第11話:炎と風のシンクロ 第2編:孤立するブラッド
第11話:炎と風のシンクロ
第2編:孤立するブラッド
「ハハッ! 死ね死ね死ねぇッ! 俺様の火の粉にしてやるよぁッ!」
破壊された街の防壁付近――ドロドロとした溶岩を撒き散らしながら進軍するラヴァ・ゴーレムの群れに対し、ブラッドは単身で突撃を敢行していた。
「爆炎斧・十文字切りッ!」
ブラッドが空中で一回転しながら放った一撃が、先頭を歩いていた巨体へと直撃する。高熱の炎が旋風となって弾け飛び、ラヴァ・ゴーレムの一体を爆風と共に吹き飛ばした。
だが――。
ガラガラガラッ……!
崩れ落ちたはずの岩石と溶岩の塊が、周囲の地熱を吸収して即座に再結合を始める。一瞬で元通りの巨体を復元したラヴァ・ゴーレムは、何事もなかったかのように重い足音を響かせて前進を再開した。
「なっ……何だこいつら!? 効いてねえのか!?」
ブラッドは真紅の髪を逆立て、信じられないものを見るような目で巨獣の群れを睨みつけた。
通常、悪魔の解き放つ高熱の炎はあらゆる物質を灰へと変える。しかし、このラヴァ・ゴーレムたちは火山街の地下脈そのものが暴走して生まれた怪物だ。彼らにとって、ブラッドの放つ熱量はダメージになるどころか、むしろ活動を活性化させるエネルギー源にすらなっていた。
「オオオオオオオンッ!!」
赤く輝く単眼を光らせ、三体のラヴァ・ゴーレムが同時に巨大な岩石の腕を振り下ろしてくる。
「くそっ……! 舐めるんじゃねえぞザコどもがぁッ!」
ブラッドは地面を蹴ってギリギリでその叩きつけを回避した。直後、彼が立っていた石畳が粉々に砕け散り、激しい爆風と溶岩の飛沫が周囲を包み込む。
「熱ッ……!? くそ、皮膚が焦げやがる……!」
着地したブラッドは小ぶりな翼を羽ばたかせ、体勢を立て直そうとしたが、その表情には明らかな焦りと疲労の色が滲み始めていた。
一体や二体ならまだしも、視界を埋め尽くすラヴァ・ゴーレムの数は十を超えている。しかも、彼らの身を包む岩石の鎧は尋常ではない硬度を誇り、ブラッドの物理攻撃すら跳ね返してしまうのだ。
「ハァ……ハァ……! なんだよこいつら……硬すぎるだろ……! おまけに、いくら焼いても再生しやがる……!」
ブラッドの肩が激しく上下する。 先ほどから大技を連発しているせいで、体内の魔力が急速に底をつきかけていた。喉の奥がカラカラに乾き、額からは滝のような汗が流れ落ちる。ノエルに治療してもらった傷は塞がっていたものの、消費した魔力までは回復していない。
(くそっ……! こんなザコども相手に、俺様が押し込まれてるだって……!?)
ブラッドは歯を食いしばり、戦斧を固く握りしめた。
脳裏に浮かぶのは、魔王軍幹部サルガタナスの冷酷な嘲笑だ。 『使い物にならん小娘……いや、出来損ないのガキ悪魔め。一人で何ができる』と見下してきたあの面構え。そして、俺たちに向かって「自分は気高き一匹狼だ」と大口を叩いた己の言葉。
(ここで退けるかよ……! 引き下がれるわけねえだろ……! 俺様は強いんだ……誰の手も借りずに、一人で全部ぶっ壊せるってところを見せてやるんだよ……!)
「ウオオオオアアアッ!!」
自暴自棄に近い叫び声を上げ、ブラッドは残りの魔力を振り絞って再び跳躍した。
「喰らいやがれぇぇッ! 爆炎極大波ッ!!」
戦斧の刃から放たれた最大級の炎の嵐が、迫り来るゴーレムたちの頭上へと降り注ぐ。凄まじい爆発音が周囲を揺るがし、夜空が真っ赤に染まった。
だが、それが限界だった。
「ハッ……ガハッ……!?」
空中から着地した瞬間、ブラッドは激しい眩暈に襲われ、片膝を地面についた。 目の前がチカチカと明滅し、全身から力が抜けていく。魔力を完全に使い果たした証拠だった。背中の悪魔の翼が力なく垂れ下がる。
「く……そ……手が……動かねえ……」
煙の向こう側から、炎を吸収してさらに巨大化した三体のラヴァ・ゴーレムが、重厚な足音と共に姿を現した。
「オオオオ……!」
無情にも振り上げられる、身の丈ほどもある溶岩の拳。 死の影が、身動きの取れないブラッドへと覆いかぶさる。
(あ……ダメだ……避けられねえ……)
ブラッドは死を覚悟し、悔しさに溢れた涙を浮かべながら目を強く瞑った。
(やっぱり俺は……半端者だったのかよ……。一人じゃ……何もできねえのかよ……!)
巨拳がブラッドの頭上へと振り下ろされ、風圧が彼の髪を激しく吹き荒らした――その直一瞬前。
「――何を諦めかけたツラしてんだ、ガキ」
低く、静かで、だが絶対の信頼を帯びた声が耳元に届いた。
ドガァァァンッ!!
激しい金属音と衝撃波が弾け飛び、ブラッドの頭上に迫っていた溶岩の拳が、完璧に静止していた。
「な……!?」
ブラッドが驚愕して目を開けると、そこには刀を一心に構え、巨拳を真っ向から受け止めている黒髪の剣士――俺の背中があった。




