29話 暴君少女
真昼と別れてから、真夜は校舎に入り、教室に向かっていた。
自分の教室に入る前に少しだけ2-2教室を覗いてみた。
2-2教室には日奈という少女がいて、真夜は日奈に軽く挨拶しようと思っていた。
しかしながら今日は2-2教室には日奈の姿を見つけることができなかった。
今日は来ていなかったのだろうか。
真夜は仕方なく自分の教室に戻ろうとすると、教室にいた隅に声をかけられる。
「あ、隅。日奈ってまだ来ていない?」
「来ていませんわ。椎名さんのことだからまた、遅刻ってことではないでしょうか?」
日奈が遅刻してくることはよくある事らしい。バイトが忙しいとかで常に寝不足で寝坊してしまったのだろうか。
「ありがとう、隅。とりあえずまた出直してくるよ」
「そうですか。ごきげんよう」
「ああ」
真昼は今度こそ自分の教室である2-3教室に入ることに。
2-3教室にはすでに多くの生徒が来ていた。
その中には裕という男子高生がいて、日奈の幼馴染である。
真夜は裕とも何度か話したことがあり、一緒に駅付近で探しものしたことがある仲でもある。
「やっほー。裕」
「ん、ああ、真夜か……」
裕は少し難しそうな顔をしていた。
「ん? なんか今日はあまり元気なさそうだね?」
「ん? そうか? いや、ちょっと考え事していて……」
「なんか悩みとかあるなら、私聞くよ」
「いや、まあ、なんというか、今朝、日奈の母親に会ってな。なんというか日奈のことを探しているみたいなんだけど」
「そうなんだ。それで?」
「今日のあいつ多分、母親から逃げているっぽいんだよな。まあ、昔から仲が悪かったらしいけど、最近は特に連絡も取っていないらしく。それが原因で日奈の母親は探しているみたいなんだけど」
「それなら普通に会えばいいのに。日奈ってなんで逃げちゃうんだろうね」
「いや、その、なんというか、あいつの母親ってなんというか、ちょっと厄介な人というか」
「それはちょっと日奈、苦手そう」
「そうなんだよ。それであいつ探しに学校に乗り込むみたいなんだけど」
「マジで! ちょっと見てみたいかも」
「いや、マジでやめとけ。あいつの母親マジでこえーから」
裕がそう言うのなら、日奈も会わないほうがいいのかもしれない。
というかこの様子だと日奈って今日は学校に来ないのでは、と真夜は思ってしまった。
*
生徒指導教室で、大泉先生はある生徒と話していた。
生徒の名前は大泉華月。水柳高校1年生であり、大泉先生の実の妹である。
華月もまた、この高校での問題生徒の一人である。
普段の授業態度は悪くないのだが、生活態度という点に少し問題があった。
華月はよく誰かと衝突してしまうくらいに仲が悪く、よく口喧嘩になってしまうのだ。
そのことで大泉先生は自分の妹である華月のことで頭を悩ませていた。
まだ口喧嘩で済んでいるものの、いつか手を出してしまうのではないかと危惧していた。
まるで昔の椎名日奈という生徒とそっくりであるかのように。
このまま華月が暴力で訴えるようなことがあれば、日奈のように心閉ざしてしまい、学校をサボってしまうのではないかと勝手ながら想像してしまった。
「華月さん。どうしてあなたはいつもそうやって他の人を傷つけるようなことを言ってしまうのですか?」
華月は大泉先生の質問に対してふん、と鼻を鳴らした。
これは機嫌が悪い時のいつもの癖なのだと、大泉先生は知っていた。
しばらく華月は無言を貫くのかと思うと、急に声を上げた。
「うっせえな! オレに指図するな!」
華月はそう言い切ると、目の前の机を叩いた。
大泉先生はため息をつき、それでも屈することなく、
「こら、女の子がそんな乱暴な言葉、言ってはいけません。それにものに当たるのもいけません」
「そんなのオレの自由だろ! てか、ねーちゃんはこういう過保護すぎる発言が多すぎんだよ。そんなんだから日奈ねーちゃんにも嫌われるだろ」
「別にそんなわけないですよ。そもそも問題はそこじゃありません。私にするのはともかく周りにも、乱暴な発言、言うものではないのですよ」
「あっそ! てか、オレがこんな態度を取らなきゃなんねーのは、全部、周りが悪いんだよ。皆、よってたかってオレを悪者扱いしやがって」
「別に、皆がそういうつもりで華月さんに接しているわけではないんですよ。ただ、そういった発言が周りを傷つけるのです」
「そうかよ。勝手に傷つけよ。てか、オレ、もう出るわ。なんで好きでねーちゃんに説教されなきゃいけねーか。意味わかんないし」
「分かりました。今日のところはここまでにします。華月さん、授業には行ってくださいね」
「うっせーな、分かってるって! 言われなくてもオレは授業には行くって」
華月はドンっと大きな音を鳴らしながら、生徒指導室の扉を閉めるのだった。
*
華月は生徒指導室を出てからの昼休み、少しイライラを見せつつ、廊下を歩いていた。
そんな様子を見ていた生徒は皆、少し怯える様子で華月のことを見ていた。
どいつもこいつもオレを敵視しやがって、と華月はさらに眉間にしわを寄せた。
そんな溜まった鬱憤を晴らそうと、華月は食堂で昼食を取ることにした。
食堂でカレーライスを頼んだ華月は席に着いた。
周りは華月に怯えて遠くの席に座って、目を合わせないようにしていた。
はあ、またこれかよ、と呆れながら、華月は一人でカレーライスを食べていた。
しばらくすると一人の女子高生が華月の目の前にやってきた。
女子高生は綺麗な金色の髪をしていて、面が良かった。
「ねえ、目の前ごめんね」
金髪の少女はそんな風に断りを入れてから目の前に座った。
華月はなんでオレの目の前に、と少し不審に思いながらチラッと金髪の少女を見た。
金髪の少女は学食でラーメンを頼んでいた。
「オレのこと怖くねーのかよ」
華月はそうやってボソッと口にしてみると、金髪少女は目を光らせて、
「え! 何で怖がる必要あるの? だってアンタめっちゃ可愛いじゃん!」
「は? な、なんだよそれ。べ、べつに何も、や、やんねーぞ!」
「別に何か欲しいから言ったんじゃなくて。なんというか、単純にアンタのことすごく可愛いって思ったの!」
なんだよこの女、調子狂うなと、華月はふん、と鼻を鳴らした。
金髪少女は嬉しそうに言い切ると、手を合わせて、それからラーメンをふうふう、と吹きかけた。
「お前、本当にオレのこと怖くねーのか?」
「だから、可愛いって言ってるじゃん。なんというか、ハグしたくなるみたいな。ねえ、ハグしてもいい?」
「や、やめろ! 変態」
「あはは。冗談だよ。でもなんとなく誰かさんに似ているなって思って」
「そうか。でもオレは、その誰かさんではないからな」
こんな奴無視してやる、と華月はカレーライスを食べ始めた。
華月がカレーライスを黙々と食べていると、金髪少女は恍惚とした表情で見ていた。
「なんだよ、さっきから」
「食べる姿、マジ、天使。ああ、なんでみんなアンタのこと避けているんだろうね」
「オレが怖いからだろ」
「え? 本当にそう思っている?」
「は?」
金髪少女は少しドン引きした表情で見ていた。
「本当にからかうつもりならあっちいけよ、ギャルが!」
「あ! ギャルって言った! それ、禁句だから!」
「うっせーよ。まじで」
「あはは。ごめん」
金髪少女は華月が食べている間、笑顔を絶やすことがなかった。
華月は少しだけ悪いことしてしまったなと思い、「ごめん」と呟く。
「いいよ。気にしていないし」
「オレってマジ、なんなんだよ」
「ん? 可愛いって思うよ」
「だから、それ言うな!」
「あはは」
「でも、ありがとよ。オレ、こうやって誰かと食事したの久しぶりで。あのさ、こんなんでいいからさ、あの、その……」
華月は上手く言葉にできない葛藤に陥っていた。
なんとなくこういうのって恥ずかしいからと。
「ん? どうしたの?」
「いや、別にいいや。それよりアンタ良い奴そうだし、名前覚えてやんよ」
「ええ? ちょっとさっきからずっと偉そうなの腑に落ちないけど」
「そう思っていたんだったら最初から言えよ」
「あはは、別に良いじゃん。私、2年の真夜。七瀬真夜」
「オレは、華月、大泉華月」
「大泉……? あ、もしかして、あの先生の親戚?」
「親戚というか、オレのねーちゃん」
「なるほど。また今度食堂で一緒にご飯食べよ!」
「あ、ああ。次があればな」
ぎこちない返事を返した華月だった。
一方、真夜は食事を済ませてまたどこかへ行ってしまった。
「ん? 七瀬真夜? どっかで聞いた名前……」
華月はそう呟いて、食べ終わった食器トレーを返却しに行った。




