第5話:初めての魔法(第5編/全5編) 【視点:全体視点(交易都市への到着と新たなる確信)】
第5話:初めての魔法(第5編/全5編) 【視点:全体視点(交易都市への到着と新たなる確信)】
【1】
夕暮れの赤金色の光が、広大な草原と雄大な「黒竜の山脈」の山肌を優しく染め上げていた。
風が渡るたび、黄金色に輝く草並みが寄せては返す波のように揺れ、その中を三つの影が静かに影を引いて歩んでいる。
先頭を行くハーフエルフの少女・ノエル。 その隣で巨大な大剣を肩に担ぎ、周囲への警戒を怠らない元盗賊の大剣士・シバリア。 そして、彼らから半歩引き、右腕を厚い布切れで胴体へと固く縛り付けた片腕の青年・ルシフェル。
「着きましたね……ここが、黒竜の山脈の麓——交易都市ルクセンです」
ノエルが立ち止まり、感無量といった面持ちで眼前に迫る巨大な建造物の群れを見上げた。
視界を遮るようにそびえ立つのは、幾重もの重厚な石造りの外壁。 門の周辺には、世界各地から集まった商人たちの馬車や、異形の武器を携えた冒険者たち、そして旅人たちの行列が絶え間なく続いており、活気ある喧騒がここまでかすかに風に乗って届いていた。
「へっ……大層な城門だ。これなら下級魔族や野盗の群れ程度じゃ、爪の一本も引っかからねえな」
シバリアが豪快に鼻を鳴らし、背中の大剣の柄を叩いた。
「だが、油断は禁物だぜ。人が集まる場所ってのは、魔物以上に厄介な人間どもの欲望と悪意が渦巻いてる。特にノエル様のような美人のハーフエルフや、ルシフェルのような目立つ傷病者は、怪しい奴らに狙われやすい」
「分かっています、シバリア。……ですが、ここならきっと情報が得られるはずです」
ノエルは胸元の聖印を握り締め、隣に立つルシフェルへと視線を向けた。
【2】
「……情報、か」
ルシフェルは前髪の隙間から、夕日に照らされる都市の城門を冷ややかに見つめていた。
村が焼かれ、右腕を手首ごと握り潰され、愛する少女・リコリスを奪われたあの凄惨な惨劇の夜。 絶望の暗闇の中で覚醒した、幕末の天才剣士・沖田総司の記憶と『天稟』の才。 そして先ほどの戦いで、初めて己の左手に宿った『風の魔法』。
理不尽な運命によって片腕を奪われた青年は、泥を這い、死線を潜り抜ける中で、着実に「大魔族を切り裂くための翼」を手に入れつつあった。
(リコリス……待っていてくれ)
脳裏に刻まれた、深紅の髪の大魔族・サルガタナスの冷酷な金色の瞳。 そして、禍々しい魔法陣の光の中に呑み込まれ、涙を流しながら消えていった愛しい少女の面影。
胸の奥底で脈動する「黒い執念」は、いまや一過性の怒りではなく、静かに研ぎ澄まされた氷のような白銀の刃へと昇華していた。 相手がどれほど強大な魔王軍であろうと、世界の理がどれほど歪んでいようと関係ない。 この左手の一刀と風の一閃で、立ちふさがる敵をすべて切り伏せ、リコリスを必ず奪い返す。
「行きましょう、ルシフェルさん」
ノエルが優しく、しかし確固たる声で彼に語りかける。
「まずは街に入り、体を休められる宿と、傷を診るための薬草を確保しましょう。そして……サルガタナスたちの足取りと、山脈を越えるための情報を集めるのです」
「……ああ」
ルシフェルは静かに頷き、左手に握られたボロ剣の鞘を確かめた。
白銀の光芒と風の気配は、刀身の中に静かに深く潜んでいる。 だが、その芯には決して消えることのない誓いの熱が宿っていた。
【3】
ギィィ……という重苦しい音を立てて、城門の鉄格子が開き、三人は活気と熱気に満ちた都市の中へと足を踏み入れた。
石畳の路地、飛び交う露店商の声、交錯する多種多様な種族の熱気。 人間界と魔界の境目である「黒竜の山脈」の目前に位置するこの交易都市から、彼らの旅は新たなる局面へと進み出そうとしていた。
ハーフエルフの姫・ノエル。 元盗賊の大剣士・シバリア。 そして、前世の天才の記憶を宿し、片腕で風の刃を振るう天才剣士・ルシフェル。
出逢うはずのなかった三人の絆は、歪んだ世界『クレイジーワールド』の深遠なる暗雲を切り裂くべく、確かな力となってこの大地に刻まれていた。
夕闇が迫る街の雑踏の中、ルシフェルの一歩が、次なる死線と出会いへの道標となって、力強く踏み出されていくのだった。
【第5話:初めての魔法(全5編)完】 【第1章:旅立ちと誓い(第1話〜第5話/全25編)完】 (第6話:盗賊団の奇襲 へ続く)




