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『限界集落ポポロ村の猛獣使い〜常識人のハリセン一本で、暴走村長と神話級の問題児たちを黙らせる日常〜』  作者: 月神世一


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14/22

EP 14

現場監督・悠人の采配!コンプラ・ブレイカーで繋ぐ奇跡の連携

 ズゥゥゥゥゥゥゥン……ッッッ!!!!

 大地を軋ませる地響きと共に、全高三十メートルを超える鋼鉄の巨神が、国境の渓谷を踏み砕いて姿を現した。

 天界の違法マナ炉を心臓部に宿し、全身を超硬質アダマンタイト装甲で覆った殲滅兵器――『古代殲滅型大型魔導ゴーレム』。

 その胸部には、GodTubeの配信マークを模した禍々しい紫色の単眼レンズが怪しく回転し、全宇宙へとポポロ村の惨状を中継しようと不気味な光を放っていた。

「ゲハハハハッ! 見ろ、これぞ神様から賜った天罰の代行者よォッ!!」

 捕縛されていた山賊総隊長ボルドが、泥塗れの地面から狂ったように哄笑を上げる。

「その装甲はアダマンタイト! 生半可な大砲も魔術も一切通じん! ポポロ村の百姓ども、せいぜい神様のチャンネル登録者数百万人の前で、無様に踏み潰されてミンチになりなァッ!!」

「……チッ、悪趣味なヤラセ中継をしやがって」

 俺――村長公邸管理人兼自警団現場監督の佐藤悠人は、手にした『ルナミス新聞特製ハリセン』を軽く肩に打ち付けながら、冷ややかな視線で巨大な粗大ゴミを見上げた。

 周囲の自警団員たちを見渡す。

 マンミアは愛用のシールドパイルバンカー『アグニ』を構えているが、相手の質量差に馬脚をわずかに震わせている。

 イグニスは拳を握りしめているものの、直前の戦車過給で息が上がっており、フェイトは「うわぁ……あんなデカ物、斬ったら刃こぼれしそう……」と早くもサボり癖の逃走腰だ。

 そして――先ほどまでマッハ1で暴れ回っていたキャルルは、ハリセンで正気に戻された反動と満月の沈みかけによる脱力で、地面にペタリと座り込んで両耳をへにゃりと垂らしていた。

「うぅ……悠人くん……身体に力が入らないよぉ……。私、村長なのに……あんな怪獣、止められないよぉ……」

「泣くなキャルル。お前はさっき隣国の病院と軍隊をまとめて更地にしかけたんだから、十分すぎるほど暴れただろ」

 俺が苦笑いしながら頭を撫でてやると、背後の夜道から、ドタバタと複数の足音が駆け寄ってきた。

「悠人さぁぁぁん!! お夜食の匂いが消えたと思ったら、なんですのあの巨大な鉄屑はぁぁあ!?」

 みかん箱を小脇に抱え、薄汚れた小豆色ジャージ姿の極貧人魚姫リーザが全力疾走で滑り込んできた。

「ハ〜イみんな緊急生配信だよ〜☆ って、ちょ、何あれ!? あの胸のカメラ、GodTubeの違法海賊版プロトコルじゃん! 私のシマ(配信圏)で無断配信する気ぃ!?」

 純白の翼をパタパタさせ、魔導タブレットを構えた月収二億円の天使キュララが飛び込んでくる。

「あらあら……とても立派な金属の塊ですわね♡ あの装甲、世界樹の根っこで締め上げれば、綺麗な樹液が搾り取れるかしら?」

 おっとりと微笑む歩く天災ハイエルフ令嬢ルナ、そしてキセルを咥えた猫獣人ニャングルまでが息を切らして合流した。

「総員、役者は揃ったな」

 俺はエプロンの紐をキュッと締め直すと、現場の真ん中へと大股で踏み出した。

 前世で培った、泥沼の生放送トラブルをねじ伏せる『危機管理ディレクター』の血が、静かに、そして熱く滾り始める。

「全員、よく聞け! ただ突っ込んでもアダマンタイト装甲に跳ね返されて犬死にだ! だが、うちの現場には神話級の猛獣がこれだけ揃ってんだよ。――これより、佐藤悠人ディレクションによる『違法配信ゴーレム解体ショー』を開演する! 俺がキューを出す。全員、絵コンテ通りに動けッ!!」

「「「「了解ッッ!!!!」」」」

 頼もしい返事が夜空に響き渡る。

 ゴーレムが右腕の超巨大魔導破砕槌を振り上げ、ポポロ村の境界線へと叩き落とそうと唸りを上げた!

 タイミングは今だ!

「第一フェーズ――音響および通信ジャック! キュララ、リーザ、行けッ!!」

「オッケー任せて悠人☆ 天下のメガゴッドチューバー舐めんなぁぁあ!」

 キュララが指先をタブレットへ走らせ、超高速ブラインドタッチでハッキングコードを叩き込む!

「相手の配信ストリーム特定完了! チャンネル権限を強制オーバーライド! 全世界八千万人のリスナー、こっちの公式チャンネルへ全回線ジャック成功だよ〜ん♡」

 ゴーレムの胸部カメラの赤いランプが、キュララの意のままに点滅を開始した!

 敵のヤラセ虐殺中継は、この瞬間に「キュララTV公式・ポポロ村防衛特番」へと完全にハイジャックされたのだ!

「そしてステージは整いましたわ! 哀れな鉄屑ども、私の歌で魂ごと買い叩いてあげますわぁぁあッ!!」

 ドンッ! と地面に置かれたタローマートの見切り品みかん箱。

 その上に健康サンダルで飛び乗ったリーザは、トイレットペーパーの芯を巻き付けた拡声器マイクを口元へ構えた。

 瞳の奥に宿るは、聴衆の可処分時間と魂を吸い尽くす『強欲の怪物』としての絶対的カリスマ!

 ――本気の勝負曲『Love & Money』!

「♪朝に目覚ましが鳴ったわ! 私はまだ眠いわ〜! 扉を開ければ私が主人公〜! 今日も私の為に世界が動く! 愛も富も一つの物! ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ 全部まとめて私にちょうだぁぁぁい♡♡」

 ドォォォォォォォォンッッッ!!!!

 人魚姫の超常の美声と魔力が、大気を激しく震わせた。

 ただの応援歌ではない。聴く者の能力値を極限まで引き上げ、全ステータスを三百パーセント超強化する狂気の絶対支配バフ!

 自警団全員の肉体から、目も眩むような黄金のオーラが爆発的に噴き上がった。

「う、うおおおおっ!? 何だこの力は!? 全身の血液がマグマのように沸騰してきやがったぜぇぇえ!!」

 イグニスの褐色肌が真紅に染まり、額の竜角から猛烈な紅蓮の業火が噴き出す。

「第二フェーズ! 装甲破砕担当、イグニス! 外殻を剥がせッ!!」

「応よォォッ! 俺様の全力火力を喰らいなァッ!!」

 イグニスが地面を蹴り、巨人の膝元へと弾丸の如く肉薄した。

 両拳に圧縮されるのは、里を追われる原因となった制御不能の超高熱プラズマ――最大破壊奥義『イグニス・ブレイク』!

 だが、その眼球は完全に血走り、破壊衝動に呑まれていた。

「ヒャッハァァァ! ゴーレムごと、後ろの山も街道も村の畑も全部消し炭にしてやるぜぇぇえええッッ!!!!」

「させっかボケェッッ!!!!」

 突撃するイグニスの真横へ、風を切り裂いて飛び込んだのは俺だ。

 右手の手元にあった『ルナミス新聞特製ハリセン』を、全力のスナップでイグニスの後頭部へ振り下ろす!

『常識人のハリセン(コンプライアンス・ブレイカー)』!!

「――公共インフラおよび自然環境に対する過剰破壊だ! 環境基本法違反および過失激発物破裂未遂! 外殻装甲だけをピンポイントで溶かせッッ!!!!」

 ――パァァァァァァァァンッッッ!!!!

「あぎゃぶっ!?」

 痛烈な快音が炸裂した瞬間、ハリセンの概念制御打撃がイグニスの暴走マナを強制補正した!

 四方八方へ飛び散るはずだった余剰火炎が一瞬で収束し、レーザーメスのように研ぎ澄まされた極薄の超高熱プラズマブレードへと変貌する!

 ズッシャァァァァァァァッッッ!!!!

 イグニスの拳が、ゴーレムの胴体を掠めた。

 周囲の草木には一本の焦げ跡すら残さず、ゴーレムの胸部を覆っていた厚さ一メートルのアダマンタイト装甲板だけが、まるでバターのように美しく溶解し、ドロドロと剥がれ落ちた!

 露出したのは、剥き出しになった心臓部――禍々しく脈動する『天界違法マナ炉』である!

「やった! 装甲が剥がれたぞ!」

 マンミアがパイルバンカーを構えながら歓声を上げる。

 ゴーレムが装甲の喪失を感知し、露出したマナ炉から紫色の極大魔力砲をチャージし始めた。

 発射まで、あと三秒!

 直撃すれば、ポポロ村の半分が消滅する!

「最終フェーズ――トドメの急所一刀両断! フェイト、跳べッ!!」

「へへっ、任せな悠人! ここで決めて、俺が一発逆転の真の英雄になってやるぜぇぇえ!!」

 白銀のミスリルアーマーを光らせ、フェイトが大地を蹴り上げた。

 リーザのバフによって跳躍力は十倍!

 一瞬で三十メートルの頭上、ゴーレムの露出したマナ炉の正面へと躍り出る。

 両手には、月光を反射して輝く最高級のミスリル大剣。

 だが――この男の指先が、あろうことかポケットの中の金貨へと伸びてしまった!

「……いや、待てよ!? ここで普通に斬っても給料は変わらねぇ! どうせなら一発ド派手に決めてやるぜ!」

「おい馬鹿やめろ! 普通に斬れば勝てるって言っただろッ!!」

 俺の悲鳴のようなツッコミを置き去りにし、フェイトは親指でピィィィンッと金貨を夜空へ弾き上げた!

『ユニークスキル:コイントス』!!

「表で二倍! 裏で寝込み! 来いッ、俺のギャンブル魂ィィィイッ!!」

 青白い月光の下、回転しながら落下してくる金貨。

 くるくる、くるくる……ポスッ。

 フェイトの左手の甲に落ち、右手で押さえられる。

 チラリと隙間から見えたのは――禍々しいドクロの刻印(裏面)!

「……あ、やべ。裏だ……。悠人ぉ、急に関節痛と胃もたれが……今日のところは休職――」

 白銀の闘気がフッと消えかけ、フェイトの両目が白目を剥きかけた――その刹那だった。

「――寝かせるわけねぇだろがァァァァアッッッ!!!!」

 ドォォォォンッ!

 俺はマンミアの背中……ではなく、マンミアが構えたパイルバンカー『アグニ』のシールドの上を足場にして跳躍していた。

 空中でフェイトの頭上へと肉薄する!

 右手に握りしめた『ルナミス新聞特製ハリセン』を、手首の神速スナップで振り抜く!

 狙うは――フェイトの手の甲の上にある、裏返った金貨そのもの!

『常識人のハリセン(コンプライアンス・ブレイカー)』!!

「――重要局面でのギャンブル依存および職場放棄は重大な背任行為だ! 就業規則第十二条違反! コインよ――縦に立てェェェエエエッッ!!!!」

 ――パァァァァァァァァァァンッッッ!!!!

 夜空の大気を引き裂く、神速の快音が炸裂した!

 概念必中のハリセンが生み出した超高圧の風圧衝撃波が、フェイトの手の甲の金貨をミリ単位の精度で弾き上げた!

 回転の因果律が、ハリセンの常識の言霊によって強制的に書き換えられる!

 ピタッ……!!

 フェイトのグローブの上で静止した金貨は――。

 表でも裏でもなく、コインの縁のわずか一ミリの幅で、垂直に『縦立ち』していた!

 確率、万分の一。

 ――スキル奇跡発動:能力百倍神域モード確定!!!!

「「「「なっ……縦に立ったぁぁぁああああっっ!!??」」」」

 カッッッ!!!!

 天変地異の光が、フェイトの全身から解き放たれた。

 白銀の闘気が大気圏を突き抜けるほどの光柱となって夜空を焦がす。

 仮病の気配など一瞬で蒸発し、フェイトの筋力、反応速度、魔力、運気――すべてが百倍へと跳ね上がった!

「は、はは……! 身体が……身体が軽すぎる……! 世界が止まって見えるぜぇぇぇえええッッ!!」

 ゴーレムのマナ砲が発射される寸前、フェイトは笑いながらミスリル大剣を頭上へと振りかざした。

 ただの斬撃ではない。百倍に強化されたA級剣士の、神話をも両断する一撃――!

「――消し飛びなァッ!! 『ミリオン・コイントス・スラッシュ』ッッ!!!!」

 閃光が一瞬にして世界を真っ白に染め上げた。

 ズッバァァァァァァァァァァァンッッッ!!!!

 音すらなかった。

 次の瞬間、全高三十メートルの古代大型魔導ゴーレムは、露出したマナ炉とGodTube配信レンズごと、頭頂部から股下まで寸分の狂いもなく真っ二つに両断されていた。

 ドォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!

 二つに割れた巨大な鉄塊が、背後の荒野へと倒れ込み、轟音と共に爆散した。

 天界の違法マナ炉から噴き上がった紫色の爆炎が、夜空を眩しく照らし出し、やがて綺麗な火花となって散っていく。

 静寂が、ポポロ村の境界線に戻ってきた。

 ストン、と地面に着地したフェイトは、ミスリル大剣をシャキンと鞘に収め、息を整えながらガッツポーズを決めた。

「よっしゃあぁぁぁああっ!! 見たか悠人! 俺のコイン縦立ち! 俺がポポロ村を救った真のヒーローだぁぁあ!!」

「俺がハリセンの風圧邪道アシストで無理やり立ててやったおかげだろうがドアホッッ!!」

 ――パァンッ!

 調子に乗った金髪の頭へ、着地した俺のハリセンが小気味よく炸裂した。

「あぎゃっ!? 勝ったのに叩くの理不尽すぎるだろぉぉお!?」

「勤務中の博打未遂に対する減給処分だ! 反省しろ!」

 文句を言い合う俺たちの背後で、呆然と口を開けていた山賊総隊長ボルドが、白目を剥いてその場に卒倒した。

 さらに、天界のモニター越しにこの光景を見ていたであろう炎上神ワイズの悔し涙と絶叫が、通信のノイズを通して微かに夜風に乗って聞こえた気がした。

「わぁぁぁあっ! すごい、すごすぎるよ悠人くんっ!」

 駆け寄ってきたキャルルが、満面の笑みで俺の腰へぎゅっと抱きついてくる。

「みんなの力をあんな風に繋げて、あんなおっきな怪獣を一撃で倒しちゃうなんて……! 悠人くんは本当に世界一の現場監督だよっ!」

「はいはい、抱きつくな。……全員、怪我はないな?」

 見渡すと、イグニスは親指を立てて笑い、マンミアは誇らしげに胸を張り、リーザはみかん箱の上で「スパチャの雨ですわぁ!」と飛び跳ね、キュララは「同接五百万人新記録〜☆」と叫んでいる。

 誰も死なず、村の防空ドームも無傷。

 完全無欠の、防衛任務完了だった。

 東の地平線から、ゆっくりと朝焼けの柔らかな光が差し込み始めていた。

 長い、本当に長い満月の夜が明けていく。

 俺はボロボロになった新聞ハリセンを整え、大きく深呼吸をした。

 さて――大勝利のあとは、山のような書類仕事と、お腹を空かせた猛獣たちのための朝飯作りが待っている。

 常識人管理人の忙しい一日は、休む間もなく次の幕を開けようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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