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機動ノ足掛かり

「うんうん! 今日の予定はこれで完璧だね!」


 昨日の長風呂のぼせ事件の反省を活かし、ヒカリンは本日のプレイルーティンを『モンスター狩り→筋トレ→お風呂』の順に定めていた。

 一昨日手に入れたばかりの新しい装備はもちろん、【不退転】や【加熱ブースト】といった新スキルも早速試してみたい。

 そんなワクワクとした計画を胸に、ヒカリンは街の外へ向かうべく始まりの街の大通りを歩いていた。





 ――はずだったのだが。


「だいじょーぶ……。みんなは思うほど私のことを見ちゃいない。たいじょーぶ……!」


 ログイン時のルンルン気分とは打って変わって、現在のヒカリンは顔を赤くに染めて、自己暗示をかけながら早歩きをしていた。

 無理もないだろう。なんたって恥ずかしいボディスーツ姿をしているにも関わらず、周りから注目の的となっているのだから。


「おい見ろよ、あの白のスーツ……。全く見たことねぇSFデザインだぞ?」

「すっげえ……。あんな装備どこで手に入れたんだ?」

「隠しダンジョンの初クリア報酬か? にしても、ファンタジー世界には浮いてるデザインだな……」


 すれ違うベテランプレイヤーたちは、ヒカリンの着ているパワードスーツ――【機動ノ要】が未発見の装備であることに気づき、驚きと羨望の眼差しを向けている。


「むりむりむり……っ! 恥ずかしさで死んじゃう!」


 ……が、悲しいかな。VRMMO初心者のヒカリンに、そんなゲーマーたちの心理がわかるはずもない。

 周囲からの熱い眼差しを被害妄想に変換して、いたたまれなくなったヒカリンは、逃げるように人がいない方角へ駆けていった。


 ***


「こ、ここまで来ればもう誰も見てないよね……」


 人目を避けて街を飛び出した結果、ヒカリンは始まりの街の郊外に広がる平原に辿り着いていた。

 周囲に他プレイヤーの姿がないことを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。


 見上げれば雲ひとつない晴天で、吹き抜ける風も心地よい。まさに絶好のピクニック日和とも言える景色だが……ここはのどかな現実世界ではない。常に危険と隣り合わせのVRMMOの世界である。

 ヒカリンが陽だまりにうつつを抜かして一息ついていると、突如として足元の土がボコッと盛り上がり、モンスターが姿を現した。


「わわっ! デッカいモグラだ!」


 現れたのは、槍を構えた三匹のモグラのモンスターたちだ。

 その大きさは、ヒカリンの腰の高さほどもある巨大なサイズであり、現実の可愛らしいモグラとは程遠い威圧感がある。


「でも、今の私なら余裕だね!」


 ヒカリンはアガートラームの宝石に触れて、剛腕を解放する。メカニカルな駆動音と共に右前腕が肥大化し、圧倒的な破壊力が宿った。

 そしてこの瞬間、装備効果で得ていたAGIもすべてSTRへの変換対象となり、速度のステータスは「1」に固定される。羽のように軽かった体は、元の状態に戻るはずだった。


「あれ? あんまり……重くない?」


 ヒカリンは不思議そうに首を傾げる。

 たしかに昨日、宿屋でシャドーボクシングをしていた時の「めちゃくちゃ軽い」という感覚は消えた。それでも、普段より遥かに身軽に感じたのだ。


「キュイッ!」


 首を傾げるヒカリンを隙ありと見たのか、一匹のモグラが槍を突き出しながら飛びかかってくる。

 その攻撃をヒカリンはササッと、いとも簡単にバックステップで躱してみせた。


「隙ありだよっ!」


 さらに躱わすだけでは終わらない。

 機動ノ足掛かりによって得られている空気を足場にする力を使って、地面に着地するより速く前へとステップ。

 身を低くしながら、ガラ空きのボディにアッパーを叩き込んだ。


「ほーむらぁーん! なんちゃってね!」


 重すぎる一撃を受けたモグラは、光の粒子になりながら天へと一直線に。モグラはお星様と化した。


 これが【機動きどうノ足掛かり】で得られたパッシブスキル、【空脚くうきゃく】の力である。空気を足場と貸せるのなら、躱して地面に着地するまでの間でも、自由にカウンターへと転じれる。

 ヒカリンの異次元なSTRと何故か軽い体のおかげも相まって、最高に相性の良いスキルと言えよう。なんせ一度まともに受ければ、相手はそれで終わりなのだから。


「さぁーて、残りの二匹もかかって……」


 視線を空から地に戻すが、既にモグラはその場にはいなかった。

 どうやら今の一連の流れで、ヒカリンを圧倒的な格上と判断したらしい。呑気に空を眺めている間に、残ったモグラ達は逃走していた。


「……ちぇー。数はそっちの方が多いのに、逃げるなんてずるいなぁ」


 こうして少し煮え切らない結果となってしまったが、今日初の狩りを終えた。

 そしてまだまだ時間があることを確認すると、ヒカリンはさらなる強敵を求めて平原の奥へと進くのだった。


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