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第7話:廃教会の地下(第4編/全5編) 【視点:混ざり合う視点(ルシフェル/シバリア/ネビロス)】

第7話:廃教会の地下(第4編/全5編) 【視点:混ざり合う視点(ルシフェル/シバリア/ネビロス)】


【1】


「ケケケケッ! 出でよ、私の愛しい試作品(キメラ)ども! この上等な検体たちの肉を削ぎ、骨を砕いて私のもとへ捧げよッ!」


大魔族ネビロスの狂気に満ちた叫びとともに、床に叩きつけられた薬品瓶から紫色の毒煙が爆発的に噴き出した。


ゴボゴボと泡立つ不気味な試作薬の臭いが、地下大聖堂の空気を汚染していく。 暗がりから姿を現したのは、先ほどまでの下級キメラとは比べものにならない巨躯を誇る二体の変異体だった。


一体は、岩石のような甲殻と三本の太い腕を持つ「三腕の巨岩キメラ」。 もう一体は、巨大な鎌のような両腕を持ち、肉体が半透明の毒霧で覆われた「毒鎌の暗殺キメラ」。


二体の変異体は、ネビロスの魔力に煽られるように赤く濁った眼球をギラつかせ、鋭い咆哮を上げながら侵入者たちへと躍り出た。


「チッ……! 趣味の悪い化け物を次から次へと出しやがって!」


シバリアが巨大な大剣を両手で深く構え、前に一歩踏み出した。


「ルシフェル! あの三本腕の岩の塊は俺が引きつける! 押し潰されんよう大剣の重みで足を止めてやる! お前はあの毒鎌のすばしっこい奴と、奥で高みの見物を決め込んでる仮面野郎を叩き潰せ!」


「……頼む、シバリア」


ルシフェルは前髪の隙間から、冷ややかに白銀の刃先を突き出した。 彼の右腕は依然として胴体へ固く縛り付けられたままだが、左半身を前に滑らせる立ち姿には一切の揺らぎがない。


「ノエル様! 俺の背中から離れるなよ!」


「はい……! 風の精霊よ、護りの風を……『ル・シールド』!」


ノエルが胸元の聖印を掲げ、シバリアとルシフェルの周囲に柔らかな緑色の風の障壁を展開する。


【2】


「グオォォォォンッ!!」


三腕の巨岩キメラが、地響きを立ててシバリアへと突進した。 三本の丸太のような腕が、巨大な丸木を振り下ろすような勢いで叩きつけられる。


「オオオアァァァッ!! 舐めるなよ化け物ォッ!!」


シバリアが大剣を横一文字に払い、正面からその強打を受け止めた。 ガキィィンッ!! と重厚な鉄の打撃音が響き、石畳が粉々に砕け散る。 シバリアは強烈な衝撃に足を踏み留まらせ、筋肉を隆起させながら大剣の背で三本腕の攻撃を押し返してみせた。


「ルシフェルッ! 今だ、行けぇッ!!」


「……ああ」


シバリアが作った一瞬の隙。 ルシフェルはその横を、風を切る音すら残さずにすり抜けた。


「ケケッ! 片腕の分せいで死角だらけの人間が、この私に届くと思っているのかねぇ!?」


高台の実験台の上から、ネビロスが嘲笑う。 その指示に応じるように、半透明の毒霧を纏った「毒鎌の暗殺キメラ」が、目にも留まらぬ速度で滑空し、ルシフェルの右側——動かない右腕の側へと死角から忍び寄った。


キィィンッ! と鎌が空気を切り裂く音。 右側からの完全なる不意打ち。死角を突く無慈悲な一撃。


「ひひっ! もらったぁッ!」


ネビロスの歓喜の叫び。


だが。


(右からの死角……沖田の見切りにおいて、最も誘い込みやすい筋)


ルシフェルの頭脳は、恐ろしいほどの静寂を保っていた。 脳蓋の奥底で脈動する前世の天才・沖田総司の凄惨な記憶。 右腕を奪われ、死線の中で刺客どもを引きつけては切り伏せてきた「極限の見切り」が、ルシフェルの左足を完璧に駆動させる。


【3】


ルシフェルは右側の死角から迫る毒鎌を、回避しようとはしなかった。 むしろ、鎌の刃先が頬の皮膚をかすめる数ミリの距離まで引きつける。


「な……避けない……!?」


ネビロスの驚愕の声。


そのコンマ一秒の瞬間。 ルシフェルは左足を軸にして、身体をくるりと反時計回りに半回転させた。


旋回。 右腕のない右半身を空転させ、毒鎌の刃を虚空へと叩かせると同時に、その旋回の推進力とノエルの風の加護を、左手に握る「古びた鉄の剣」へと完璧に収束させる。


体内に潜む魔力が爆発的に解放され、ボロ剣の刀身が過熱した白銀の光芒とドリル状の風の旋風を纏う。


——『天稟・旋回風閃(せんかいふうせん)』。


ズバァァァンッ!!


空間を引き裂くような凄まじい一閃が、地下大聖堂を光で満たした。


「ガハッ……!?!?」


すれ違いざま。 毒鎌の暗殺キメラの首元が、旋回の一閃によって深く切り裂かれた。 風の回転力が毒霧を吹き飛ばし、硬固な首骨を内側から粉砕する。 暗殺キメラは悲鳴をあげる暇すらなく、頭部を吹き飛ばされてドサリと床へ倒れ込んだ。


「なっ……私の最高傑作が一瞬で……!?」


高台でネビロスの金属仮面が激しく揺れ動く。


ルシフェルは旋回の勢いを殺さず、そのまま左足を一歩、滑るように地へと踏み込んだ。 その見据える先は、狼狽する大魔族ネビロスの喉笛ただ一つ。


「ネビロス……サルガタナスの居場所を吐け」


白銀の気配と風の翼を纏った片腕の天才剣士が、狂気の魔族へと向かって最速の突進を開始した。


(第7話・第4編 完 / 第5編【全体視点】へ続く)

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