白銀の魔弾
広く薄暗い洞窟の中。
光源はうっすらと光る壁と、人魂のように空中へ浮かぶ火の玉。
そんな場所で、三人の男女が声を張り上げていた。
「四体来たわよ!二体は私が倒すから、残りは二人で倒して!」
銀色の長い髪を振り、黒い弓で綺麗な射形をつくる女性が叫ぶ。
「了解しました!右は任せてください!」
金髪ショートの女性は、二振りのナイフを構え、いつでも走り出せるように右足を引く。
「ふむ、ならば左はオレがやろう」
右手に大ぶりのナイフを持ち、悠々と自然体で歩き始める太った男。
ここは東京神田にあるダンジョン『黄泉平坂』。
初心者向けのダンジョンとして有名な場所だ。
成男は試験に合格した後、さっそくダンジョンに向かった。
それに一緒にいた由貴が参加し、学園の外で成男待っていた真白もプロモーションのためと言って同行したのだ。
「そこぉ!」
真白が続けざまに矢を放ち、人型モンスターの頭を射抜く。
「てりゃぁ!」
由貴は、助走をつけてモンスターの顔を殴った。
相手の態勢が崩れたのを見て、ナイフを逆手に持った反対の手でフックの軌道を描き、その首を狩る。
「御免」
成男はすれ違いざまに、目にも留まらぬスピードでモンスターの首を落とした。
倒されたモンスターたちは、すぐに光の粒子となり、空気中に霧散する。
「楽勝ー!」
由貴が無邪気に飛び跳ねて、戦闘の終わりを喜んでいた。
「まあ、ここら辺は敵じゃないわねぇ」
真白はひとつ息を吐き、言葉とは裏腹に油断せず辺りを見渡す。
「ふむ。だが、確かにここは戦場といえよう」
成男は、皮膚に確かな殺気を感じていた。
「それにしても、最初がゾンビ相手ってキツイよなー」
「ゾンビというより、亡者のたぐいねぇ」
「人が最も戦いやすいのは同じ人間。おそらくは戦闘経験を積ませたいのであろうな」
成男が顎をさすりながら考えを述べた。
「そうなのか?スライムとかネズミみたいな方が、倒すの簡単そうだけどな」
「いや、人間は動物を想定して訓練を積まぬ。プロの格闘家でさえ、鼠一匹に苦戦することもあるだろう」
手にしたゴツいナイフを、左胸につけた鞘へとしまう。
「ふーん、そういうもんか」
由貴は、腰につけたベルトへナイフを差し込み、切った感触を拭うように手をグーパーした。
「相手が小さいと、当てるのも大変よ」
後続がいないことを確認し終えた舞白が、弓を背中のフックに掛ける。
「でもマシロさん、スゴイっすね!完璧なヘッドショットでした!」
由貴は、超有名人の真白と会った時からテンションが上がっていた。
「真白は昔、戦場で『白銀の魔弾』と呼ばれておったからな。射撃で右に出る者などおらぬよ」
「ちょっ!やめてよぉ!これ、全世界に動画配信されてるんだからねぇ!」
真白が慌てたように、部屋を照らす青白い火の玉を見た。
「いくさば?!はくぎんのまだん!?なんかわかんねーっすけど、カッコイイっす!」
由貴が、キラキラした瞳で憧れの視線を真白に送る。
「その名で呼ばないで!サバゲーにハマってた時のあだ名なのよ……」
真白は顔を赤くして恥ずかしそうに首を振った。
「良い名ではないか。オレの二つ名より、よっぽどな」
「……なぁに?もしかして、『閃光のシュークリーム』のことかしら?」
真白がイジワルそうな顔をして、火の玉に向かい大声で告げる。
「……ぷっ!なにそれ!せんこうの……しゅーくりーむ?ひゃははは!マジウケるんですけど!」
「成男は、サバゲーでも白い服しか着ないからねぇ。土汚れで茶色くなった姿がシュークリームみたいだったのよ」
お腹を抱えて笑う由貴に、真白が由来を説明した。
「おい真白……この火の玉は撮影機能とマイクがついているのだよな……?」
「そうよ。これで、アセンダーとしてのアナタの二つ名は決まったわねぇ」
「クッ!計ったな!ようやく消えた忌み名だというのに……」
「先にバラしたのはアナタじゃないの」
ニヤニヤと笑う真白と、悔しそうな顔を見せる成男。
「ふー……おもしろかった!それにしても、マシロさんとおっさんって仲良いんですね?なんでですか?」
由貴が涙をぬぐいながら、二人の関係を不思議がる。
「ああ、オレの実家が道場をやっていてな。真白はそこの門下生だったのだ」
「なるほど!それであの時アキラさんは、おっさんが刀を使うとか言ってたんだ!マシロさんも剣道できるんすか?」
納得したように手を叩く由貴。
だが、真白はそれに答えず、なにかを悔いるように視線を逸らした。
「……武術全般を教える道場ゆえ、真白はウチで弓を習っておった」
代わりに成男がそれに答える。
「へー!あたしもそこに通ったら強くなれるか?」
「うむ、お嬢はスジが良いから、きっと強くなれるだろうよ」
「マジか!じゃあ今度、あたしを連れてってくれよ!」
「ふむ、ならば機会をつくるとしよう」
二人が話す間も、真白は身を縮めるように、自分の右腕を強く握り下を向いていた。
「……さて、どうやらまた敵が来たようだな」
成男が洞窟の先へ視線を向ける。
だが、そこにはまだ何も見えない。
「え?マジで?なんでおっさんは、そんなのわかるんだ?」
「勘……それに尽きるな」
「えー?それだけかよ!……でも、確かに来てる。マシロさん!またお願いします!」
薄暗い中で、ゆっくりと人の輪郭が見え始める。
「え、ええ……まかせて……」
真白が、気を取り直したように背中の弓を取り、深く息を吐いた。
「真白……戦場で、些事に気を取られるな」
成男が呟くように言って、ゆっくりと歩き始める。
「……些事じゃないから……気を取られてるのよ……」
真白は、矢をつがえながら独り言のように口にする。
そして、楽しそうに駆け出す由貴を見送り、心を静めていった。
「どんどん倒してランキング上げるぞー!」
「そうねぇ……今は、成男といられることを楽しみましょうか」
視線を前に向け、白饅頭のような男を視界に入れて、力強く弓を引いた。
「楽勝!楽勝!最後のデカいヤツも、マシロさんのおかげで余裕だったっすね!」
脱出用の扉を開けて、ダンジョンから戻ってきた三人。
「おかえりなさい、どうやら楽しめたようね」
それを出迎えたのは、ピンク色の髪をしたゴスロリ姿の少女。
この初級ダンジョンの管理人を務めるヒルコだった。
「この施設には大浴場があるわ。とりあえず一休みしたら、ご飯でも食べながら今後のことを話しましょうか」
指を差した先には、温泉マークの描かれた暖簾があった。
「確かに!おっさんは常に臭いもんな!しっかり洗って来いよ!」
失礼なことを平気で口にする若さ。
「ふむ。お嬢には、まだこの香気は早いようだな」
それを成男は平然と受け流す。
「そうねぇ、成男の匂いは慣れたら癖になるのよ」
「え……?マシロさんって、そんな趣味あるんすか……?」
ドン引きしながら少し離れる由貴を尻目に、真白は鼻を膨らましていた。
「確かにこの瘴気は、並の人間だと受けつけられないわね。それより、早く行きなさい」
ヒルコは、三人のやり取りを眺めながら、急かすようにシッシと手を払う。
「ショウキってなんすか?」
「呪いを含んだ空気みたいなものよ」
「えー!おっさん呪われてんのかよー!」
女性陣が赤い暖簾をくぐり、成男は青い暖簾へと向かっていった。
「……それにしても、あの瘴気は異常ね……どれほどの呪いをその身に宿しているのかしら?」
ヒルコの視線は、丸い後ろ姿を鋭く見つめていた。




