三話 絶望少女の逃避行―3
肺が潰れそうだ。
全力疾走を続ける。後ろから声は聞こえない・・・でも少しでも遠くに逃げないと。
その意志だけで私は走り続けていた。
いい加減、裸足で痛い。
(追いかけてくる音は聞こえない)
「はぁはぁっげほっ!げほっ・・・おえっ」
何とか一先ずは助かったの?
―― 大丈夫音は聞こえない。
(でも、ここはどこ?)
城と反対方向に逃げたのは憶えてる。
山の中って事だけは分かるけど。そもそも、この世界は魔物?みたいなのはいるのだろうか。
(もし、いたら終わりだよね)
バクバクと早い鼓動をする心臓を抑えながらヨタヨタと、ゆっくり歩く。
少しでも遠くに逃げないと・・・その一心で。
「・・ひぃ!」
ガサッと茂みから音がしてビクリと体を震わせる。
(う、兎か・・・よかった)
ぴょこんと一羽の兎が私を見て慌てて逃げていく。
―― 今の私は兎より弱いかもね。
「お腹空いた・・・喉も乾いたし」
こんな事なら、もっと一杯食べておけば良かった。
お母さんの料理が食べたい。
「はぁはぁ・・・ダメっ思い出すなっ」
ブンブンと首を振って嫌な事を忘れるように努めた。
少しでもネガティブな事を考えると途端に頭の中で幻影が見える。
私を嗤いながら殺す兵士や叶達の幻影が。
―― 先ずはこの国から出ないと・・・地図も無いし、何処に向かっているかも分からないけど。
出来るなら、この国と敵対している国が良い。
そこで、保護―――いや、保護してくれるなんて保証はないから、せめて密入国でも良いから敵対国に行くのが良い。
「『憎き帝国』と言っていたくらいだ。多分、そこなら少なくとも手を出せないんじゃないか?」
それに、帝国には帰還の紋章だか何だかがあると言っていた。
嘘だと思うけど、もし本当なら日本に帰る為にも帝国に行くのは悪くないと思う。
岩肌に足を掛けながら慎重に登っていく。
この先に運よく帝国があれば良いのだけれど、そんな運が良い事なんてないだろう。
―― そもそも城。多分あそこは首都だろう・・・だとすると、帝国とはかなり離れた位置にあると思う。
「情報を集める為にも、まず村とか、なるべく兵士に見つからない場所をさがそう」
◇◇◇◇◇
・・・あっ。
気付いたのは日が明け、朝日が差し込んできた時だった。
あれから暫く歩き続けて、疲れて休憩したらどうやら眠ってしまったみたいだ。
(早く逃げないとなのに寝ちゃうなんて)
ヨタヨタと立ち上がる。
幸い、寝てる最中は特に何もなかった様子でひとまず安堵した。
「そうだ、スキル」
スキルは使えるようになっているのだろうか。
1日一回と書いてあったし、単純にその日の内に一回なら、多分もう使えるようになっているよね?
(使えるなら靴とか?服は・・・論外)
出来ればこの際、車とか・・・は無理か。
そもそも車は武器じゃないし、運転なんて出来ない。
自転車とかでもと思ったけど無理だろうなぁ。
試しに念じてみたけど、やっぱり出てこなかった。
今は少しでも早く逃げれて、生存率が上がるものがいい。
足元を見ると既に足は傷だらけで見るのも嫌になるほどだった。
「靴、履いても意味ないね・・・もう痛みも感じない」
ペタペタと足踏みしながら愚痴る。
空ちゃんなら、どうしたかな。
彼女の朗らかな笑い声を思い出して泣きそうになる。
生きて彼女にも会いたい。
彼女のおかげで今、自分はこうして諦めることなく逃げることができているのだから。
『ねぇねぇ?無人島に持ってくならって奴あるじゃん?ゆうちゃんは何持ってく?』
『あー、一つだけ持ってくならってやつでしょ?私はライターだね』
『ふふんっダメダメだねっ!火があってもゆうちゃんじゃ狩りとか出来ないし』
―― そんな話もしたっけ。
確かあの時、空ちゃんは。
『ガチならサバイバルナイフ一択だね。あんなチートアイテムこの世に存在していいのってくらい最強だね』
(信じるよ空ちゃん)
爆弾を出した時のように必死に願う。
ポトリと目の前に出てくるサバイバルナイフ。
昔見たサバイバルナイフだ。
空ちゃんが力説していたそれを拾う。どういう仕組みなのかは分からないが、ちゃんと持ち運びできるように、ベルトタイプの収納も着いていて、腰に巻き付け、布服で隠す様に仕舞う。
もし、兵士に見つかったとして、私の力では多分、武器を持っていても意味は無いかもしれないけれど、こうしておけば不意は付けるかもしれない。
そうだ。ナイフがあるなら。
近くに丁度よさげな木の枝があるし、杖が欲しい。
片手で時間が掛かるけれど、歩くときに杖があるのと、無いのとだと大違いだと思う。
時間は掛かったけれど、杖を作って、歩き出す。
やっぱり、杖があるだけで、少し楽になるね。邪魔になったら捨てるしかないけど、今は少しでも体力を温存したいし。
でも、私は何時まで逃げれば良いのだろうか。




