第12話:絆の芽生えと仮の協定 第4編:街の復興と宴
第12話:絆の芽生えと仮の協定
第4編:街の復興と宴
溶岩獣の群れが退治され、激しい熱風と煙が治まった火山街グラン。
一夜が明け、街には静かだが力強い復興の活気が戻りつつあった。崩れた防壁の補修や民家の瓦礫撤去作業が手際よく進められ、至る所で作業に励む住人たちの威勢の良い声が響き渡っている。
「いやあ、本当に助かったよ! お前さんたちがいてくれなきゃ、このグランは溶岩の底に沈むところだった!」
街の広場では、頑丈な革の胸当てを着けたドワーフの鍛冶職人が、大きな髭を揺らしながら俺の手を両手で固く握りしめてきた。
「俺たちの力だけじゃないさ。街の警備隊や住人のみんなが落ち着いて避難してくれたからだ」
俺がそう答えると、周囲に集まっていた住民たちから「謙遜するなよ!」「勇者様方のおかげだ!」と温かな大歓声と拍手が巻き起こった。
広場の中心には、救援に感謝する住民たちが持ち寄った大きな木製の樽や、焼きたての肉料理、地元の名物である香辛料の効いた野菜スープなどが所狭しと並べられていた。ささやかではあるが、危機を乗り越えたことを祝う街を挙げた感謝の宴が始まろうとしていたのだ。
「さあさあ、遠慮せずに食ってくれ! 火山街特製の焼き肉だぞ!」
「ノエルちゃん、こっちの甘い木の実のジュースも飲んでおくれ!」
「ありがとうございます! すごく美味しそうです!」
ノエルは住民たちに囲まれ、可愛らしい笑顔を振り撒きながら感謝の言葉を受け取っていた。シバリアもまた、大きな肉塊を豪快に頬張り、ジョッキを掲げてドワーフの男たちと笑い合っている。
「ははは! この肉の焼き加減、見事なものだ! 騎士団の陣中食とは比べものにならん!」
仲間たちが街の人々と打ち解ける中、俺の視線は広場の端――大きな広葉樹の陰に一人でぽつんと立っている赤髪の少年に向けられた。
ブラッドだった。
彼は両腕を組み、不機嫌そうな顔で広場の喧騒を眺めていた。背中の小さな悪魔の翼を小さくパタパタと揺らし、近づいてくる住人たちを鋭い眼光で牽制している。
「おい、ブラッド。なんでそんな遠くにいるんだ? こっちに来て一緒に食おうぜ」
俺が手に温かいスープの入った木製コップを持って歩み寄ると、ブラッドはビクッと肩を跳ねさせ、速攻でそっぽを向いた。
「ハッ! 誰がそんな暑苦しい集まりに参加するかよ! 俺様は悪魔だぞ? 人間どもとヘラヘラ酒なんか飲めるかよ!」
ブラッドは悪態をついたが、その鼻先がクンクンと小さく動いているのを俺は見逃さなかった。彼の腹の底から、グ〜ッと小さなお腹の虫が鳴る音が聞こえてくる。
「……腹、減ってんだろ?」
「なっ……鳴ってねえよ! 鳴るわけねえだろ! 悪魔の胃袋を舐めるなッ!」
真っ赤な顔で叫ぶブラッドに、俺は苦笑しながらスープの入ったコップと、特大の肉串を差し出した。
「ほら、冷めないうちに食えよ。今回の戦闘で一番魔力を使ったのはお前だ。エネルギーを補給しておかないと、サルガタナスを倒す前に倒れちまうぞ」
「う……ぐぬぬ……」
ブラッドは差し出された肉串と俺の顔を交互に見つめ、激しい葛藤を浮かべた。断りたいプライドと、強烈な空腹感。数秒の抗争の後、彼は「チッ……! お前がそこまで言うなら、特別に食ってやるよ!」と捨て台詞を吐き、肉串を奪うようにひったくった。
そして、肉串に勢いよくかぶりついた。
「――っ!?」
ブラッドの真紅の瞳が、驚愕で大きく見開かれた。
ジューシーな肉汁と絶妙な香辛料の風味が口いっぱいに広がり、疲れ切った体に染み渡っていく。ブラッドは一口噛み締めるたびに表情を劇的に変化させ、文字通り目にも止まらぬ速さで肉串を平らげてしまった。
「う……うめぇ……! なんだこれ、めちゃくちゃ美味いじゃねえか……!」
「だろ? 火山街の名物らしい」
俺がスープを渡すと、ブラッドはもはや強がる余裕もなく、夢中になってスープを飲み干した。口の周りをスープで汚しながら「ふはぁ……!」と満足そうな吐息を漏らす。
「どうだ、ブラッド? 美味しいでしょう?」
いつの間にか後ろに立ち、救急箱を抱えたノエルが優しく微笑みかけていた。シバリアもジョッキを手に歩み寄ってくる。
「ふむ、悪魔の少年も満足したようだな! 腹が減っては戦はできんと言うからな!」
「ゴ、ゴツい騎士……! 見てたのかよ……!」
ブラッドは慌てて口の周りを腕で拭い、再び顔を真っ赤にした。
「勘違いすんじゃねえぞ! たまたま腹が減ってたから食ってやっただけだ! 人間の料理に屈したわけじゃねえからな!」
「はいはい、分かっていますよ」
ノエルがクスクスと笑うと、ブラッドは恥ずかしそうに下を向き、ぷいっと横を向いた。
だが、その表情には以前のような刺々しさは微塵もなく、頬を緩ませた小さな笑みがこぼれていた。慣れない温かな空気と、仲間たちや街の人々から向けられる感謝の眼差し。生まれて初めて味わう「誰かと共に過ごす温もり」に、彼の頑なな心は確かに解きほぐされていたのだった。




