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PK集団

 茂みから現れたのは、男女の剣士が一人ずつ。

杖を持った魔法使い風の男が一人に、格闘用のグローブをはめたファイターの男が一人。

 さっき倒れていた短剣使いの女性を合わせると、計五人がヒカリンの前に立っていた。


 男女の剣士とファイターが構えている武器には、初心者エリアには到底不釣り合いな、豪華な装飾が施されている。

 おそらく、キャラクター作成時の【はじめからチート】で得た武器だろう。残る三人も、何らかのチートスキルを持っていると推測できた。


「はぁ……。お前の【野生の女王】でモンスターを操って、油断したプレイヤーを狩る作戦もついに失敗に終わったな」


「うるさいって言ってんでしょ! いいわよ、今回は私の取り分は少なくていいから、さっさとその子倒しちゃいなさいよ」


 仲間割れのような会話の流れからして、あの女性はテイマー系統のチートスキルを持っていたのだろう。

 そんな当の標的であるヒカリンは、緊迫感ゼロできょとんと彼らのやり取りを眺めていた。


「……ん? おいよく見ろよ。あのガキの格好、未確認の【ユニーク装備】だぜ。絶好のカモじゃねぇか!」


「ああ? マジじゃねぇか! SFスーツかー。こりゃあ倒したもん勝ちでいいよな!」


 ヒカリンの着ている【機動ノ要】を見た途端、男たちの目の色が変わる。


「あのぉ……。ゆにーくそうび、って何ですか?」


 緊迫感のないヒカリンの素朴な疑問に、剣士の男はニヤリと笑った。


「あん? ユニークを持ってるのに初心者なのか。いいぜ、これからやられるお前への勉強代だ。特別に教えてやるよ」


 どうやら、意外にも親切に答えてくれるらしい。

 男の解説によると、【ユニーク装備】とはダンジョンを『最初にクリアした者』だけに与えられる、非常に強力な効果を持った報酬のことだという。


 この世界では日々新しいダンジョンが生成・発見されているが、見つかったものはすぐに誰かに攻略されてしまう。

 プレイヤーの総数に対して、未開拓のダンジョンは圧倒的に不足しているため、極めてレアな存在なのだ。


「ステータスが異常に高く上がったり、強力な固有スキルが備わってたり、何らかのすげぇ恩恵があるんだろ?」


「ああ〜。ありますあります!」


 ヒカリンは「うんうん」と深く頷いて納得の声を漏らした。


 たしかに【AGI】が大幅に上がるだけでなく、空気を足場にできるなんていう強力なパッシブスキルまでついている装備は、どう考えても普通の装備ではない。

 彼らがやる気満々な理由はわかった。要するに、世界に一つしかない強力な【ユニーク装備】を手に入れられるチャンスだからだ。


「……って、一つしかない装備なんて、みんなが遊んでるオンラインゲームのバランス的に成り立っちゃうんですか?」


 ゲーム初心者のヒカリンから、至極真っ当な疑問が飛ぶ。


「ハッ! キャラクター作成時の【はじめからチート】で、プレイヤーの数だけ一つしかない装備やスキルがごまんと生み出されてるんだから、今更なんの問題もないだろうが」


「たしかに! 言われてみれば!」


 自分の右腕にある、理不尽の塊のような【剛腕・アガートラーム】をちらりと見やり、ヒカリンは深く深く納得した。

 このゲームのバランスは、最初からそういう「チートありき」の次元で調整されているのだと。


「…………」


 そうして悠長に解説会を楽しんでいたヒカリンだったが、二拍子ほど遅れて、ようやくある事実に気がついた。


「……あれれ。手に入れるチャンスって……もしかして私から奪うってこと!?」


「今更気づいたのかよ、トロい奴だな!」


「いやいやいや! いくらなんでも強盗はダメだよっ!」


 慌てて説教モードに入るヒカリンに対し、男たちは鼻で笑う。


「ここはゲームの中だから略奪されるのは当たり前さ。ゲームの中でも『いい子ちゃん』でいる必要はねぇ。そういう自由度も、ゲームとして推奨されてるんだからな!」


 現実世界のしがらみや道徳から解放された、仮想空間。

 ストレス発散のためにログインしているプレイヤーの中には、こうして他者を攻撃することで快感を得る者も少なからず存在するのだ。


 ……だが、ヒカリンにはその感覚がまったく理解できなかった。

 まだ純粋なお年頃だからというのもあるが、持ち前のアホの子成分が良い方向に作用しているのだろう。


 なにせヒカリンは、自分から襲いかかってきたモンスターが背中を向けて逃げ出しただけでも、追いかけることに罪悪感を覚えてしまうような性格なのだ。

 プレイヤー相手に明確な悪意を向ける連中の心理など、到底想像もつかなかった。


「それじゃあ、ありがたく装備はもらうぜっ!」


「いーや、もらうのはアタシさ!」


 現実を目の当たりにしたヒカリンががっくしと肩を落としていると、男女の剣士が同時に襲いかかってきた。

 チート級の装飾が施された両手剣が、ヒカリンに迫り来る。


「わわっ!? ちょ、ちょっと、待って……!」


 ヒカリンはあわあわとパニックになりながらも、反射的に右腕をぶんっと振り回した。

 それは振り下ろされた二振りの剣を、【剛腕・アガートラーム】の装甲で受け止め――。







 ――そのまま二人のチート剣をへし折った。


「「……えっ?」」


「あ」


 素っ頓狂な声を漏らす襲いかかってきた二人とヒカリン。

 右腕に直撃した二本のチート両手剣はガラス細工のように、いともたやすく粉砕されて空中に散ったのだった。

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