのは危険」と二人は判断。強制回収に踏み切ったのだ。


「ひなひな! 何処か行きたいところってある!? 今日の渚ちゃんは、どこでも付き合ってあげるぞー!」


「落ち込んでる相手に提案させるのは良くないと思うから、既に私が決めてる。駅前にできたケーキ屋。前に陽奈が気になってるって言ってたし、そこに行こう」


「かなでぇ……。なぎさもありがとぉ……」


「どういたしま……って! なんで言い出したアタシが後回しなのー!」


「日頃の行いの差だね」


 ブンブンと激しく揺さぶられる左手と、ギュッと優しく握られた右手。

 対象的な二人に引っ張られて、陽奈は駅へ歩みを進めていく。


 ***


 やがて、話題のケーキ屋に到着。

 テーブルに運ばれてきた甘いモンブランと温かい紅茶を前に、陽奈はようやく落ち着きを取り戻し、ポツポツと事情を話し始めた。


 颯太に誘われてフルダイブのVRMMOをやったこと。

 そこで装備を外した状態でもあっさりと腕立て伏せができたから、現実の自分でも出来ると思い込んでいたことなどを。


「……なるほど。つまり、陽奈をそそのかした矢野が悪いってことだね!」


 ゲーム用語にさっぱりな渚が、強引すぎる結論を叩き出す。

 すかさず奏がフォローに入り、「フルダイブ」や「VRMMO」の技術が、どれだけリアルな感覚をもたらすかについて、補足説明を入れた。


「なるなるなるほど。つまり、そんなリアルな現実逃避をさせて、陽奈に期待を持たせた矢野が悪いってことだね!」


 結果、渚の結論は一切変わらなかった。


「よーし、陽奈のスマホ貸して! アタシが今すぐ矢野に、クレーム連絡を送り込んでやるーっ!」


「だから、なんでもかんでも矢野のせいにしちゃダメだって! 矢野も陽奈の悩みを解決しようとしてゲームに誘ったんだから、頭ごなしに悪く言うのは良くないよ」


 極論に達してスマホを奪おうとする渚を、奏が物理的に制止する。

 冷静に相手の観点からも物事を見れる奏だからこそのフォローだ。


「……でも、渚の言ってる事もあながち間違ってはないとも思う」


 しかしそんな奏でも、半分は渚に同意せざるを得ないようだ。


「だって陽奈って渚みたいに単じゅ……、純粋でしょ? たとえゲームの中での出来事だったとしても、現実と混合しちゃうことくらい容易に予想がつくよ」


 語気ごきを強め、奏は言葉を続ける。

 まだ友達になってから日の浅い自分ですら辿り着く結論に、ずっと隣にいるはずの幼馴染が気づかないことへの苛立ちが、その声にはっきりと滲み出ていた。


「それなのに、そんな現実逃避させる真似みたいなことをさせたら、陽奈がこうなることくらいわからないのかな。せっかく陽奈に大切って思われてるんだから、あっちももっと陽奈を大切にしてあげ……ない……と……」


 白熱した感情のままに意見を述べていた奏だったが、その言葉が不自然に尻すぼみになっていく。

 話題の中心であるはずの陽奈が、先ほどから一言も発していない事実に気づいたからだ。


 いくら颯太の配慮不足に腹を立てているとはいえ、仲の良い幼馴染を目の前でボロクソに言われれば、陽奈は傷つくに決まっている。

 己の失言を悟った途端、奏の顔にサッと焦りの色が浮かんだ。


「ご、ごめん陽奈! 別に矢野のことを悪く言いたいわけじゃなくて……」


 焦りながらも奏が弁明の言葉を送ろうとした、次の瞬間。


「……ふふっ」


 陽奈の口から、弾むような笑い声が溢れた。


「ど、どしたの陽奈? もしかしてアタシたち、何かマズイこと言っちゃってた?」


 不安そうに尋ねる渚に対し、陽奈は顔を上げると満面の笑みで答えた。


「うんん、違うの。二人がそこまで必死に私のことを考えてくれてるのが嬉しくて、つい笑っちゃったんだよ。颯太に怒ってくれるのも、私を心配してくれてるからなんだなって、すっごい伝わってきたから」


「ひなあぁぁぁぁ〜! やっぱりアンタは最高にいい子だよぉ〜!」


 感極まった渚が涙声で叫び、座っている陽奈の腰辺りに勢いよく抱きつく。

 その隣で奏は、自分の言葉が陽奈を傷つけたわけではないことを理解し、小さく安堵の息を吐きだした。


「……それにしても奏?」


 抱きついてきた渚の頭を「よしよし」と撫でながら、陽奈はどこか意地悪な。それでいて、とびきり嬉しそうな表情を奏へと向ける。


「奏があんなに気持ちを出して喋る姿って新鮮だったね。それだけ奏にとって私は、大切なお友達ってことなのかな?」


「…………っ」


 図星を突かれた奏は顔を真っ赤にし、無言のままコクッと小さく頷く。

 それを見た渚が、勢いよく立ち上がった。


「おおーっ! あの奏が素直になるなんて明日は大雨かな!? こんな可愛い顔、記念に残しておこーっと!」


 すかさずスマホのカメラを向けられた途端、奏は咄嗟に自分のスクールバッグで顔を覆い隠す。


「ちょっと奏! 顔隠したら赤くなってるのがわからないからダメだよー!」


「そうだそうだー! 恥ずかしいなら、三人で撮ろう!」


 陽奈と渚が面白がりながら、自分たちの椅子を奏の両脇へと運ぶ。

 逃げ場を失った奏を真ん中に挟み、スクールバックを回収すると、三人揃ってカメラに向けてピースサインを作った。


「はいチーズケーキ!」


 軽快なシャッター音と共に保存された一枚の写真。

 そこに映る陽奈の顔には、体育の時間後から抱えていた憂鬱の欠片もなく、ひたすらに明るい笑顔の塊だった。


「わわわっ! 写真で見ても奏の顔ってば真っ赤っか! 耳たぶなんてタコみたいだよ!」


「ほんとだっ! 奏ってば照れ屋さんだ〜」


「あ、あんまり見るなぁぁぁっ!」


 ……結局、腕立て伏せができないという根本的な問題は、何一つ解決していない。

 それでも頼もしい友人たちの存在は、陽奈の心に確かな陽だまりをもたらしてくれたのであった。

……リアル話書くの楽しい

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