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第17話4編:受け継がれる極意と炎風の特訓

第17話4編:受け継がれる極意と炎風の特訓


【ルシフェル視点】


朝日が昇り、荒地の赤土が黄金色に染まり始めていた。


冷たい早朝の空気が残る中、俺とブラッドは十メートルほど離れて向き合っていた。 俺たちの間には、リンが一本の線を描くように地面へ走らせた枯れ枝の傷痕がある。


「いいか、ルシフェル! ブラッド!」


岩の上に腰掛けたリンが、包帯の巻かれた右腕を大きく掲げ、二人に向かって声を張り上げた。その隣では、シバリアが大盾を地面に突き立てて周囲を警戒し、ノエルがいつでも回復魔法を使えるよう杖を胸に抱いて見守っている。


「サルガタナスの『邪爪』を熱分解・不活性化させるための『炎風の合体技』……その要は、ブラッドの『ラ・ルビ』の超高熱と、ルシフェルの『ラ・ラルド』の超高速滑走の完全同調だ! 一瞬のズレも、密度のムラも許されんぞ!」


「へっ、分かってるっての!」


ブラッドが赤銅色の戦斧を両手で固く握り締め、脚を大きく広げた。 その瞳には、いつになく真剣な、炎のような情熱が宿っている。


「俺の最下位炎魔法『ラ・ルビ』は、ただ火の玉を飛ばすだけじゃねえ。この戦斧の刃に極限まで魔力を圧縮し、一点に超高熱を集中させる! ルシフェル、お前が風で空間を削り取った瞬間に、この高熱の刃を叩き込んでやるぜ!」


「頼むぞ、ブラッド」


俺は刀の柄に右手を添え、低く息を吐き出した。 先ほどリンから教わった極意――『影を恐れず、風で包み込む』感覚を全身の細胞に染み込ませるように意識を集中させる。


「よし……特訓開始だ! 来いッ!」


リンの掛け声が荒野に響いた瞬間、俺とブラッドは同時に地を踏み鳴らした。


「『ラ・ルビ』――ッ!!」


ブラッドの咆哮とともに、赤銅色の戦斧の刃が目も眩むような真紅の灼熱に染まる。最下位炎魔法とは思えないほどに凝縮された高熱の魔力が、空気そのものを歪め、立ち上る陽炎となって周囲の砂を焼き焦がしていく。


「行くぞ……『ラ・ラルド』――ッ!!」


俺も足元に風魔法の澄んだ粒子を巡らせた。 沖田総司の絶対の踏み込み。摩擦をゼロにした滑走が、ブラッドの炎の軌道へ向けて一直線に空間を切り裂く。


だが――その踏み込みの渦中、俺の頭蓋の奥で、恐れていたあの不吉な旋律が跳ね上がった。


〜♪ 〜♪♪ 紅い月が笑う頃 楽しい宴を始めましょ。 狂った宴を始めましょ。 〜♪ 〜♪♪


(っ……! また……歌が……っ!)


左腕の皮帯の裏側から、ドクドクと不気味な黒い魔気が溢れ出す。 ブラッドの放つ圧倒的な高熱の炎に反応し、俺の中に眠る「魔王の半身」が危険を察知して暴れ出そうとしたのだ。激痛が全身の神経を駆け抜け、視界の左半分が漆黒の濁りで塗り潰されかける。


(うあぁぁぁっ……! 合わせろ……風を……滑走を……っ!)


俺は力任せに歯を喰い千切り、左腕の影を力で押し戻そうとしてしまった。 その瞬間の強張りによって、足元の『ラ・ラルド』の滑走性能が一瞬だけ途切れ、風のベクトルが大きく乱れたのだ。


「あっ……!? ルシフェル、軌道がズレてるぞ!?」


ブラッドが驚愕の声を上げるが、すでに振り下ろしかけた戦斧の勢いは止まらない。


超高熱の炎弾と、乱れた風の衝撃波が空間で衝突し、


爆ガァァァァァンッ!!


「ぐあぁっ!?」 「きゃあぁっ!?」


不完全な魔力の不協和音が炸裂し、凄まじい爆風と熱波が荒野を吹き荒れた。 俺とブラッドは互いに逆方向へと吹き飛ばされ、砂煙を上げながら赤土の上を激しく転がった。


「ハァ……ハァ……ハァ……っ!」


俺は刀を地面に突き立て、膝をついて激しく吐血した。 左腕の皮帯から滲み出た黒い霧が、煙のように空気中に漂っている。


「ルシフェルさん!!」 ノエルが悲鳴を上げながら駆け寄り、必死に光の杖をかざした。 「『ラ・ヒール』――ッ! ルシフェルさん、大丈夫ですか!?」


柔らかな緑色の光が俺の全身を包み込み、爆風の傷を癒やしていく。


「てめぇ……ルシフェル!!」


砂煙を振り払いながら立ち上がったブラッドが、肩を怒らせて歩み寄ってきた。赤銅色の瞳を怒りで燃え上がらせ、俺の胸倉を掴み上げる。


「何やってんだよ!! あと一歩で炎と風が噛み合うところだったろ!? なんで途中で急に身体を強張らせて、風を途切れさせやがったんだよ!!」


「すまない……ブラッド……」 俺は力なく首を振った。 「左腕の影が……あの不吉な歌が脳裏で響いて……咄嗟に影を抑え込もうと力んでしまったんだ……」


「だから! オッサンの話を聞いてなかったのかよ!?」


ブラッドの怒号が、荒野に激しく木霊した。


「影を抑え込もうとするから暴れるんだろうが! お前が影に怯えて力んでたら、俺の『ラ・ルビ』の炎だってお前に燃え移っちまうんだよ! 俺を信じて、自分の風を信じろよッ!!」


ブラッドの叫びは、怒りではなく、俺を心から案じる悲痛な叫びだった。


「そこまでだ、二人とも」


重厚な大足音とともに、リンとシバリアが歩み寄ってきた。 リンは倒れた俺を見下ろし、腕を組みながら静かに言葉をかけた。


「ルシフェル。ブラッドの言う通りだぞ」


「リン……」


「お前はまだ、どこかで『影の歌』を恐れている。脳裏で歌が鳴り響いた瞬間、無意識に全身の筋肉を硬直させ、風の粒子を散らしてしまっているんだ」


リンは素足で地面の砂を軽く蹴り上げた。


「思い出せ。影を風で『包む』んだ。あの悪魔の歌すらも、お前の風の滑走を加速させる『伴奏』にしてしまえばいい。影の魔気を排除するのではなく、己の風の領域の中に引き込み、流すようにブラッドの炎へと同調させるんだ」


「影の歌を……風の滑走の……伴奏に……?」


俺は立ち上がり、己の左手を見つめた。 皮帯の裏側で、不気味な脈動は今も続いている。


♪〜バランスが保たれていないと 全て クズレル……〜♪


脳裏を掠める不吉な歌詞。 いつもなら拒絶し、恐れる旋律。だが、リンの言った通り、この歌も、この激痛も、この左腕に宿る『魔王の半身』の影も……すべて俺自身の一部なのだ。


(恐れるな……。拒絶するな……。俺の風になれ……!)


俺は深く呼吸を整え、両足を肩幅に広げた。


「ブラッド……もう一度だ」


俺の眼光を見たブラッドは、掴んでいた胸倉をパッと離し、ニヤリと力強い八重歯を見せた。


「へっ……最初からそのツラをしてやがれってんだ! 行くぞ、ルシフェル!」


「「『ラ・ルビ』!! 『ラ・ラルド』!!」」


二人の詠唱が同時に重なる。


ブラッドの戦斧が限界を超えた最高熱の真紅に染まり、俺の足元には最下位風魔法の澄んだ粒子が湧き上がる。


そして――俺の頭蓋の奥で、再び歌声が狂おしく跳ね上がった。


〜♪ 〜♪♪ 踊れ 騒げ 歌え 狂え。 狂気に身を任せれば やがて 静かに 消エテユク… 〜♪ 〜♪♪


(消えるのは……お前たちの不吉な呪いの方だ!!)


俺は叫んだ。 溢れ出そうになる黒い影の魔気を、力で押し戻さない。自分の『ラ・ラルド』の澄んだ風でふんわりと包み込み、足元の滑走の推進力へと強引に流し込んでいく!


シュゥゥゥゥッ……!


不気味な漆黒の霧が、俺の足元で風の粒子と溶け合い、見事な真黒と透明の螺旋を描いて渦を巻いた。 沖田総司の絶対の踏み込み。摩擦をゼロにした滑走が、今まで以上の圧倒的な速度でブラッドの炎の軌道へと滑り込む!


「これだ……!! 来い、ルシフェルッ!!」


ブラッドの振り下ろす高熱の刃と、俺の風で包まれた刃が、空間のただ一点で寸分違わず重なり合った。


ゴォォォォォォォッ―――!!


爆発ではない。 高熱の炎と超高速の真空風圧が完全に密密に噛み合い、互いの魔力を何倍にも増幅させながら、前方三十メートルにわたる巨大な岩山を一瞬で「蒸発」させたのだ!


断面は綺麗な鏡のように滑らかに切り裂かれ、熱風が荒野を吹き抜けていく。


「な……なに……ッ!?」 シバリアが目を見張り、あまりの威力に大盾を構えて絶句した。


「すごいです……! 岩山が一瞬で消えてしまいました……!」 ノエルが口元を両手で覆い、歓喜の声を上げる。


「ハハハッ! 見事だ! 完璧だぞ、二人とも!!」 リンが快哉を叫び、両手を強く打ち鳴らした。


「ハァ……ハァ……ハァ……っ!」


俺とブラッドは、熱気を孕んだ風の中で互いに顔を見合わせ、言葉もなく拳を強く突き出し合った。


『影を風で包み込む』――。 ついに俺たちの合体技は、サルガタナスの『邪爪』を完全に打ち破る『絶対の刃』として、ここに再構築されたのだった。


第17話4編はここで終わりです!

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