第10話:ツンデレ悪魔の事情 第2編:悪魔の
第10話:ツンデレ悪魔の事情
第2編:悪魔の孤立
暴れていた魔物どもが去り、ブラッドが飛び去った後の火山街グラン。 煙が燻る大通りで、俺たちは街の自衛団や聞き込みに応じている住人たちに囲まれていた。
「――なんだって!? あの赤髪のガキ悪魔が、魔王軍からも追われてるだって!?」
シバリアが驚きの声を上げ、大剣を地面に突き立てた。
情報を提供してくれたのは、頑丈な革の胸当てを身につけたドワーフの鍛冶職人だった。大きな髭を揺らしながら、ため息交じりに頷く。
「そうだとも。あのガキ……ブラッドとか名乗ってたか。数日前からこの街の周囲でうろついててな。最初は魔王軍の手先かと思って警戒したんだが、どうも様子がおかしいんだ」
「様子がおかしい……とは、具体的にどういうことですか?」
ノエルが心配そうに身を乗り出し、鍛冶職人に尋ねる。
「なんでも、魔王軍の幹部――サルガタナス様のやり方に、真っ向から突っかかったらしい」
『サルガタナス』。 その名前が職人の口から出た瞬間、俺の胸の奥で、カチリと冷たいスイッチが入る音がした。左腕がピクリと痙攣し、冷たい圧迫感が走る。
「サルガタナス……! リコリスを連れ去った、あの幹部か……!」
「ルシフェル、落ち着け」
シバリアが俺の肩にぽんと手を置いた。
「おい親父、もう少し詳しく聞かせてくれ。ブラッドとサルガタナスの間に何があったんだ?」
ドワーフの職人は煙草に火をつけ、紫煙を吐き出しながら語り始める。
「噂じゃ、サルガタナスの奴はこの火山街の地下鉱脈を根こそぎ奪うために、人間を奴隷として強制労働させろと命じたらしい。おまけに『従わない街は住民ごと溶岩に沈めろ』とな。それに対して、あのブラッドのガキがキレたんだとよ」
「えっ……悪魔の男の子が、魔王軍の命令に反対したんですか?」
ノエルが驚いたように目を丸くする。
「ああ。『そんなコソコソした惨めな真似ができるか! 強い奴と直接戦わせろ!』ってな。幹部の命令を目の前で蹴飛ばして、サルガタナスの部下どもを数体ブチのめして逃げ出したらしい。おかげで今は、魔王軍の追手からも命を狙われてるってわけだ」
「……へえ」
俺は腕を組み、ブラッドが去っていった方角の空を見上げた。
「あいつ……『気高き一匹狼』とか誇らしげに言ってたけど、要するに追放されて居場所がないだけじゃないか」
「ふっ、まったく困ったガキだな」
シバリアが呆れたように苦笑いを浮かべた。
「魔王軍の冷酷なやり方に反発したまではいいが、協調性がなさすぎて孤立しているというわけか。正義感で反発したというよりは、単に己のプライドと我儘を通した結果のようだがな」
「でも……」
ノエルが胸の前で小さな手をギュッと握りしめ、二人の会話に割り込んできた。
「悪魔族の中にも、魔王軍の残酷なやり方を嫌う人がいるんですね。ブラッドさんは乱暴で生意気ですけど……本当は、誰も傷つけたくないのかもしれません」
「いやノエル、あいつは普通に俺たちを丸焼きにしようとしてたぞ」
俺が冷静に突っ込むと、ノエルは「ううっ」と口ごもった。
「そ、それはそうですけど! でも、街の人たちを直接襲ったりはしていませんでした! 倒していたのは魔物ばかりでしたし……」
「確かに……言われてみればそうだな」
シバリアが顎に手を当てて考え込む。
「街の中で暴れ回ってはいたが、あれは魔物を追って暴走していただけだ。住民に直接手をかけるような素振りは見せなかった。ただ、本人があまりにも不器用で粗暴すぎるせいで、周りから誤解されている節はある」
「誤解というか、あの態度の悪さじゃ自業自得な気もするがな……」
俺はため息をついた。 だが、胸の中のモヤモヤとした引っかかりは消えなかった。
魔王軍幹部サルガタナスへの反発。 組織から追われ、悪魔族からも人間からも敵視され、孤立無援のまま強がり続ける赤髪の少年。
(あいつ……一人で魔王軍の追手とやり合うつもりなのか?)
強大な力を持つ幹部サルガタナスに、ブラッドのような単細胞の悪魔が勝てるはずがない。このまま放置すれば、遅かれ早早かれサルガタナスの部下に捕まり、消されるのは目に見えていた。
「ルシフェルさん……」
ノエルが静かに俺の顔を覗き込んできた。
「あの男の子……ブラッドさんを探しに行きませんか? 怪我もしていましたし、魔王軍に狙われているなら危険です」
「……ノエル、お前は本当に優しいな」
俺は苦笑しつつ、刀の柄に手を置いた。
「まあ、サルガタナスに一泡吹かせて逃げ出してきたっていうなら、あいつはサルガタナスの潜伏先や戦力を知ってるかもしれない。情報を聞き出すためにも、見失うわけにはいかないな」
「ふっ、素直に助けたいと言えばいいものを」
シバリアがニヤリと笑いながら大剣を背中に担ぎ直した。
「よし、決まりだな! あの威勢だけのツンデレ悪魔を探しに行くとしよう。怪我をして遠くへは行けないはずだ。街の外れを中心に探すぞ!」
「ツンデレって言うな、シバリア……」
俺たちは顔を見合わせ、軽く苦笑いを交わすと、ブラッドが逃げ延びたであろう夜の街の外れへと歩き出した。




