『クレイジーワールド』 第1話 覚醒前 (第1編)
『クレイジーワールド』
第1話 別れ
♪〜♪♪〜…〜
僕は君。
君は僕。
光があるなら、闇もある。
闇があるなら、光もある。
どちらかが欠ければ、すべては――クズレル。
♪〜♪♪〜‥~
紅い月が笑うころ、楽しい宴を始めましょう。
狂った宴を始めましょう。
道化がいないなら、人間を。
酒がないなら、天使の血を。
女がいないなら、女神を。
芸がつまらないなら、捨ててしまえばいい。
酒がまずいなら、壊してしまえばいい。
高潔な女神なら、その光を奪ってしまえばいい。
踊れ。
騒げ。
歌え。
狂え。
狂気に身を任せれば、やがて静かに――消エテユク。
♪〜♪♪〜‥~ ♪〜♪♪〜‥~
「うおっ!?」
息を切らしながら、ルシフェルはベッドの上で跳ね起きた。
「はぁ……はぁ……」
嫌な夢だった。
胸の奥に、べったりと不快感だけが残っている。
「……っ」
次の瞬間、強烈な吐き気が込み上げた。立ち上がる間もない。
「う、えっ……げほっ、げほっ……!」
堪えきれず、ベッドの上に吐いてしまう。喉が焼けるように痛い。吐き気は収まったのに、気分の悪さだけがいつまでも身体にへばりついていた。
「最悪だ……不気味な夢だったな……。ていうか、これどうしよう……」
汚れたシーツを見下ろして、力なくつぶやく。
そのときだった。
外が妙に騒がしいことに気づいた。
「……ん? 何かの祭り、あったっけ……」
まだ重い頭のまま、窓へ向かう。
そして外を見た瞬間、ルシフェルは息を呑んだ。
村が燃えていた。
赤い炎。
木がはぜる音。
肉の焦げる臭い。
あちこちから上がる悲鳴。
頬を伝うこれは、汗なのか。それとも――
脳裏に浮かんだのは、たった一人の顔だった。
「リコリス!!」
ルシフェルは家を飛び出した。
* * *
村は、ほとんどすべて火に包まれていた。
だが、リコリスの家だけは違った。
燃えていない。
そのかわり、扉には大きな穴が開いていた。まるで蹴り破られたように。
「リコリスッ!」
嫌な予感が、心臓を鷲掴みにする。
ルシフェルは壊れた扉を押し開け、家の中へ駆け込んだ。
「ル……ルシィ……助けて……」
声がした。
リビングの床に、リコリスが座り込んでいた。腰が抜けているのか、立てないらしい。その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「ちっ……邪魔が入りやがったか」
低い声に、ルシフェルは顔を上げる。
リコリスの前に、一人の男が立っていた。
深紅の髪。
金色の瞳。
それだけで、人間ではないとわかるほどの異様な気配をまとっている。
「……誰だ……?」
「ククッ……気になるか?」
男は、あからさまに見下した目でルシフェルを見た。そして、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「ルシィ、逃げてよっ!」
リコリスが叫ぶ。
茶色の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
けれど、ルシフェルは逃げなかった。
いや、逃げられなかった。
恐怖で身体が凍りついていた。
本能が叫んでいる。逃げろ、と。
それでも、たとえ動けたとしても、きっと逃げなかっただろう。
頭の中にあるのは、ただ一つ。
「リコ……!」
それだけだった。
男が、目の前で立ち止まる。
空気が凍りついた。
「あ……あっ……」
声が出ない。
喉が張りついたように震えるだけだった。
「ルシフェル……!」
リコリスの泣き声が聞こえる。
その声に背中を押されるように、ルシフェルは無理やり身体を動かした。
そして男に向かって、拳を振り抜く。
だが。
「甘いな」
男はあっさりとその拳をかわした。
勢い余ったルシフェルの腕を掴み、そのまま握りつぶすように力を込める。
「っ……!」
激痛が走った。
振りほどこうとしても、びくともしない。むしろ抵抗するほど痛みが増していく。
「ククク……当たると思ったのか?」
男の嘲笑が、耳障りに響く。
そのときだった。
「っルシフェル!!」
リコリスが男に体当たりした。
不意を突かれた男の身体が、わずかによろめく。腕を掴む力が一瞬だけ緩んだ。
その隙を逃さず、ルシフェルは腕を振りほどく。すぐにリコリスの手を掴み、男から距離を取った。
だが、男の視線がリコリスへ向いた瞬間、空気がさらに冷えた。
リコリスが小さく悲鳴を漏らす。
「これで終わらせる」
男がそう呟いた次の瞬間。
何が起きたのか、見えなかった。
気づけば、男は目の前にいた。
そして次の瞬間、ルシフェルは床に倒れていた。
「がっ……!」
みぞおちに凄まじい衝撃。息ができない。胃を押さえて咳き込む間もなく、胸ぐらを掴まれる。
そのまま、階段の方へ投げ飛ばされた。
「ぐあっ!?」
後頭部に激しい痛みが走る。
視界が白く弾け、そのまま意識が落ちた。
「ルシィッ!!」
リコリスが駆け寄る。




