30話 大泉姉妹
華月は少し難しい顔をしながら学校の廊下を歩いていた。
さっきの真夜っていう女、一体何者なんだよ、調子狂うな、と華月少しイライラしていた。
そして思わず鼻でフンと鳴らしていた。
「あら、あなたは……」
華月は急に誰かに声をかけられて、イライラしながら、
「な、なんだよ急に……。って……」
振り返った瞬間、華月は唖然とした。背筋が凍る感覚だった。
目の前には和服姿をした女性がいた。
その女性の正体はもちろん華月は知っていた。
日奈の母である。
日奈の母は不思議そうに華月を眺めていた。
華月は少し恐れ多いと思ったわけか、少しビクビクしながら様子を伺っていた。
なんせ華月も日奈の母は天敵である。どうにかこの場は丸く収めて、潔く逃げたいと思った。
「あ、あの日和さん。お、オレ、じゃなくて、私になんの用ですか……」
「華月さん、相変わらず元気そうね」
相変わらず無表情で何考えているか分からない、この人は。
「あはは。おかげさまです……」
華月は苦笑いしながら答えた。
「あの、私は、これで……」
そそくさと逃げようとする華月を、日和は呼びとめる。
呼び止められて、華月は思わずビクリと肩を震わせた。
「あの、少し聞いても?」
「はい、なんでしょうか?」
華月は諦めて日和の質問に答えることにした。
逃げ出したくても、これは無理だって思った。
「うちの娘の日奈とは会ってるの?」
「えっと最近は会っていないですね。日奈さんとは……」
「あら、そう。ところで、今日は日奈は学校にいるのかしら?」
「えっと、大泉先生に聞けば分かりますよ」
という感じで、姉にすべて丸投げする華月。
それに対して疑いもなく、日和は答える。
「確かにそうね。ありがとう、華月さん」
「いえ、私はこれで……」
華月は今度こそ逃げた。
*
「学校休んでいるって、どういうことです、先生!」
学校にある応接室にて怒号が走る。
応接室の空気は緊張感で張り詰めていた。
怒号を出した主は、日奈の母である日和であった。
日和は先ほど華月と会話し、大泉先生に日奈の学校生活に関して詳しく聞こうとしていた。その矢先に言われた一声が学校を休んでいるということで、流石に日和は看過できず、重い言葉を吐き出したのだった。
それに対して大泉先生は少し緊張しながらも、冷静に対応しようと、
「ええ。ですから、体調不良で学校をお休みになっているのでして」
「あなた、また日奈のこと擁護しているでしょ……」
「まさか、そのようなことは……」
見透かされたかのようなことを日和から聞き、大泉先生は少しドキリとした。
「あなたは昔からそうよね。そうやって日奈のことを甘やかして……」
これでもというばかりに大泉先生に対しての良くないところを提示し始めた。
正直これを言われてしまって、大泉先生は何も言い返す言葉がない。
だが、このまま日和のペースで話を進めるわけにもいかなかった。
ここはまた冷静さを保ち続けようと大泉先生は、「えっとなんのことでしょうか」と言った。
その言葉もまた癪に障ったわけか日和は、
「全く姉妹そろって私の言うことを聞けない子達ね」
大泉先生は返す言葉がなかった。
なんというかこの人は昔から言い出すと他者の言葉を遮ってまで、自分の意思を貫き通すところがあったからだ。
でも、それでも妹のことも悪く言うことは少し納得できなかった。
「大泉先生、いいえ、大泉月奈さん。日奈を甘やかすのはやめてください。それでは日奈のためにはなりません」
「はい、善処します」
大泉先生は渋々頷いた。
これ以上は意見の一方通行なのだと。
「まあ良いですわ。日奈が学校から逃げるのでしたら、私にも考えがあります」
何か思いついた日和の心理を聞こうとして大泉先生は、
「えっと日奈さんに何をするつもりで」
「日奈の一人暮らしをやめさせて、私が日奈を直々に管理下に置きますわ。私の目の届く範囲でね。もちろんそれで学校を辞めさせるようなことはありませんし、学校ではいつも通りでも構いませんわ。大泉先生が駄目でしたら、私自身で日奈を教育しますから」
「一人暮らしを辞めさせるんですか?」
「ええ。そのつもりですわ」
「それだと日奈さんは、今よりももっと酷い状況になると思います。日奈さんは心を閉ざして、人を拒絶するようなことに」
「人を拒絶するですか、それでも構いませんわ。日奈には交流関係など必要ありませんから。すべては人としての評価が大事ですから」
日和は「失礼します」と告げると応接室を出ていった。
日和が出ていったのを見ていた大泉先生はどっと息を吐いた。
「まずいことになりましたね、日奈さん」
大泉先生は一人そう呟いたのち、応接室を後にした。




