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対決PK集団

「あわわっ! ご、ごめんなさい! こんなに簡単に折れちゃうなんて思わなくて……!」


 目の前でポカンと固まる剣士の男女を見て、ヒカリンは心の底から申し訳なくなった。

 慌ててパネルを操作し、【インベントリ】から「弁償代です」と言わんばかりに、洞窟で手に入れた色鮮やかなクリスタルを取り出す。


 実際のところ、ヒカリンのこの判断はあながち間違ってはいない。

 壊れてしまったチート装備であっても、街の鍛冶屋に持っていき相応の金を積めば復元は可能だ。ヒカリンが取り出した宝石の名を冠するクリスタルは、高値で取引される換金アイテムであり、復元費用としては十分すぎる代物だった。


「これ、修理代に使って――」


 そう言ってクリスタルを差し出そうとした、その瞬間。

 ヒカリンたちを包み込むように、後方から無数の火炎弾が飛来した。


「わわっ!?」


 【加熱ブースト】の効果によって世界がスローモーションに見えているヒカリンは、身を屈めてあっさりとその連弾を躱す。

 しかし、武器を折られて呆然と立ち尽くしていた剣士の二人はそうはいかない。理解する間もなく、炎の渦に飲み込まれた二人は光の粒子となって消滅してしまった。


「えっ……? な、仲間なのに攻撃するの!?」


 驚いて視線を向けると、先ほどの魔法使いの男が杖を構え、悪びれる様子もなく冷笑を浮かべていた。


「バカがっ! ユニーク装備は俺のなんだよっ!」


 目先の利益のためだけに結託した、烏合うごうしゅうのハイエナパーティ。他人の獲物を横取りし、必要とあらば味方ごと焼き払うことすら、彼らにとっては日常茶飯事なのだ。

 だが、その冷酷な振る舞いは、ヒカリンの逆鱗に触れた。


「……もうっ! そういう悪いことする人は、許さないんだからねっ!」


 理不尽な悪意を前に、流石のヒカリンも我慢の限界だった。

 表情からふにゃふにゃとした空気が消え、キリッとしたものへと切り替わる。


「食いやがれ! 【炎弾えんだん】っ!」


 魔法使いの男が杖を振り回す。

 チート能力が【無限魔力】的なものなのか、息切れする様子もなく永続的に火球の雨を降らせてくる。






 ――が、当たらない。

 極限集中状態をもたらす【加熱】で軌道を完全に見切り、【空脚】によって空気を蹴って縦横無尽に駆け抜ける。

 そんなヒカリンを捉えることなど、男の魔法スキルでは絶対に不可能だった。


「なっ、なんだこいつの動きはっ!?」


「隙だらけだよっ!」


 一気に懐へと潜り込んだヒカリンは、グッと拳を握りしめ右腕を…………いや、意識外の左の拳で真っ直ぐにストレートを放った。


「ぐばぁっ!?」


 男の顔面に左ストレートがクリーンヒットし、そのままカエルのように吹き飛んで光の粒子へと変わっていく。


「……この手で殴ったら痛いに決まってるもんね」


 地面に着地し、ヒカリンは右手を見つめる。

 ヒカリンが【剛腕・アガートラーム】で殴らなかったのは、それが理由だった。ヒカリンなりの最後の配慮だったのだ。



 ……といっても、スキルとスキルポイントで基礎STRが74にまで跳ね上がっているヒカリンの左ストレートである。

 VITに一切ステータスを振っていないであろう後衛職がノーガードで受ければ、当然のごとく一撃必殺ワンパンだ。


 そもそも、HPがゼロになってゲームオーバーになれば痛みはシステム的に消滅するため、どちらの腕で殴ろうが相手にとっては全く関係なかったのだが。


「ひぃっ……! こ、こんな相手とやってらんないわよっ!」


 一瞬にして仲間が三人消し飛んだのを見て、後方にいた短剣使いの女は悲鳴を上げ、脱兎のごとく森の奥へと逃げ出していった。

 しかし、ファイターの男だけはその場に残り、面白そうに不敵な笑みを浮かべていた。

 奇しくも同じ格闘家ファイターの職業。戦闘者の血が騒いでいるのかもしれない。


「ククク……。空気を蹴る機動力に、魔法を躱す反応速度。おまけに素手の一撃で沈めるSTR……。てめぇ、ただの初心者じゃねぇな?」


 ヒカリンの異常なステータスと動きを、男は「圧倒的なプレイスキルの高さ」と完全に勘違いしたらしい。

 最初に出会った時とは違って、ヒカリンを舐めている様子はなかった。


「なら俺も、最初から本気でいかせてもらうぞ!」


 男が身構えると、両手にはめられたガントレットが赤黒い光を放ち始めた。


「ククク……。なぜ俺たちが、最初から全員で一斉に攻めなかったと思う?」


 聞いてもいないのに、男が長々と語り始める。

 もしかするとこの男はゲーム役の悪役みたく、喋るのが好きなのかもしれない。


「冥土の土産に教えてやろう! それは俺のチート装備に【喪失を乗り越えるオーバーカム・ザ・ロス】の効果があるからだ! パーティメンバーが倒れるたびに、俺のステータスは限界を突破して跳ね上がぁぁぁぁぁぁっ!?」


 そんな男の熱い解説は、突如として腹部に発生した痛みに強制終了させられた。


「あだだだだだだっ!?」


 プルプルと震えながらお腹を抑えて地面に突っ伏した男を見下ろし、ヒカリンは少し困惑した様子を見せる。


「え、えーっと……。お話がすっごく長くて、隙だらけだったから……つい」


 男が長々と棒立ちで喋り続けるものだから、ヒカリンはサッと距離を詰め、空気を読まずに左手のボディーブローを入れてしまったのだ。

 相手は本気を出した歴戦のプレイヤーらしいので、当然防がれるか避けられると思っていたらしい。


 漫画やアニメなら「敵の変身中・口上中は攻撃してはいけない」暗黙のルールがあるが、ここはリアルタイムで進行するVRMMOだ。

 目の前で無防備にベラベラと喋っていれば、殴られるのは当然のことわりである。


「く、くそぉっ! この俺が、何もできずにやられるとはぁぁぁっ……!」


 前衛職ゆえに高いVITを備えていたからか、男は光の粒子にならずにギリギリで耐えている。耐えてはいるが、尋常じゃなく痛そうだ。


「…………」


 ヒカリン視点では、この男は先ほどの魔法使いと違って仲間を裏切ったわけではない。わざわざ倒してトドメを刺す理由もなかった。

 それどころか悪い人たちとはいえ、あまりにも痛そうにしているのは可哀想とまで思い始めていた。


「……だいじょーぶです? 殴った私が言うのもなんですけど、痛いならポーションを飲んだほうがいいですよ?」


「ぐっ、あぁ……! 回復薬なんて高くて持ってねぇよ……!」


 男が脂汗を流しながら答える。どうやら回復アイテムは持っていないらしい。

 ならばと、ヒカリンは先ほど倒した魔法使いや剣士たちがいた場所を見渡すが、小瓶らしきドロップアイテムは落ちていなかった。


「うーん……そうだ!」


 ここでヒカリンのポンコツな頭が、一つの名案を導き出す。


「もしかしたら、さっき逃げたお姉さんが持ってるかも! ちょっと待っててくださいね! 見つけてポーションをもらってきますから!」


「……は?」


 腹を抱えてうずくまる男をその場に放置し、ヒカリンは【空脚】で空気を蹴り飛ばす。

 そして、自分に襲いかかってきたはずのPK男を回復させるためのポーションを求めて、女性が逃げた方角を全速力で駆け始めるのだった。

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