第11話:炎と風のシンクロ 第5編:新技『炎風・無明突き』
第11話:炎と風のシンクロ
第5編:新技『炎風・無明突き』
視界の全てが、灼熱の赤と風の真緑が混ざり合う旋風で満たされていた。
手にした刀の柄を通して、ブラッドが放った『ラ・ルビ』の圧倒的な熱量が伝わってくる。俺の巻き起こした『ラ・ラルド』の風がその火炎を激しく煽り立て、渦を巻きながら刀身へ、そして刃先の一点へと極限まで圧縮されていく。
(熱い……手が焼き切れそうだ……!)
あまりの高熱に、右腕の皮膚がジリジリと悲鳴を上げる。だが、俺は握り締めた手を絶対に緩めなかった。
背中を預けてくれたブラッドの熱い鼓動、必死に援護してくれるシバリアとノエルの思い。その全てが、この一撃に込められているのだから。
「オオオオオオオンッ!!」
眼前に立ち塞がる三体のラヴァ・ゴーレムが、灼熱の熱気を感じ取ったのか、不気味な赤の単眼を激しく明滅させた。身の丈の二倍以上もある溶岩の巨拳が一斉に振り下ろされ、俺の頭上を黒い影が覆い尽くす。
「ハッ……やってやれぇッ、片腕ぇぇッ!!」
背後で、魔力を使い果たしたブラッドが、血を吐くような咆哮を上げた。
「――応ッ!!」
俺の覚悟が、極限の踏み込みとなって炸裂した。
沖田総司の記憶が誇る、音すら置き去りにする三段突きの神速。
そこに、圧縮された風と超高熱の炎の螺旋が重なり合う。
「喰らい……やがれぇぇッ!!」
俺は刀を鋭く引くと、前方へ向かって渾身の一刺しを繰り出した。
「――新技・『炎風・無明突き(えんぷう・むみょうづき)』ッ!!」
ドガァァァァァンッッ!!!!
大気が破裂したような絶大な轟音が、火山街グランの夜空全体を揺るがした。
刀身から解き放たれたのは、単なる刺突ではない。風の旋風によって超高速回転を与えられた、巨大な炎のドリルだった。
超高熱の螺旋が空気を切り裂き、閃光となって一直線に突き進む。
最初に振り下ろされてきたラヴァ・ゴーレムの巨拳が、その先端に触れた瞬間――まるで濡れた紙くずのように一瞬で蒸発した。
「オッ……!?」
巨獣が悲鳴を上げる隙すら与えない。
『炎風・無明突き』の旋風は、一番手前のゴーレムの胸部を容易く穿ち、内側に潜む赤く輝く魔力の「核」を一瞬で粉砕した。それだけに留まらず、穿たれた傷口から超高熱の火炎が爆発的に拡散し、巨大な体躯を内側から崩壊させていく。
さらに、その貫通力は止まらない。
貫かれた一番手の巨体を突き破り、そのまま直線上に並んでいた二体目、三体目のラヴァ・ゴーレムの核をも次々と一直線に貫通した。
ドゴォォォォン! ドゴォォォン!!
連続する爆発音が重なり合い、三体の巨獣が同時に内側からドロドロの溶岩となって破裂した。飛び散る熱流は、周囲に広がっていた他のゴーレムたちをも巻き込み、俺の放った風の渦に呑み込まれて次々と削り取られていく。
激しい衝撃波が周囲を吹き荒れ、民家を覆っていた黒煙や熱風すらも、一瞬にして遥か空彼方へと吹き飛ばしてしまった。
「な……なんだ……今の技は……!?」
シバリアが大剣を構えたまま、目を見開いて硬直していた。
「ゴーレムの硬い岩石の鎧を……核ごとまとめて打ち砕いただと……!?」
炎の旋風が治まり、静寂が街に訪れる。
俺たちの前に立ち塞がっていたラヴァ・ゴーレムの群れは、跡形もなく消滅していた。残されたのは、綺麗に穿たれた石畳の深い溝と、熱で赤くドロドロに溶けた岩石の残滓だけだった。
「ハッ……ハッ……ハッ……」
俺は刀をゆっくりと引き、鞘へと収めた。
ザザーッと足元の石粒が滑る音が響く。右腕の袖は焦げ落ち、皮膚にはうっすらと熱傷が残っていたが、不快な感覚はなかった。
胸の奥を確かめる。
「黒い衝動」は静まり返っていた。仲間との協力と、純粋な剣術と魔法の融合によって解き放たれた一撃は、俺の中の暗い闇すらも一時的に押し込め、打ち払っていたのだ。
「す……げぇ……」
背後で、ブラッドが掠れた声で呟いた。
振り返ると、ブラッドは尻餅をついたまま、呆然とした表情で俺と刀を見つめていた。その真紅の瞳には、かつて俺に向けられていた嘲笑や警戒ではなく、純粋な驚愕と、隠しきれない敬意の色が宿っていた。
「おいおい……マジかよ……。俺様の『ラ・ルビ』をあんな風に変形させやがったのか……? 冗談だろ……」
「お前の炎が強烈だったからできたんだ、ブラッド」
俺は息を整えながら、ブラッドに向かって右手を差し出した。
「俺一人じゃ、あの硬い核を打ち砕くほどの熱量は生み出せなかった。お前の全魔力があったからこその技だ」
「……っ」
ブラッドは差し出された俺の手を見つめ、顔を真っ赤にした。
照れくさそうに口元を激しく歪め、プイッと横を向いて俺の手を乱暴にはねのける。
「勘違いすんじゃねえよ! 俺様はただ、お前に魔力を吸い取られただけだ! お前の手なんか借りなくても、自力で立てるっつの!」
そう言いながらも、ブラッドは震える足でフラフラと立ち上がり、悔しそうに戦斧を肩に担ぎ直した。その耳の先は、やはり火のように赤くなっていた。
「ルシフェルさんっ! ブラッドさんっ!」
後方からノエルが駆け寄ってきて、安堵の涙を浮かべながら俺たちの手を取り、即座に回復魔法『ラ・ヒール』を唱えてくれた。柔らかな光が身体を包み、焦げた腕の傷を癒していく。
「凄かったです……! お二人の力を合わせた攻撃、本当に凄かったです!」
「フッ……まったく、肝を冷やされたぞ」
シバリアも歩み寄り、俺の肩を力強く叩いた。
「風と炎の合体技とはな。一匹狼の生意気な悪魔も、なかなか良い仕事をするではないか」
「ゴツい騎士、余計なこと言ってんじゃねえ! 次は俺様が一番活躍してやるからな!」
ブラッドは威勢よく叫んだが、その表情には先ほどまでの頑なな孤立感は消えていた。
荒れ果てた火山街グランの夜空に、俺たちの小さく温かな笑い声が静かに響き渡っていた。




