第11話:炎と風のシンクロ 第4編:風と炎の交錯
第11話:炎と風のシンクロ
第4編:風と炎の交錯
「お前が俺の背中を守るなら、俺もお前の炎を最高の形で解き放ってやる」
「ハッ! 言ったな片腕! 失敗したら丸焼きにしてやるからな!」
背中を合わせ、互いの体温と激しい鼓動を感じ合いながら、俺とブラッドは迫り来るラヴァ・ゴーレムの群れに向かって身構えた。
十数体もの巨獣たちが、ドロドロとした溶岩を撒き散らしながら、地響きを立てて歩を進めてくる。一歩踏み出すごとに足元の石畳が砕け散り、周囲の空気は皮膚が灼かれるほどの異常な熱気へと達していた。
「シバリア! ノエル! 左右からの挟み込みを頼む! 中央の群れは俺とブラッドで一気に突き破る!」
俺が叫ぶと、シバリアは大剣を両手で固く握り直し、鋭い眼光を走らせた。
「承知した! 騎士の誇りにかけて、一体たりとも貴様らの側面へは通さん!」
シバリアは大地を強く蹴り、左手から迫る溶岩獣の足元へと疾走する。大剣を低い位置から振り上げ、巨獣の膝関節へとなぎ払い(スラッシュ)を叩き込んだ。
一方、後方ではノエルが杖を両手でしっかりと抱え、祈るように叫んだ。
「ルシフェルさん、ブラッドさん、絶対に無茶はしないでください! 傷ついたら、私が何度でも治しますから……! 『ラ・ヒール』!」
ノエルが唱えた最下位の回復魔法『ラ・ヒール』から放たれた澄んだエメラルドグリーンの光が、俺とブラッドの身体を包み込んだ。全身の細胞を優しく撫で上げるような温かな波動が広がり、激しい戦闘で疲弊しかけていた筋肉の強張りや、体内の脈動が急速に整えられていく。
「あたたかい……。ノエル、助かる!」
「へっ、少しはやるじゃねえか半エルフ! 命拾いしたぜ!」
照れ隠しに叫ぶブラッドの言葉を合図に、俺は刀を正眼に構え、体内の魔力を限界まで研ぎ澄ませた。
頭をよぎるのは、沖田総司の記憶から引き継いだ絶対の踏み込みと、極限の集中力。 そして、この異世界へ足を踏み入れてから俺自身が培ってきた風の属性魔力だ。
胸の奥深くでドクンと冷たく不気味な脈動を打つ「黒い衝動」――それには一切触れず、己の純粋な意志と魔力だけを、右腕を通して刀の刃先へと集中させていく。
(狙うのは、あいつらの中心にある核……! ただ叩くだけじゃ再生される。硬い岩石の鎧を突き破り、内側のコアを一撃で打ち砕く!)
俺の身体の周囲に、透明感のある淡い緑色の気流が旋風となって巻き起こり始めた。
「――風よ、刃となりて鋭く駆け抜けろ。『ラ・ラルド』!」
俺の口から放たれたのは、風属性の最下位魔法『ラ・ラルド』の詠唱だった。 本来であれば、刃の切れ味をわずかに増す程度の初級の風魔法に過ぎない。しかし、沖田の極限の踏み込みと、俺の研ぎ澄まされた魔力が加わることで、その風は高密度に圧縮された狂暴な空気の刃へと変貌を遂げていた。
「へっ……上等じゃねえか、片腕! なら、俺様も出し惜しみなしで全開で行くぜぇッ!」
背後で、ブラッドが腹の底から咆哮を上げた。
彼の全身から、これまで以上の高熱を帯びた真紅の炎が爆発的に噴出し、薄暗い火山街の夜空を真っ赤に染め上げていく。ブラッドは両手に握った赤銅色の戦斧を頭上高く掲げ、体内に残された全ての魔力を一点へと注ぎ込んでいた。
「燃え盛れ、俺様の魂! 敵もろとも全てを焼き尽くせ……『ラ・ルビ』ッ!!」
ブラッドが解き放ったのは、炎属性の最下位魔法『ラ・ルビ』。 階級としては最下位の魔法でありながら、限界を超えて解き放たれた彼の全魔力と、一匹狼としての執念が合わさったその炎は、巨大な火柱となって解き放たれた。
轟音と共に、俺の巻き起こした『ラ・ラルド』の風の気流と、ブラッドの解き放った『ラ・ルビ』の超高熱の炎が、空中できれいに激突する。
バチバチバチッ……!!
その瞬間、互いの魔力が強烈に干渉し合い、凄まじい熱風の旋風が渦を巻いた。
「な……なんだと!?」
ブラッドが驚愕で目を見張る。 俺の生み出した風が、ブラッドの放った炎を爆発的に煽り立て、火炎の威力が二倍、三倍へと急激に膨れ上がっていったのだ。本来であれば周囲へ無秩序に拡散するはずだった熱量が、俺の纏わせた風の螺旋に沿って集束し、刀の先端に向かって巨大な火炎の渦となって収縮していく。
「風が……俺の炎を吸い込んでやがる……!? 威力が跳ね上がってやがるぞ!」
「ブラッドの炎を、俺の風で加速させる……! これならいける!」
熱い。手にした刀が悲鳴を上げるほどの超高熱。俺の腕の皮膚が焦げてしまいそうなほどの熱風が全身を襲う。だが、俺は一歩も引かなかった。ブラッドが俺に背中を預け、命がけで全魔力を託してくれたのだ。この炎を絶対に無駄にするわけにはいかない。
赤く輝く不気味な単眼を持つラヴァ・ゴーレムの群れが、眼前にまで迫っていた。振り下ろされる溶岩の巨拳が、頭上の光を遮る。
「ルシフェルッ! 叩き込めぇッ!」
シバリアの魂のこもった叫び声が響く。
俺は両脚に限界以上の力を込め、足元の石畳を木端微塵に蹴り破るほどの踏み込みで地を蹴った。
刀身に纏うのは、風と炎が奇跡的に交錯して生まれた、灼熱の旋風。 俺とブラッドの魔力が完全にシンクロし、破壊的な熱風の螺旋となって、ラヴァ・ゴーレムの群れへと一直線に突き進んでいく!




