第11話:炎と風のシンクロ 第1編:溶岩獣の急襲
第11話:炎と風のシンクロ
第1編:溶岩獣の急襲
火山街グランの夜は、独特の静寂と熱気に包まれていた。
ブラッドからの不穏な警告――俺の背後に纏わりつく「黒い影」の存在についての言葉が、重い針のように胸の奥に刺さったままだった。だが、まずは傷ついた街の復旧と、明日以降の行動方針を固めることが先決だった。
俺たちは街の中心部にある宿屋の一室を借り、今後の打合せを行っていた。
「――というわけでだ」
シバリアが大剣を壁に立てかけ、テーブルの上に広げた地図をポンと叩いた。
「魔王軍幹部サルガタナスは、この火山街の鉱脈を狙って裏で糸を引いていた。そして、その刺客や部下どもを跳ね返したのが、そこのツンデレ悪魔少年というわけだな」
「誰がツンデレだゴツい騎士! 叩き潰すぞ!」
部屋の隅で腕を組み、不機嫌そうに壁に背を預けていたブラッドが、即座に牙を剥いて噛みつく。
「何度も言わせんな、私は男の騎士だ! それに『ツンデレ』というのはルシフェルが言っていた言葉だぞ!」
「おいシバリア、俺のせいにするな!」
俺が思わず突っ込むと、ノエルがクスクスと可憐な笑い声を漏らした。
「ふふ、でもブラッドさんが一緒にいてくれて心強いです。サルガタナスのことも、この地域の地形のことも詳しいですし」
「ハッ! 勘違いすんじゃねえぞ半エ……ハーフエルフ!」
ブラッドはノエルに言い返そうとして途中で言葉を言い直し、気まずそうにプイッと横を向いた。
「俺様は別に仲良しごっこをしに来たんじゃねえ。サルガタナスの面張っ倒すついでに、お前らが足引っ張らねえか見張ってやるだけだ!」
「はいはい、分かったから。ありがとな、ブラッド」
俺が苦笑しながら声をかけると、ブラッドは「チッ」と舌打ちをして顔をさらに背けたが、部屋を出ていこうとはしなかった。口は相変わらず悪いが、彼なりに俺たちの輪の中に居場所を見出しつつあるのは確かだった。
――その、平和なひとときが破破破破破破破破されたのは、まさにその直後だった。
ドドドドド……ッ!!
突如として、大地の底から腹に響くような凄まじい地鳴りが巻き起こった。
「うわっ!?」
「なんだ、地震か!?」
テーブルの上のコップが激しく揺れ、床から伝わる震動で宿屋全体がミシミシと悲鳴を上げる。ただの地殻変動ではない。魔力の異常な暴走を感じ取ったノエルが、表情を一変させて窓の外を指差した。
「ルシフェルさん、見てください! 火山の地下脈が……!」
俺たちは弾かれたように窓際へと駆け寄った。
街の北側に聳え立つ火山――その山麓から街へと続く地下鉱脈の裂け目が、不気味な真っ赤な光を放っていた。激しい蒸気とドロドロとした溶岩が吹き出し、街の防壁を崩しながら何かが這い上がってくる。
ドゴォォォンッ!!
爆発音と共に姿を現したのは、岩石と灼熱の溶岩が結合して作られた異形の怪物群だった。身の丈はどれも人間の二倍以上。全身からドロドロとした溶岩を垂れ流し、赤く輝く不気味な単眼を持つ巨獣たち。
「ラヴァ・ゴーレム……! 大型溶岩獣の群れだ!」
シバリアが険しい表情で叫んだ。
「なぜだ!? 通常なら地下深くの溶岩層から出てくるような魔物ではないぞ!」
「サルガタナスの野郎の仕業だ……!」
ブラッドが壁を強く蹴り、真っ赤な瞳を殺意でぎらつかせた。
「あの野郎、この街の地下脈に魔力を注ぎ込んで暴走させやがったんだ! 自分が手に入れられねえなら、街ごと溶岩獣に襲わせて全部灰にしてやろうって腹だぞ!」
「なんですって……!? そんな惨いこと……!」
ノエルがショックで息を呑む。
外からは、突然の怪物どもの出現にパニックを起こした街の住人たちの悲鳴が響き渡り始めた。
「助けてくれぇーッ!」
「魔物が、溶岩のバケモノが街になだれ込んできたぞーッ!」
「避難しろ! 防壁が破られた!」
民家に倒れ込むゴーレムの一撃で、建物が激しい炎を上げて崩壊していく。避難が遅れた子供や老人が、迫り来る溶岩の巨体に追い詰められていくのが見えた。
「くそっ、街の人たちが……!」
俺は即座に刀の柄を握りしめた。
「ノエル、シバリア! 住人の避難誘導と、火災の食い止めを頼む!」
「分かった! 騎士の名において、住人は一人たりとも死なせん!」
シバリアが大剣を背負い、一直線に階段を駆け下りていく。ノエルも「気をつけてください、ルシフェルさん!」と叫びながら、救急箱と杖を手に後を追った。
俺も部屋を飛び出そうとした、その時だった。
「――おい、片腕!」
ブラッドが俺の前を突き抜け、窓枠に足をかけた。真紅の髪を熱風に揺らし、肩に担いだ巨大な戦斧を不敵に回す。
「ここからは俺様の時間だ。ザコどもに俺様の力を思い知らせてやる!」
「待てブラッド! 一人で行くな、敵の数が多すぎる!」
俺の制止の声を無視し、ブラッドは「ヒャッハー!」と狂暴な歓声を上げながら、夜の街へと飛び出していった。
「あいつ……本当に人の話を聞かないな!」
俺は苦笑しつつも、左腕の疼きを抑え込み、刀を抜いてブラッドの背中を追って駆け出した。火山街グランを飲み込もうとする溶岩の渦の中へ、俺たちは飛び込んでいった。




