第12話:絆の芽生えと仮の協定 第1編:勝利の余韻
第12話:絆の芽生えと仮の協定
第1編:勝利の余韻
『炎風・無明突き』が描き出した巨大な炎のドリルは、ラヴァ・ゴーレムの群れを完全に穿ち去っていた。
激しい爆風と高熱の旋風が治まると、静まり返った街の中央には、ドロドロに溶けた岩石の残滓だけが取り残されていた。あれほど周囲を絶望で満たしていた溶岩の巨獣たちは、影も形もなく全滅している。
「ハッ……ハッ……ハッ……」
俺は静かに息を吐き出し、刀を鞘へと納めた。チャキンと小さな金属音が響き、夜風が煙の混じる空気を吹き払っていく。
「ルシフェルさん、腕の傷、もう痛くないですか?」
ノエルが心配そうに覗き込みながら、最後の『ラ・ヒール』の温かな光を俺の腕へと注ぎ込んでくれた。最下位の回復魔法とはいえ、ノエルの優しい魔力は、熱傷で赤くなっていた皮膚の痛みを綺麗に拭い去ってくれる。
「ああ、ありがとうノエル。おかげで助かったよ」
俺が微笑むと、ノエルはホッとしたように胸を撫でおろした。
その横では、シバリアが大剣を背中に担ぎ直し、腕を組みながら呆れ交じりの感嘆の息をついていた。
「まったく……相変わらず無茶な戦い方をする。風魔法『ラ・ラルド』の気流に、悪魔の解き放った炎魔法『ラ・ルビ』の熱量を巻き込ませて一点集中させるなど、一歩間違えれば二人とも爆発に巻き込まれていたぞ」
「ふっ……シバリアの言う通りかもしれないが、あの状況じゃあれしか突破口がなかったからな」
俺が苦笑いすると、シバリアは口元を緩め、楽しそうに首を振った。
「まあ、結果として怪我人も出さず、街を呑み込もうとしていたゴーレム群を壊滅させたのだ。騎士として文句のつけどころはない。見事だったぞ、ルシフェル、そしてブラッド」
名前を呼ばれたブラッドは、地表にへたり込んだまま、まだどこか呆然とした表情で自分の両手を見つめていた。
「俺様の……『ラ・ルビ』が……」
ブラッドは掠れた声で呟く。
「俺様の全魔力が……あんな……あんな頭のおかしい威力になるわけねえ……。お前、一体何しやがったんだよ、片腕……」
ブラッドは真紅の髪を揺らし、恐る恐る俺を見上げてきた。その赤い瞳には、以前のような生意気な嘲笑や露骨な警戒心はもう残っていなかった。代わりにあったのは、困惑と、そして隠しきれない強い衝撃だった。
俺はブラッドの前にかがみ込み、目線を合わせた。
「何もしちゃいないよ。ただ、お前が放った炎が本物だったからだ」
「あ……?」
「お前の一撃には、魔力だけじゃなくて『負けたくない』っていう強い執念と誇りがこもっていた。俺はそれを風で包み込んで、一番効く場所に届けただけだ。お前の炎がなければ、俺一人じゃあの硬い核を打ち砕くことは絶対にできなかった」
「……っ」
ブラッドは息を呑み、言葉を詰まらせた。
悪魔界で「気高き一匹狼」を気取り、力だけを信じて孤立してきた彼にとって、自分の戦い方や執念を真っ向から認められたことなど、一度もなかったのだろう。しかも、それを認めたのが、かつて「片腕の半端者」と見下していた人間なのだ。
「お前の戦術と執念……認めざるを得ないな」
ブラッドは小さく呟くと、悔しそうに歯を食いしばり、顔をぐっと背けた。
「クソッ……胸糞悪い……! 人間に助けられて、人間に褒められるなんて……俺様プライドズタズタだぞ……!」
「素直に『ありがとう』と言えばいいものを、相変わらず口の減らないガキだな」
シバリアがくすくすと笑いながらブラッドの頭をガシガシと乱暴に撫で回した。
「うわぁぁぁッ!? なにしやがるゴツい騎士! 髪が乱れるだろ、触るなッ!」
「ははは! 元から逆立っている髪ではないか!」
怒って暴れるブラッドと、それを愉快そうにあしらうシバリア。ノエルも「ふふっ」と楽しそうにその光景を見守っている。
激しい死闘の直後だというのに、俺たちの周囲には、不思議と温かく穏やかな空気が満ちていた。
俺は静かに自らの左手を見つめた。 戦闘中、あれほど暴れようとしていた「黒い衝動」は、今は嘘のように静まり返っている。信頼できる仲間と背中を合わせ、己の剣術と魔力で掴み取った勝利。それが、俺の内なる闇を押し留めてくれたのだと感じていた。
「ルシフェルさん」
ノエルが俺の隣に歩み寄り、崩れかけた防壁の向こう側を指差した。
「街の人たちが、集まってきます……」
煙が晴れ渡った大通りの奥から、避難していた火山街グランの住民たちが、恐る恐る姿を現し始めていた。自分たちの街を救った俺たちと、そして真っ赤な髪の少年悪魔の姿を、驚きと感謝の眼差しで見つめながら――。




