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真夜とトーラス  作者: 白糸モモ
2章ドーナツ・ロンド編
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27話 正義と夕月

 真昼は日奈の手を引いていく。理由は何も語ってくれなかった。

 ただここから逃げようと言うだけだった。

 日奈は真昼の手が微かに震えているのが分かった。

 きっと何かに焦っている。

 日奈はその何かの存在を知らないまま、ただ真昼に引っ張られながら、後ろをついて行くしかなかった。

 そんな焦っていた真昼が急に足を止めた。顔面蒼白にしながら。

 ちょうどボーリング場を出たくらいだった。

 男がボーリング場の前にいた。それはまるで誰かが来るのを待ち伏せするかのようだった。

 そこで日奈は真昼がなぜ焦っていたのか、すぐに分かった。

 男は無造作にボサボサな髪をしていて、絶望に満ちたような目、無精ひげ面で、少し汚らしかった。服は灰色のスウェットだ。そして辺りをキョロキョロしながら、何かを探している様子だった。

 するとふと、真昼と日奈の方に男の視線が向かった。

 男は泣きそうな目で、なぜだが口角は上がっていた。

 日奈は男が一体誰なのか、すぐに分かった。

 男の正体、あれは日奈の父親である正義だった。

 正義と対峙した瞬間、真昼は明らかに怒っている様子だった。


「なんでこんなにもタイミングが悪いわけなの……。あんたらは……」


 真昼がそんな風に愚痴をこぼしていた。

 正義は日奈と真昼の元にゆっくりと近づく。それも狂気に満ちた笑顔を見せながら。

 日奈はすぐに怖気づき、顔を背けた。本能的に顔を合わせてはいけないと思ったからだ。


「や、やあ。日奈ちゃん。元気そうだね」

「え、ええ」


 日奈が父の言葉に答えていると、真昼が横から、


「こんな奴、話す価値なんてないよ」


 とさらに敵意をむき出しにしていた。

 正義は顎に手を当てて考えている風にすると、


「ひっどいな。元々、君は俺を手伝っていただろ? 今更、手のひら返しって。あ、因みにここの場所何で分かったか教えてあげようか?」

「何で分かったわけ? 私、教えてないんだけど……」

「まあ、真昼ちゃんは気づかなかったみたいだから教えてあげるよ。なんと真昼ちゃんのバッグの中にGPSを仕込んでいたのさ」

「は? そんなわけ……」


 真昼はガサゴソとバッグの中を探りそれらしきものを見つけた。

 

「嘘、なんで……。というか、いつ入れたの?」

「いつって、君が良く俺と何度もあっていただろ。そのうちの何回か入れるのに挑戦してみたけど、やっと成功して、追跡できたわけ。それに君について行けば、きっと日奈の元にたどり着くって思ったから。俺は賭けたんだよ。君が俺の娘に会うのを」

「チッ、汚いよ……。そのやり方……」

「大人をあまりなめるなよガキが。大人はいつだって汚い、そういうものさ」


 正義はそう言いながら、真昼を突き飛ばした。

 真昼は突き飛ばされた痛みで悶えていた。

 正義は日奈に近づき、手を掴んだ。


「さあ、邪魔者はいなくなった。日奈ちゃん。俺ともう一度一緒に暮らそう!」

「い、嫌だ! 離して」

「なんで離さなければいけないんだ?」 

「だって、あなたのことは、もう、赤の他人だから、お母様に近づくなって」

「お前はいつも、お母様、お母様だな。俺はお前の父親だぞ。言うことが聞けないのなら……」


 正義は日奈を殴ろうとした、そんな時だった。


「正義さん。もうその辺にしたらどうでしょうか」


 青年が一人声をかけた。

 そこにいたのは日奈の兄である夕月だった。

 正義は夕月の姿を捉えるとすぐに、


「よそ者は黙ってろ! 今は俺と日奈ちゃんとの家族会議だ。お前の出る幕はねえよ」

「出る幕がないってのは、正義さん。あなたの方だと思いますけど。それに日奈は僕の家族です。僕の家族に手を出すならそれなりの対処をしなければなりませんね」


 夕月の後ろからぞろぞろと黒服の男達が現れる。

 夕月が何か命令すると、黒服たちはすぐに正義を捕らえた。

 正義は大声を上げながら「離せ! この野郎」とジタバタしていた。

 そんな正義の姿を横目に夕月は日奈に近づいた。


「お兄様……」

「すまないね。少々遅れちゃって」

「別に遅れてなんか、ないですよ」

「うん。確かに傷一つなさそうだね。日奈、もうわかっているよね?」


 夕月のその質問、それは日奈がもう家に連れ戻されることを意味していたのだった。

 だから日奈は少し涙目で、それでも微笑みかけるように、


「分かりました。お兄様。あと、逃げちゃってごめんなさい……」

「別に良いさ。さあ、一緒に帰ろう」

「うん……」


 日奈は少しぎこちなく頷いた。

 夕月は真昼の方に近づいた。


「ありがとう。日奈を守ろうとしてくれて」

「別に夕月さんのためじゃ、ないですよ。私は私のためだけだったのですから」

「そう、だったのか? ところで君は、また家に来ないか? 昔みたいに」

「いいえ。お断りします」

「そうか。それは残念だ」


 真昼はどうやら夕月と顔馴染みだったらしい。

 それに真昼はどうやら昔、日奈の実家に来たことがあるかのような会話だった。

 ふと、ある情景がよみがえってくる。

 金髪で、白いワンピースを着た少女。麦畑に入り込んで、日奈に手招きしてきた少女。そんな少女を追いかける日奈。

 ああ、そういうことだったのか。

 日奈は小さい頃に真昼と会っていたようなことを、今更ながら思い出していた。

 日奈は真昼に近づいて、


「私には結局、捕まえられなかったね」


 それを聞いた真昼は一瞬驚いた様子で、


「それ、昔、日奈ちゃんと遊んだ時のこと……。そう、そうだよ。日奈ちゃんは、私を最後まで捕まえられなかったね」

「うん。でも、楽しかったよ」

「そう、それは良かった」


 そんな和やかに会話する二人の姿を見て、夕月は先に車へと乗りこんでいた。

 それから日奈は真昼に手を振って別れを告げると、夕月が乗った車へと乗りこんだ。

 車が発進し、去っていくところを真昼はただ手を振って見守っていた。

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