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第18話4編:奇襲!刺客の爪

第18話4編:奇襲!刺客の爪


【ルシフェル視点】


『ル・ヒール』の眩いエメラルドグリーンの光がバルカンの上空を包み込み、街を覆っていた黒い毒気が瞬く間に霧散していくのが見えた。


「ノエル……やってくれたか!」


俺は胸を撫で下ろすと同時に、足元の『ラ・ラルド』の風の密度を高めた。 街の人々を襲う最悪の惨状は回避された。ノエルとシバリアが見事に自分たちの役割を果たしてくれたのだ。


「へっ! 流石はノエルだぜ! これで心置きなく目の前のヘビ野郎どもをぶちのめせるってなぁ!」


ブラッドが戦斧を肩の上で旋回させ、八重歯を見せてニヤリと笑う。


「油断するな、二人とも!」 リンが素足で石畳を踏み鳴らし、急迫した声を張り上げた。


「ガラハの顔を見ろ! 毒気を浄化されたというのに、少しも動けておらんぞ!」


「おや……気付かれてしまったかい?」


破壊された酒場の屋根の上で、部隊長ガラハが細い瞳をいっそう細め、蛇のような邪笑を深めていた。


「確かにあのハーフエルフの娘の『ル・ヒール』は見事だったよ。街の家畜どもを一括して浄化するほどの魔力量とはね。……だがね、私の本当の狙いは、街を毒で滅ぼすことそのものじゃないんだよ」


「……何だと!?」


俺が刀を構え直した瞬間、ガラハが頭上で両手の『邪爪』を激しく打ち鳴らした。


ガキィィィンッ!!


不快な金属音がバルカンの大通りに響き渡ると同時に、俺たちの足元――影が伸びる石畳の割れ目や壊れた建物の裏隙から、無数の黒い影が爆発するように躍り出てきた。


「なっ……奴ら、影の中に潜んでいたのか!?」


ブラッドが目を見張る。


「そうだ」ガラハが冷酷な声で囁く。


「街に毒を撒き散らしたのは、お前たちの注意を逸らし、戦力を二手に分断させるための倓(おとしかけ)に過ぎない。……我が『邪爪部隊』の真の主力精鋭二十名、とくと味わうがいい!」


「くっ……背後からも来るぞ!」


リンが素足で地を蹴り、後ろから迫る刺客の邪爪を紙一重の身体さばきでかわす。 しかし、現れた二十名の刺客たちは、先ほどまでの先鋒とはまるで気気が違っていた。全員が全身を漆黒の魔力で包み込み、手にした『邪爪』からは、空間すら腐食させる黒紫色の光が狂おしく吹き出している。


「死ねぇぇぇっ! 『邪爪乱舞』――ッ!!」


「「「オォォォォッ!!」」」


前後左右、さらには頭上からの完全な立体同時奇襲。 無数の黒紫の爪光が、密密な網の目のように俺たち三人へ向かって交錯した。


「『ラ・ルビ』――ッ!!」


ブラッドが戦斧を振るい、極限の高熱の炎幕を周囲に展開する。だが、敵の数はあまりにも多く、執拗な連撃は炎の壁すら強引に切り裂いて迫ってくる。


ガガガガガガガッ!!


「ぐあぁっ!?」


ブラッドの肩口と太腿に、黒い爪痕が走り、血飛沫が舞った。


「ブラッド!」


「くそっ……! 爪の腐蝕魔力が……傷口から叩き込まれてやがる……! 動くのが重ぇ……っ!」


「俺の後ろへ下がれ!」


俺は『ラ・ラルド』の摩擦ゼロの滑走でブラッドの前に滑り込み、沖田総司の絶対の踏み込みから三段突きを放って迫る刺客三人の中央を突き破った。


「斬――ッ!!」


一瞬で二人の刺客を斬り伏せる。 だが、斬り伏せると同時に、残る刺客たちが俺の刀身に向かって『邪爪』を直接叩きつけてきた。


ガキィィンッ!!


「っ……!? 刀の刃が……腐食していく……!?」


邪爪の魔力帯が俺の刀に触れた瞬間、刃の表面が嫌な音を立てて黒く変色し、強度が削り取られていくのが手に取るように分かった。リンの言った通りだ。奴らの『邪爪』は、刀そのものの物質構造を崩壊させる。


「ルシフェル! 直接刃で受けるな!」


リンが回し蹴りで刺客の一人を吹き飛ばしながら叫ぶ。


「炎と風の完全同調でしか邪爪の魔力帯は消せん! 単体の刀で受ければ、そのまま刀が砕かれるぞ!」


「分かっている……だが、間合いを詰める隙がない……!」


二十名の主力精鋭による、一切の途切れがない執拗な連続奇襲。 俺とブラッド、そして拳が使えないリンの三人は、路地の中央で完全に包囲され、防戦一方へと追い詰められていった。


そして――俺たちの肉体的な疲労と焦燥がピークに達したその瞬間を待っていたかのように、俺の頭蓋の奥で、あの不吉な歌声が爆発的な音量で響き渡った。


〜♪ 〜♪♪ 道化がいないなら 人間を 酒がないなら 天使の血を 女がいないなら 女神を 芸が面白くないのならば 捨て去ってしまえばいい 酒が美味くないのならば 全てを壊してしまえばいい 〜♪ 〜♪♪


(ぐぁぁぁぁぁっ……!? 頭が……痛みが……っ!)


「ルシフェル!?」


ブラッドが叫ぶ。


左腕を縛り上げている頑丈な皮帯が、内側からの異様な圧力によってメリメリと音を立てて千切れかけた。 皮帯の隙間から、ドクドクと湧き出す漆黒の魔気。 街に満ちる邪悪な気気、仲間が傷つく焦り、そして敵の殺気に反応し、俺の中に眠る「魔王の半身」が過去最大級の狂乱を起こそうとしていた。


脳裏を覆い尽くす、激しい絶望の旋律。


〜♪ 〜♪♪ 高潔な女神は その光を奪い去ってしまえばいい 踊れ 騒げ 歌え 狂え。 狂気に身を任せれば やがて 静かに 消エテユク… 〜♪ 〜♪♪


視界の左半分が完全に漆黒に染まる。 足元の『ラ・ラルド』の風が途切れ、沖田総司の絶対の踏み込みが、激しい強張りによって完全に停止してしまった。


(包め……風で……包むんだ……っ! 俺の風に……っ!)


頭の中で必死に唱える。 だが、今回の歌の威力と影の侵食は、今までとは比べものにならないほど強烈だった。 激痛で右膝が石畳に叩きつけられ、刀を支えにしなければ立っていられないほどの衝撃が全身を襲う。


「ハハハハハッ! どうしたね、黒髪の剣士!」


屋上から滑るように舞い降りてきたガラハが、漆黒に染まりかける俺の顔面へ向けて、二本の巨大な『邪爪』を振りかざした。


「己の中の魔王の影に喰われ、身体も動かんか! その左腕、根元から引き千切ってサルガタナス様への献上品として差し出してくれるわぁぁっ!!」


「ルシフェル―――ッ!!」


ブラッドとリンの悲痛な叫びが、黒い毒気が晴れたバルカンの大通りにむなしく響き渡った。


迫り来るガラハの爪。暴走しかける左腕の影。脳裏を狂わせる悪魔の歌。 ルシフェル、ブラッド、リンの三人は、絶体絶命の極限の窮地へと叩き落とされていた。


第18話4編はここで終わりです!














































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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