第11話:炎と風のシンクロ 第3編:背中を預ける刻
第11話:炎と風のシンクロ
第3編:背中を預ける刻
「――何を諦めかけたツラしてんだ、ガキ」
頭上から響いた低く澄んだ声と同時に、激しい衝撃音と高熱の火花が夜の空気を切り裂いた。
ブラッドが恐る恐る目を開けると、そこには倒れそうになる彼の目前で刀を斜めに構え、ラヴァ・ゴーレムの身の丈ほどもある溶岩の巨拳を真っ向から受け止めている俺の背中があった。
「な……ッ!? お前……片腕……!?」
ブラッドは真紅の瞳を丸く見開き、絶句した。
俺は刀の柄を両手で固く握り締め、全身の踏み込みで巨獣の圧倒的な質量を押し返した。刃と溶岩の拳が擦れ合い、甲高い金属音と共に火花が散る。
「死にたいのか、ガキ。一人でいい格好しようとして自滅するなんて、それこそ『半端者』のやることだぞ」
俺はチラリと背後へ視線を向け、苦笑混じりに言い放った。
「な、なんだとぉッ!? 誰が自滅だ! 俺様はただ……ちょっと魔力が切れただけで――」
「言ってる場合か、ブラッド! 横から来ているぞ!」
鋭い叫び声と共に、背後から旋風のごとく躍り出たのはシバリアだった。
シバリアは大剣を大段に構え、俺たちの側面に迫っていた二体目のラヴァ・ゴーレムの膝元へと力任せの薙ぎ払い(スラッシュ)を叩き込んだ。
ガキィィィンッ!!
「オオオオッ!?」
岩石の脚部が粉々に砕け散り、巨体がバランスを崩して激しく転倒する。シバリアは大剣を肩に担ぎ直し、不敵な笑みを浮かべてブラッドを見下ろした。
「間一髪だったな、悪魔の少年。我々の到着がもう少し遅れていれば、貴様は今頃ペチャンコだったぞ」
「う、うるせえゴツい騎士! 余計なお世話だ! 頼んでねえよ!」
ブラッドは顔を真っ赤にして叫び返したが、その声には先ほどまでの絶望感は消え、どこか安堵の色が混ざっていた。
「ノエル! 住人の避難は完了したか!?」
俺が叫ぶと、後方から息を切らせながら駆け寄ってきたノエルが、力強く頷いた。
「はい! シバリアさんと街の警備隊の方が誘導してくださって、全員安全な広場へ避難できました! このエリアにはもう住民の人はいません!」
ノエルは杖を構え、魔力が底をつきかけて足をもつれさせるブラッドの元へ素早く駆け寄った。
「ブラッドさん、動かないでください! 今、魔力を少し分けます……『ヒール』!」
温かな緑色の光がブラッドの体を包み込む。完璧な全回復とはいかずとも、体内のカラカラだった魔力脈に冷たい水が染み渡るように、ブラッドの体に急激に活力が戻っていった。
「あ……力があたたかい……。おい半エルフ、サンキュ……じゃなくて! だから余計なお世話だって言ってるだろ!」
照れ隠しで怒鳴るブラッドに、ノエルは「ふふ、どういたしまして」と優しく微笑んだ。
だが、安らぎの時間は一瞬だった。
周囲を取り囲むラヴァ・ゴーレムたちの数が、さらに増加している。防壁の亀裂から次々と湧き出し、十数体もの巨獣たちが、ドロドロとした溶岩を垂れ流しながら俺たち四人を完全に包囲していた。
「くそっ……! 倒しても倒してもキリがねえ!」
シバリアが大剣を構え直し、険しい表情で吐き捨てる。
「打撃は効くが、核を破壊しない限り周囲の熱を吸ってすぐに再生する。おまけにあの硬度だ……一気に殲滅しなければ押し潰されるぞ!」
「ああ……」
俺は刀を深く構え直した。
通常の手数で一体ずつ削っていては限界がある。俺の左腕の闇を解放すれば一瞬で吹き飛ばせるかもしれないが、それは絶対に避けなければならない。人間の剣技と、今ある戦力で突破口を開くしかないのだ。
その時、ブラッドがガシガシと真っ赤な頭を掻きむしり、俺の隣へ歩み出てきた。
「チッ……胸糞悪いが、背に腹は代えられねえ!」
ブラッドは戦斧を力任せに地面に突き立てると、俺の背中に自身の背中をピタリと押し当ててきた。
「……ブラッド?」
「誤解すんじゃねえぞ、片腕!」
背中越しに、ブラッドの熱い体温と激しい鼓動が伝わってくる。ブラッドは悔しそうに歯を食いしばりながら、低く素早い声で俺に語りかけた。
「俺様の炎はな、打撃の硬度には弾かれる。だが、お前の一瞬のスピードと斬撃があれば……この溶岩のバケモノどもの外殻を切り裂けるはずだ」
「……俺の斬撃と、お前の炎か」
「そうだ! 俺様が残り全魔力を振り絞って最大の爆炎を張る。お前……それに合わせて風を吹かせられるか!?」
ブラッドの言葉に、俺の脳裏で一閃のインスピレーションが走った。
風は炎を煽り、爆発的な推進力と破壊力を生み出す。 沖田総司の極限の刺突に、ブラッドの超高熱の炎、そして俺の風魔法を融合させれば――。
「できる」
俺は即座に答え、口元に小さな笑みを浮かべた。
「お前が俺の背中を守るなら、俺もお前の炎を最高の形で解き放ってやる」
「ハッ! 言ったな片腕! 失敗したら丸焼きにしてやるからな!」
ブラッドがニヤリと凶暴に笑う。
互いに一度は刀を交えた敵同士。だが今、俺と赤髪の悪魔は、互いの命と背中を完全に預け合い、目の前の絶望的な群れへと真っ向から向き合っていた。




