七話 絶望少女と帝国軍人
扉を半開きにして覗き込んでいるグエンさん。
多分私に対して配慮してくれたのかもしれないけど、別の意味で怖い。最後私を助けてくれた人だと分かって拒絶反応はあまり出ないけれど。
「はぁ。アイツ・・・ごめんなさいね。一応悪いやつじゃないから」
「えっと、はい。大丈夫です」
「それで何だったかしら」
「私が奴隷になった理由ですよね」
話してもいいのだろうか?
また、汚物を見るような目で見られないだろうか。
不安な気持ちに苛まれる。
でも、私はこの人を信じてみたい。
「ふぅふぅ・・・わ、私は・・・こ、この世界の人じゃありません。異世界から召喚されました」
「・・・続けて」
深刻な顔をするサシャさんに私はこれまでの事を話していく。召喚されたこと。呼び出された先で同じ召喚者と皇国の人間に奴隷として売り払われて殺されかけた事。そして、逃げて此処まで来たことを。
サシャさんの顔を見れなくて俯きながら必死に話す。
それを黙って聞いてくれる。
一通り話した私はゆっくり顔をあげた。サシャさんの私を見る目は変わってなかった。
「いくつか聞かせて?」
「はい。何でしょうか」
「異世界から呼び出された二人、それと貴方は多分スキルを持っているはず。貴方が逃げられたのはそのスキルのおかげだと思うけれど合ってる?」
異世界召喚はあるのかやっぱり。
皇国だけが持っている秘術の可能性もあったけれどサシャさんが知っていると言うことは、ある程度知られた技術なのだろう。
「叶、男の方は『剣聖』で女の方は『聖女』でした。私は・・・私は『PrismForge』です」
「剣聖に聖女・・・あの馬鹿皇国め」
私の能力を聞いても見下すような目を向けないサシャさん。
「あの?聞いてもいいですか?異世界召喚はよくあるんですか?」
「無いわよ。そもそも禁忌だから異世界召喚は。と言っても昔、実際に召喚された人間はいるのよ」
やっぱり居るんだ。
でも禁忌?
「禁忌ですか?」
「えぇ。過去召喚された『剣聖』スキルを持っている英雄が異世界召喚は禁忌として、二度と使うなと各国に宣言したから」
呼ばれたくもないのに、無理やり呼び出されたのだろう。過去に呼ばれた人もきっと新たな犠牲者が出ない様に各国に働きかけてくれたんだ。
――でも皇国はそれを破った。
「そうなんですね・・・」
「えぇ。それで、貴方の能力は?どんななの?」
暗い話を紛らわすようにサシャさんは明るく振る舞いながら訪ねてくる。
彼女になら話してもいいと思い、私は自身の能力を話して、証明する為にサバイバルナイフを一つ作って手渡す。
「これ!?凄いわね・・・かなりしっかりした作りだし」
「治療してくれたお礼に差し上げます」
二つ持ってても意味ないし。
「良いの?ならありがたく貰っとくわね・・・グエン」
「はいよ」
ポーンと扉の隙間から丸い鉄製の物を投げるグエンさん。それを受け取ったサシャさんが私に手渡してくる。
なんだろうか?
皇国で見た鑑定石とも違うし。
「ごめんなさいね。私達は貴方の事を信用している。でも、私達は一応帝国騎士団第一軍団に所属している軍人でもあるの。だから、貴方の事を対外的に信用させる為に、これを使わせて」
「これは、えっと何ですか?」
申し訳なさそうな表情を見て、悪い物ではないだろうと思って素直に受け取ったけれど。それに助けてくれた恩もあるので可能な限り協力するつもりでもある。
「これは記憶媒介。使用者に起きた数日間の記憶を読み取り記憶する。それを使えば貴方に起きた出来事が映像として確認できるの」
現代の日本でもこんなの作れない。
こういう所は日本より進んでいるんだ。
「わかりました。大丈夫ですよ」
念じれば良いのかな?
受け取っても反応が無い。
「ここの真ん中にあるボタンを押して。そうすれば起動するから」
「ここですか?」
言われた通りに押すと淡く光る球体。
特に痛くも無く、何か変な感じもない。
暫くして光が収まると、元の無機質な球体に戻ったのでサシャさんに手渡す。
「ありがとう。これは預かっておくわね」
預かると言いつつ、扉の隙間から覗いているグエンさんに手渡すサシャさんは「アンタ、勝手に見たらぶっ飛ばすから」と念押しして扉を閉めて振り返る。
「さて、難しい話はおしまい」
「あの・・・私はこのあとどうなるんですか?」
ずっと気になってた。
逃げ出せたとはいえ、私は一文無しだ。
この後ずっと此処に居ることも出来ないし、不安が募る。
「まずは治療が優先。後のことは私に任せなさい」
「でも、迷惑じゃないですか?」
治療だけでも大変だろうし、お金もかかる。
「迷惑じゃないわよ。それに、私は帝国軍人って言ったでしょ?さっきの記憶媒介と貴方は帝国にとって貴重な証拠になる。」
「証拠・・・あ、禁忌」
「そういうこと。まっそれが無くても助けたけれど」
皇国が私を殺そうとした理由が分かった。
自身が世界のルールを破ったんだから、私が何処かに流れたら困るんだ。じゃあ、あの時、仮に叶が言わなくても・・・皇国から出ようとしたら私は殺されていた。
皇国からしたら、私は猛毒なんだ。
「こーら。眉間に皺寄せて、今は治すことだけ考えなさい」
「サシャさん。あのもう一つ聞いても良いですか?」
もう一つ大事な事。
正直聞きたくない気持ちもある。
「何かしら?なんでも聞いて?」
「私は日本、元の世界に帰れるのでしょうか」
私を見るサシャさんが優しく頭を撫でて安心させてくれる。
「えぇ。少し時間は掛かるでしょうけど。帰還の紋章を使えば帰れるわ」
帰還の紋章、あれは皇国の言ってた出まかせでは無かったのか。
少しだけ希望が見えて安堵する。
「と言っても、今帝国に帰還の紋章は無いんだけど。必ず私達が見つけてあげるから」
「ありがとうございます」
礼をする。頭を下げるだけでは彼女には足りないくらい、恩を感じている。いつか、この恩は必ず返したいと強く思った。




