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第18話3編:ノエルの決意


第18話3編:ノエルの決意


【ノエル視点】


不吉な黒い霧が重苦しく渦巻く大通りの広場へと足を踏み入れた瞬間、私の目の前に広がっていたのは、まさに言葉を失うほど凄惨な地獄絵図でした。


「う……あぁぁっ……! 助け……て……」


「息が……胸が、焼けるように熱い……っ! 助けてくれ……!」


冷たい石畳の上には、武闘都市バルカンの強靭な闘士たちや、幼い子どもを必死に抱きかかえたお母さん、お年寄りたちが無数に倒れ伏していました。彼らの肌には、あの残忍な『邪爪』の黒い爪痕の紋様が蠢くように浮かび上がり、生きながらにして肉体と魔力回路を激しく侵食されています。


「ひどい……なんて酷いことを……っ!」


私は手にした治癒の杖を胸の前で強く抱きしめ、溢れ出る涙を拭うことも忘れてその惨状を見つめていました。このバルカンで出会った人々の笑顔や、闘技場の熱気が、たった一瞬で邪悪な毒気によって奪われてしまったのです。


「ノエル! 隙を見せるな!」


ドガァァァンッ!!


目の前に立ちふさがったのは、シバリアさんの重厚な大盾でした。 広場の建物の影から死角を突くように飛び出してきた三人の黒装束の刺客が放った『邪爪』の腐蝕斬撃を、シバリアさんは自慢の大盾で正面から叩き伏せるように受け止めてくださったのです。


「くっ……! 腐蝕の魔力か! だが、この盾を破れると思うなよ!」


「ぐあっ!? なんだ、この頑丈な甲冑と大盾は……!?」


シバリアさんが全身の力と気合を込め、大盾を横一閃に大きく振り払いました。その重厚な衝撃波によって、三人の刺客は悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、路地裏の石壁へと激しくぶつかって転がりました。


「ノエル!」 シバリアさんが振り返り、私に頼もしい甲冑の背中を見せてくれました。その瞳には、騎士としての熱い誇りと揺るぎない決意がみなぎっています。


「俺がここに鉄壁の陣を敷く! 敵の刺客どもは一歩たりともお前には近づけん! お前は思う存分、その清らかな力でこの惨状を救え!」


「シバリアさん……!」


私は深く、深く息を吸い込みました。 胸の奥に広がっていた不安と恐怖は、シバリアさんの背中と、地下酒場で言った自分の言葉を思い出したことで完全に消え去りました。


ルシフェルさんは今も、ご自分の左腕に眠る恐怖の『魔王の半身』の影と戦いながら、ブラッドくんやリンさんと一緒にガラハたち主力を食い止めてくださっています。 私だけが、恐怖に怯えて逃げ出すわけにはいきません。


「私に……任せてください!!」


私は凛とした声を張り上げ、両手で固く治癒の杖を天へと高く掲げました。


「ルシフェルさんやみんなが命がけで繋いでくれたこの命……! バルカンのみなさんを、一人だって死なせはしません!」


「ぬかせ小娘が! たかが一人の術士に何ができる――ッ!?」


路地裏の影から、さらに追加の刺客たちが邪爪を構えて飛び出してきます。


「行かせんと言ったはずだッ! 『鉄壁の怒号』――っ!!」


シバリアさんが大剣を石畳に突き立て、強烈な威圧感とともに刺客たちの進路を完全に遮断してくれました。シバリアさんの大盾が放つ堅牢な気配が、私を護る絶対の領域を作り出しています。


「シバリアさん、ありがとうございます……! 行きます……っ!」


私は静かに瞳を閉じ、ハーフエルフとして生まれ持った全魔力を、体内の奥底から一気に汲み上げました。 脳裏に思い浮かべるのは、いつも優しく守ってくれるルシフェルさんの凛とした横顔、生意気だけど本当は誰より優しいブラッドくんの笑顔、頼もしいシバリアさん、そして誇りを取り戻したリンさんの瞳。


「清らかなる癒やしの風よ……傷つき苦しむ人々の生命(いのち)を救い賜え……!」


私の一筋の叫びとともに、これまで旅の途中で何度もルシフェルさんたちを癒やしてきたあの最下位回復魔法を、全魔力を注ぎ込んで極限の範囲へと昇華させます!


「『ル・ヒール』―――――ッ!!」


言葉が解き放たれた瞬間、私の掲げた杖の先から、目も眩むような澄み切ったエメラルドグリーンの光の波動が、爆発的に解き放たれました!


シュワァァァァァァッ……!!


それは、単なる回復の光ではありませんでした。 広場を中心に、武闘都市バルカン全体へと円状に広がっていく巨大な光の旋風。 『ル・ヒール』の温かな光の粒子が、大気を覆っていた禍々しい「黒い霧」と衝突した瞬間、シュシュと嫌な音を立てて毒気を綺麗さっぱり浄化し、空へと霧散させていったのです!


「な……なにぃぃぃっ!?」


「黒い霧が……空の毒気が消えていく……!?」


路地裏から私を狙っていた邪爪の刺客たちが、驚愕の声を上げて目を見開きました。彼らが撒き散らしていた腐蝕の魔気が、私の光に触れただけで次々と中和され、霧散していくのです。


光の粒子は、石畳に倒れ伏していた人々の上にも、優しく舞い降りました。 彼らの皮膚を苛んでいた不吉な「黒い爪痕」の紋様が、私の『ル・ヒール』の清らかな粒子に触れた瞬間、ジワジワと消え去り、荒れていた呼吸がみるみるうちに穏やかさを取り戻していきます。


「う……あ……? 息が……できる……!?」


「胸の痛みが……消えた……? 助かったのか……俺たちは……!?」


「おかあさん……っ! おかあさん、痛くないよ……!」


「ああ……! ああ、よかった……っ! 神様……っ!」


倒れていた闘士や住民たちが、次々と目を覚まし、信じられない様子で自分の身体を見つめ、立ち上がり始めました。親が子を抱きしめ、闘士たちが互いの無事を確かめ合って涙を流しています。


「す……すげぇ……! あのハーフエルフのネエちゃん、街全体の毒気を一瞬で消し去りやがった……!」


「神官様だ……! 本物の聖女様だぁぁぁっ!!」


人々から、地鳴りのような歓声と感謝の叫びが湧き上がります。


「ハァ……ハァ……ハァ……っ!」


私はその場にガクリと膝をつきそうになりました。 一度に街一つを包み込むほどの超広範囲へ『ル・ヒール』を放ったのは生まれて初めてのことです。全身の魔力が一気に抜け落ち、強烈な目眩が視界をグラグラと揺らしました。手に持った杖すら、重く感じられるほどでした。


「ノエル!」


シバリアさんが即座に駆け寄り、甲冑の手で私の身体を優しく支えてくれました。


「よくやった、ノエル! 見事だ! 街の毒気は完全に消え去り、人々は救われたぞ!」


「シバリアさん……よかったです……ふふ……街のみなさんが、助かって……」


私が弱々しく微笑むと、シバリアさんは胸を熱く湿らせながら髭を揺らし、それから直ちに周囲の闘士たちに向かって重々しい咆哮を上げました。


「バルカンの闘士ども、聞こえるか! この乙女は全魔力を賭して、お前たちの命を救った! 命ある者は怪我人を安全な地下街へ避難させろ! そして動ける者は、この街を脅かす魔王軍の残党を追い払うのだ!」


「「「おう!! 聖女様を死んでも守るぞぁぁぁっ!!」」」


私の奇跡の治療を目撃したバルカンの闘士たちが、失われていた闘志を爆発させ、一斉に動き出しました。残った刺客たちに向かって拳や武器を構えて立ち向かい、私を守るように強固な人垣が瞬く間に作られていきます。避難の手順も、闘士たちの誘導によって迅速に開始されました。


「……さて」


シバリアさんは大剣を鞘からゆっくりと引き抜き、街の中央……ルシフェルたちが今なお死闘を繰り広げている大通りへと視線を向けました。その背中からは、圧倒的な戦意が溢れ出ています。


「ノエルの安全と街の避難は確保された。……ノエル、少し休んでいられるか?」


「はい……! もう大丈夫です、シバリアさん!」


私は倒れそうになる身体を気合いで支え、力強く頷きました。


「ルシフェルさん、ブラッドくん、リン殿が待っている……! 今すぐ助太刀に行くぞ!!」


「はいっ!!」


バルカンの街に希望の光を取り戻した私とシバリアさん。 二人の固い絆と諦めない決意が、迫り来る闇を打ち破るための大きな旋風となって、ルシフェルさんたちの待つ決戦の地へと向かって駆け出していくのでした。


第18話3編はここで終わりです!







































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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