26話 最高のストライクを君に
真昼の誘いで日奈は一緒にボーリング場に入った。
このボウリング場は地下鉄東比恵駅から数十分歩いたところにあり、レストランだったり、ホームセンターなどが立ち並ぶ商業施設である。
時刻は9時近く。この時間帯では若い年齢層の客が多く、大学生、高校生がそれぞれボーリング、スケート、カラオケで楽しそうに過ごしていた。
日奈は高校生にすれ違う度に、真昼の後ろに隠れたりしてキョロキョロ見ていた。
そんな日奈を心配し、「私が手を握ってあげようか?」と真昼は聞く。
「いや、べ、別に、子供じゃ、ないです」
「でも、周りにいる人が、怖いんでしょ。だったら、私が手を握ってあげるからさ、ね!」
「で、でも」
真昼は躊躇する日奈の手を強引に握った。それから微笑んで見せた。
日奈は恥ずかしくなり、手を握られている間、顔を伏せ、真昼と目線を合わせないようにしていた。
二人はボーリング場の受付を済ませて、10番レーンへと向かった。
途中、ボーリング玉を吟味し、ちょうどいい重さのものを選んだ。
「私、こういうの結構自身があるの、見ててよ、日奈ちゃん。1投目からの最高のストライクを!」
真昼はボーリングが得意らしいセリフを吐いた。
それを証明するかのように一投目からストライクを出した。
「イエーイ!」と真昼は叫ぶと、日奈にハイタッチした。
日奈は愛想笑いしつつ、真昼のハイタッチに応じた。
続く日奈の一投目。
日奈は全身をぶるぶると震わせながら、「えい!」と声を漏らしながら、ボーリング玉を投げた。
ボーリング玉は最初こそ真ん中を通っていたがだんだん右に逸れていき、ボーリングピンを一本跳ねた。
日奈は少し残念そうにそのボーリング玉の行く先を眺めていた。
「あちゃー。ドンマイ!」
「べ、べつに今のは本気なんかじゃないので」
「本当? じゃあ、もしボーリングで私に勝った何か一個言うこと聞いてあげる。でも私が勝っちゃったら、日奈ちゃんは私の言うことなんでも聞く。これはどう?」
「本当ですか。なら私、本気出します」
やる気満々な日奈の2投目は何とスペアだった。
「やるじゃん」
「私、こういうゲームとか好きなので」
「本当にそうかな? じゃあ、次、私ね」
二投目の真昼はまたストライクを叩きだす。
そんな真昼を唖然としながら日奈は見ていた。
「えへん!」と真昼は鼻を鳴らした。
日奈は悔しそうにしながらも、3投目はストライクもスペアも取れず、緊張のあまりガターを出してしまった。
1ゲーム目の結果は真昼の圧勝で終えた。
「じゃあ、負けちゃった日奈ちゃんは私の言うこと聞いてもらいます」
真昼はそう言いながら、日奈に近づいてきた。
何をされるのだろうと日奈は緊張しながら真昼を見ていた。
真昼はどんどん近づき、日奈を押し倒した。
「ねえ、ここでキス、する?」
「え?」
日奈は真昼の提案に戸惑った。
「え、え……」
日奈はそのまま目を閉じた。
しかしそれから何も起きなかった。
日奈は目を見開くと、真昼はいたずらっぽく笑い、
「冗談だよ。ここじゃ、だめだね」
真昼はため息をつくと、日奈から離れた。
日奈は終始何をされるか分からない恐怖と期待で心臓が止まらないくらいドキドキしていた。
しばらくボーリングしていると真昼のスマホがアラームを鳴らした。
「あ、ごめん、ちょっと出るね」と真昼は少し離れた場所で電話し始めた。
日奈は水分補給をしつつ、真昼を待っている間は先ほど終わったばかりのボーリングのスコアをじっくり眺めていた。
やっぱり真昼さんは上手いなと日奈が思っている矢先だった。
真昼が急に声を上げて、
「ねえ! ちょっとどういうことなの!」
何かあったのだろうかと日奈は不思議そうに真昼の方を見た。
「だから、なんでそうなるわけ! 私がセッティングする約束だったわけでしょ! おじさん、私との約束が違うよ!」
おじさん? 一体誰と連絡をしているのだろうかと思うと、真昼は電話を切って、日奈の方に向かっていた。
真昼は少し焦った様子だった。
「真昼さん、何かあったのですか?」
「日奈ちゃん、逃げるよ!」
「え、まだ二回目が始まったばかりですよ? もうちょっといいじゃないですか?」
「そんな暇ないよ。奴が来たんだよ。逃げるよ」
「え、ちょっと……」
日奈は真昼に強引に引っ張られるまま、ボーリング場を出た。




