37話 月が吠えるように
日奈が行方不明になったという知らせを夕月から聞かされた。
月奈と華月は動揺した。
夕月はそんな二人を家へと招き、そこで日奈のことについて詳しく話をすることにした。
「まあ、立っているのもなんだから、応接間で腰掛けて話そう。大泉先生」
夕月はそんな風に月奈に話しかけた。どこか少し寂しそうな表情を携えていた。
月奈も寂しそうな顔をして、ただ黙って頷いた。
「ねーちゃん。オレ、こんなのって……。だって夕月にーちゃんは……」
華月もまた寂しそうな表情をして、月奈の後ろに隠れて、月奈の手を握った。
月奈は華月の方を見て心配かけまいと、微笑みながら首を振った。
そんな二人の姿を見てか、 夕月は目頭に手を当てる。何か考え事をしているようだ。
しばらくして夕月は二人に微笑みかけながら、
「君たちは、その、どっちらで対応した方がいいかな?」
「えっと、椎名さん……」
「まあ、その、なんというか。君たちは僕の妹達だから、それ相応に対応するべきか、どうかって」
「兄さん……」
月奈は確かにそう呟いた。夕月のことを兄だとそう言った。
夕月はそれを聞き、「分かった。今からは家族として話そう」とそう話を持ちかけたのだった。
月奈は嬉しそうだった。
そんな月奈の嬉しそうな顔を見て、華月もまた微笑んでいた。
*
大泉家と椎名家は親戚関係である。
そして夕月、月奈、華月の三人は血の繋がった兄妹である
三人は会話している間、終始気まずさがあった。
これは両家との間で行われた養子縁組というものが原因だった。
三人は確かに兄妹であり、夕月もまたかつては大泉家の人間だった。
しかしながら椎名家の家長を担っていた正義という男が問題を起こし、破門されてから話が変わった。
椎名家の日吉という者が突如、大泉家の男を養子にし、家督相続すると言いだしたのだ。
大泉家の男で選ばれたのが、夕月だった。
それ故に夕月は大泉家を離れ、椎名家の養子になった。
さらに夕月が椎名家の養子になったことで、今度は大泉家が夕月に会うことを禁じられた。
理由は大泉家と椎名家が何度か養子縁組に関して揉めてしまったことだった。
だが、今日、椎名日奈が行方不明になったことにより椎名家、大泉家との間にあったルールは破られた。
こうして今、夕月の目の前には、二人の妹がいた。
夕月は応接間に月奈と華月を招き入れた。
椎名家の応接間は和室であり、畳が敷き詰められ、真ん中には長机、周囲に座布団が4枚並べられている。
そのうち一つには和服を着た女性がいた。
その女性は日和という名で、日奈の実の母だ。
日和は目を閉じてただじっとしていた。
それから夕月、月奈、華月が順番に応接間に入っていった。
応接間の奥には日和、夕月が座り、入り口側に月奈、華月が座ることになった。
しばらくの間この場は沈黙が流れていた。
それはまた日和がこの場にいたからだと言える。
この場において日和は椎名家での起きる問題に対して決定権というものが強かったからだと思う。
なぜなら日和は正統な椎名家の者であるからと。
まず初めに日和から口を開いた。
「さて、何から話すべきでしょうか。大泉家の者がルール破ったことに対して問い詰めましょうか」
日和のその言葉に月奈、華月は少し怯えてしまった。
一方夕月は目を閉じたまま、何やら思案しているかのようだった。
日和はまた言葉を続ける。
「あなた達はいっつも、いっつも、私の言うことを聞けない。この家に近づくなと何度言ったら……」
「義母上……!」
夕月が日和の言葉に割って出た。
日和は不機嫌そうに夕月を睨む。
「何よ、夕月。あなたは椎名家でしょう。あなたは私の言いつけを守れば……」
「いい加減にしろ!」
夕月が怒りを顕にしながら言った。
そんな怒った夕月の姿を見て、月奈、華月は息を呑んだ。
そんな夕月の姿を二人は知らない。
日和は夕月をにらみつけ、
「な、何よあんた!」
「私は今は、椎名家の家長です。ですから、義母上。今は敵をつくる場合ではないはずです。今は連れ去られた日奈を探すことが大事なのです。義母上、ここは私達に任せてくれませんか?」
「な、何よ、ホントあんたら、大泉家は……」
日和はそうやってブツブツと愚痴をこぼし、機嫌が悪いまま、応接間を出ていった。
夕月は日和が応接間を出ていった後、月奈、華月に、日奈が連れ去られるまでの経緯、今後について伝えた。
「とりあえず二人とも今日は泊まっていきなさい。日奈のことが心配だと思うけど、ここは僕に任せてほしい。大丈夫だから」
夕月はそう言うと心配かけまいと微笑んだ。
それに対して月奈が、
「ご心配には及びません。私たちがいると、その日和さんに怒られてしまいますから。なので今日は帰ります」
「そう、なのか……。まあいい。気をつけて帰るんだぞ」
「はい。兄さんもお身体には気をつけてください」
「ありがとう、二人とも。必ず僕が日奈を連れ戻してみせるから」
夕月は月奈、華月の前でそう宣言した。
その後、月奈と華月は椎名家を後にした。
夕月は二人を見送り、また家に帰った。
家に帰ると、パジャマ姿で頭をお団子にした女が小さい幼女を抱きかかえながら、玄関に立っていた。
彼女は夕月の妻、椎名ヒスイであり、抱きかかえられている子は夕月の子、ゆうひである。
ヒスイは眠たげなまぶたをこすりながら、
「あなた、義母に怒鳴ったそうじゃないですか」
「あ、起こしちゃった」
「えっとまあ、ふはぁ〜。あまり無理しないでね。お休みなさい……」
「あー、お休み……」
夕月がヒスイに声をかけていると、ゆうひが不安そうにボーと眺めていた。
夕月が近づくとゆうひは、
「とーちゃん。よしよし」
と小さい手で頭を撫でてくれた。
ヒスイはゆうひを抱きかかえたまま、寝室の方へ戻っていった。
夕月は撫でられたところを触りながら、妻や娘達のためにも頑張ろうと鼓舞した。




